障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

22年6月21日更新

2022年「すべての人の社会」6月号

2022年「すべての人の社会」6月号

VOL.42-3 通巻NO.504

巻頭言 点字公報の法律的位置づけを

JD理事 内田 邦子

 今年の7月、参議院議員選挙があります。JDでは、障害者の選挙、投票行為について調査し、問題となる事例をまとめ、行政に要請しているところです。そこで、ここでは、点字の選挙のお知らせについての問題点などをご紹介したいと思います。

 日本は、世界で初めて点字投票が実施された国です。1925年、衆議院選挙法改正により、点字が文字として認められ、同年、地方選挙においても点字投票が認められました。そして、1928年の衆議院選挙において、実際に5428票の点字投票があったそうです。

 戦後には、1953年に京都府盲人協会(当時)が衆参両院議員選挙に際し、候補者名簿を発行し、1963年の衆院選挙から「点字毎日」が「選挙のお知らせ」(選挙公報の簡略版)として発行されるようになりました。

 1981年の国際障害者年を経て、視覚障害者団体は「全文点訳の選挙公報」を求めて運動を続けていました。しかし、国は認めず、日本盲人社会福祉施設協議会の点字出版部会は、現状打開に向けて、2000年4月、全国の748選挙管理委員会を対象にアンケート調査を実施し、2002年6月、点字出版部会は視覚障害者向け選挙公報の発行実現に向けて本格的に取り組みを始めました。

 視覚障害者情報提供施設(88点字図書館と、29点字出版所)を対象にアンケート調査を実施し、以下の方向が示されました。選挙期間内で全国の公報を発行することはできないので、複数の施設のプロジェクトチームで共同製作する(約25施設)、さらに、点字版の発行が法的に認められていないので、毎日新聞社の了解のもとで、発行名を『点字毎日号外 選挙のお知らせ』とすることで現在に至っています。

 こうした流れの中、問題点としてまず挙げられるのは、自治体で点字有権者名簿が整えられていないことです。録音版・拡大文字版を併せても、8万部程度であり、点字版でいうと、5万部程度の発行数であり、視覚障害有権者の16%にしか届けられていない現状があります。

 また、活字版とは異なり、法的に「点字選挙公報」としては位置づけられていないので、民間が作成するものを、選管が啓発資料として買い上げて配布する方式をとっています。本来は、障害者権利条約第29条「政治的及び公的活動への参加」に明記されているように、国が「点字版選挙公報」として、発行しなければならないのではないでしょうか。

 

平和な社会にしていくために―人間としての尊厳、人権が守られる社会に―
―第11回総会議案書『はじめに』より―

 集まること・つながること・行動することの三要素を大切にしている日本障害者協議会(JD)だが、COVID-19(新型コロナウイルス)の感染拡大の影響によって一堂に会することが難しくなり3年目となった。会議や集会はオンライン開催が中心となり、距離や移動に困難が伴う人との壁は低くなったが、直接対面できない歯がゆさもある。収束時期が見通せない中で、新型コロナがあぶり出す日本社会、障害者福祉の課題も明らかになってきた。格差の拡大、医療崩壊、精神科病院でのクラスターの多発等々、公衆衛生活動を後退させ、さまざまな社会サービスを市場に委ね、公的責任を狭めてきた結果でもある。社会的に弱い立場の人たちへの負の影響ははかりしれない。

 新型コロナへの対応に目が奪われている一方で、憲法改正への準備が粛々と進められていることも気がかりだ。日本国憲法施行75年を迎える本年、改めて憲法の大切さを噛みしめたい。

 2022年夏、日本は国連障害者権利委員会による障害者権利条約の履行状況について審査を受ける。そこで出される総括所見の生かし方が問われる。日本社会が、障害の社会モデル/人権モデルを受け止め、そこに向けて動き出す1年になるようにさまざまな働きかけを行なっていく。

1.平和で安心して暮らせる社会へ
 2022年2月のロシアのウクライナ侵略による戦争で、多くのいのちが戦火の中、失われ、心身を傷つけられ、400万人を越える人々が国外に避難している。世界中から"NO WAR!"の叫び声があがる。JDは、2月28日に緊急声明「ウクライナへの軍事侵攻は即時停止を、戦争反対です」を発出し、「障害発生の最大の原因は戦争による暴力」「戦争と障害者の幸せは両立しない」と訴えた。藤井代表は、詩「連帯と祈り ウクライナの障害のある同胞(はらから)へ」を詠み、ウクライナ語を含む7か国語に翻訳し、SNSなどで発信した。避難が困難、支援物資が手に入りにくいなど、いのちの危機にさらされているウクライナの同胞たちへ「生き延びてほしい」という切実なメッセージだ。

 東日本大震災から11年が経過した。この間、自然災害は頻発している。東日本大震災での障害のある人の死亡率が全住民の死亡率の2倍という結果を国や自治体はどう受け止め、その後の災害対策をどのように講じてきたのか。今般の感染症対策でも障害のある人の特性への配慮は不十分だった。
代表談話「3.11東日本大震災から11年 あらゆるいのちを尊重できる社会を」

 沖縄返還50年という節目の年となる。沖縄戦は多くの市民のいのちや暮らしを奪い、今に至る長い年月にわたり、沖縄の人々を苦しめている。50年を経ても本土との格差は埋まらないままだ。平和の尊さを沖縄から学びたい。

 災害や戦争といった非常事態での弱い立場に置かれる人々の状況に思いを馳せ、障害者権利条約第10条「生命に対する権利」、第11条「危険な状況及び人道上の緊急事態」を読み返す必要がある。日本をはじめとする締約国には、障害ゆえの不利益を絶対に許されないことを伝え、国を越えた障害関係団体の連帯をこれまで以上に強めていきたい。

 また、2016年の津久井やまゆり園事件を決して風化させてはならない。

2.「他の者との平等」の実現に向けて-人権侵害を訴える裁判
 優生保護法被害裁判は、各地裁では原告側の主張が認められなかったが、大阪高裁判決(2022.2.22)、東京高裁判決(2022.3.11)では、優生保護法の憲法違反を認め、除斥期間(被害を受けてから20年)の壁を突破した。東京高裁判決では、憲法違反の法律によって生じた被害救済に対し、憲法よりも下位にある民法724条の適用は誤りであると断じた。しかし、国は2つの高裁判決に対し上告し、高齢の被害者に対する人権侵害を重ねる結果となっている。JDは、優生保護法被害裁判に勇気をもって立ち上がった原告を応援し、被告である国が、誤りを認め、被害を受けたすべての人々に対する人権侵害を謝罪し、全面解決に向け、速やかに決断することを求め続けていく。

 介護保険優先原則をめぐり岡山地裁で闘った浅田訴訟では、高裁においても原告の訴えが認められたが、千葉地裁での天海訴訟は、保険が公的負担に優先するとして棄却され、高裁での裁判が続いている。また、障害のある人も原告となって闘っている生活保護基準切り下げ裁判(いのちの砦裁判)、JRの駅無人化問題を問う大分地裁での裁判、精神科病院での長期収容政策を憲法違反として訴えた裁判など、いずれも人間の尊厳を問い、人権を守るための闘いである。人権侵害を決して許さず、原告を応援していく。
優生保護法訴訟大阪高裁判決に対する声明
優生保護法訴訟東京高裁判決に対する声明
詩「訣別」ふじいかつのり作

3.基本合意・骨格提言に沿った障害者総合福祉法の制定を
 社会保障審議会障害者部会で障害者総合支援法改正に向けた議論が進められている。2021年度のJD連続講座では、「あらためて障害者総合福祉法の制定を求める」と題して、骨格提言を学び直し、障害者総合支援法の課題・問題点を共有した。そして、2021年12月にまとめられた同部会の「中間整理」を踏まえ、JDは、障害者総合支援法改正法施行後3年後の見直しに対する第一次意見を発表した(2022.3.15、第3回連続講座にて)。法改正に向けた議論の背景には、政府の進める「全世代型社会保障システム」があり、財政縮減を意図した福祉・医療・保健制度の再編があると指摘した。障害者総合支援法の前身である障害者自立支援法には障害を自己責任とする考え方が内包されており、今回の改正では、財政問題を背景とした障害福祉サービスからの「卒業」という政策意図に危機感をもっている。

 これまでの議論には、制度の骨格に関わる検討が行われておらず、国(厚生労働省)と障害者自立支援法違憲訴訟団との「基本合意」(2010.1)、障害者権利条約を基本に検討されてきた「障がい者制度改革推進会議総合福祉部会」による「骨格提言」(2011.8)に沿った検討を求めていく。

 明るい兆しがあるとすれば、他の者との平等を図る上で重要な役割を果たす基幹統計「社会生活基本調査」の結果が今秋明らかになることだ。この調査結果をどう生かすのか、本年度の重要な課題である。

4.この国の社会保障の行方を注視していくこと
 現在進められている「全世代型社会保障構築会議」では、「人への投資」の観点から、男女が希望どおりに働くことができる社会づくり・子育て支援、勤労者皆保険、家庭における介護の負担軽減、地域共生社会づくり、医療・介護・福祉サービスが挙げられている。国が社会保障に「投資」という言葉を用いることに強い違和感がある。投資という以上、「リターン」を求めているのだろうと考えざるを得ない。つまり、人々が生産性を上げていくための環境整備を行うということなのではないか。ここで示されている「全世代」の中に、障害のある人の姿が見えてこないことに一定の説明がつきそうだ。自助・共助・公助、そして自己責任を追及してきた政府の姿勢を考えると、全世代型社会保障の目指すところが見えてくるのではないか。今後の動きを注視し、警鐘を鳴らしていきたい。


2022年5月の活動記録


私の運動の軌跡と『障害のある人の分岐点』

建築学生から社会環境を見つめた40年 -建築環境がすべての人々の社会づくりにかかわること-
 八藤後 猛(日本大学理工学部まちづくり工学科特任教授)

緊急報告

ウクライナの人々の現状と支援 -障害のある人のいま-
大室 和也(難民を助ける会 [AAR Japan])

投票バリアフリー  

ひとりの有権者として尊重してほしい ―肢体障害のある人の投票行動をめぐって―
小森 淳子(全国障害者問題研究会岐阜支部)

連載 優生思想に立ち向かう 第33回

全国初! 明石市優生保護法被害者支援条例 ―全面解決を求める声をさらに大きく―
尾上 浩二(DPI日本会議副議長)

連載 家族も自分の人生を歩む 家族依存・家族支援を考える 第9回

当たり前の暮らしって? 誰もが自分の人生を歩んでいいと思えるために
西田 良枝(パーソナル・アシスタンス 理事長)

連載 このままでいいのか! 障害者総合支援法 ①

居住(グループホーム)の問題
塚本 洋平(全国福祉保育労働組合
東海地方本部 副執行委員長)

連載 COVID-19のインパクト 第18回

アジアから:場面別3 -外食-
佐野 竜平(日本障害者協議会理事 
法政大学現代福祉学部教授)

連載エッセイ 障害・文化・よもやま話 第32回 寄り道篇

受賞のご挨拶
荒井 裕樹(二松学舎大学准教授)

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