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22年6月16日更新

障害者総合支援法改正法施行後3年の見直しに対する第一次意見

 障害者総合支援法改正に向けて社会保障審議会障害者部会で出された「障害者総合支援法改正法施行後3年の見直しについて 中間整理(2021年12月16日)」に関してJDは第一次意見をまとめ、連続講座2021第3回(2022年3月15日)にて公表しました。

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障害者総合支援法改正法施行後3年の見直しについて 中間整理(厚生労働省ホームページ)

2022年3月15日

障害者総合支援法改正法施行後3年の見直しに対する第一次意見



認定NPO法人日本障害者協議会(JD)
代表 藤井克徳

 社会保障審議会障害者部会において障害者総合支援法改正のための議論が続けられており、同部会は「中間整理」(昨年12月)をまとめた。その背景には政府が進める「全世代型社会保障システム」があり、財政縮減を意図した福祉・医療・保健制度の再編を推し進めようとしている。その流れは、20年以上前から少しずつ進められてきた。障害者総合支援法の前身である障害者自立支援法には、障害を自己責任とする考え方が組み込まれ、今回の法改正では財政縮減の意図が散見され、障害福祉サービスからの卒業といった考え方も背景にあるのではないか。そうした動向に危機感をもつ本協議会は「中間整理」には、制度の骨格に関わる検討が不足していると考え、1.法改正にあたって検討すべきこと、2.「中間整理」への意見、の2点について、意見をまとめた。(意見書ではその要点を示し、詳細は説明参照)
 本来、障害者総合支援法の成立とその改正の経過から、法の改正は、国(厚生労働省)と障害者自立支援法違憲訴訟団との間の和解文書である「基本合意」(2010年1月)、障害者権利条約を基本に検討されてきた「障がい者制度改革推進会議総合福祉部会」による「骨格提言」(2011年8月)に沿った検討こそが重要である。障害者総合支援法制定時に厚生労働大臣は国会答弁で「骨格提言をすべて反映できればよかったが、財政問題などもあるので、残された課題は段階的、計画的に実施してゆく」(要旨)と約束している。
 したがって、今回の改正では、障害者権利条約の求める社会モデルの実現を目指し、公的責任を明確にし、基本合意、骨格提言を踏まえた検討を行うことが必須である。

1.法改正にあたって検討すべき基本的なこと

1)利用者負担
 障害児の場合の親の負担、成人の場合の配偶者の所得による利用者負担、自立支援医療や補装具に伴う自己負担などの抜本的な見直しを検討すること。

2)日額払いの報酬制度と常勤換算方式
障害のある人を支援する事業所が、支援の質を担保するためには、日額・利用件数ベースの報酬制度では、各事業所の不安定経営は好転しない。従事者の労働条件確保のために報酬支払い方式・常勤換算方式の抜本的な見直しを検討すること。

3)介護保険優先問題
 障害者総合支援法第7条「介護保険優先原則」による65歳問題は深刻であり、介護保険サービスが障害者福祉に「相当する」とするのは困難である。国は一律に介護保険サービスを優先するものではないとするが、市町村の対応には格差がある。介護保険との関係を見直し、第7条改正を進めること。

4)法の対象者の範囲の見直し
 診断基準未確立の難病、聴覚障害・発達障害・知的障害などで支援ニーズはあるが障害者手帳の対象にならない人々への対応を検討すべきである。

2.「中間整理」への意見

1)居住支援 通過型グループホームについて
 新型コロナウイルスの蔓延の、障害のある人の暮らしの場への影響は深刻であり、感染症対応によって、さまざまな制限や人権侵害も発生し、暮らしの場を支える制度の脆弱性が露わになった。法改正にあたって新たな類型を検討する前に、既存の制度が有効に機能しているのか、まず検証すべきである。 また、障害のある人が希望する生活の場へ移行することや支援は必要だが、そのために新たなグループホームの類型は不要であろう。本来、サービス・事業に人を合わせるのでなく、人にサービスを合わせるべきであり、新たな類型ではなく、障害のある人のニーズに合わせた支援が行われていくことこそが重要である。

2)就労支援 新たな「就労アセスメント」について
 障害のある人が就労する際に、相談支援事業所によってアセスメントが行われている。改めて「ニーズ把握と就労能力や適性の評価」の制度化は、福祉的就労の利用抑制につながることが危惧される。慎重な検討が必要である。

3)地域移行について
 骨格提言で社会的入所・入院問題は放置できない社会問題と指摘されたが、ほとんど改善されていない。その要因は、精神科病院や入所施設任せであったことであろう。加えて重度訪問介護サービスをはじめとする各種居宅支援サービスの充実は必須である。そのうえで法改正を行い、市町村が長期入院・入所者の意向を把握し、必要な支援を行えるようにすべきである。

4)障害児支援
 サービスの質の確保、とくに子どものアイデンティティの保持・発展や意見表明権などを評価・監視する仕組みの強化が必要である。

説明 日本障害者協議会(JD)による障害者総合支援法改正法施行後3年の
見直し、および「中間整理」に対する意見について



1.法改正にあたって検討すべき基本的な問題について

1-3)介護保険優先問題
 「65歳問題」はますます多くの障害者にふりかかっている。現行の介護保険サービスが障害者福祉サービスに「相当」するとしていることに無理がある。障害者福祉サービスには、介護保険にはない「見守り」や「社会参加」というサービスがあり、若い時から障害の重い人にとっては、それらは重要なサービスである。介護保険は「自立した日常生活」のために介護・訓練・看護を提供するもので、社会生活の支援を含む障害者福祉とは目的だけでなく、家族責任や自立への訓練の責任、そして一律の利用者負担など多くの点で異なる。にもかかわらず乱暴に「相当する」とみなして介護保険優先原則を変えず、裁判等で批判を受けてはじめて市町村に、「一律に介護保険サービスが優先されるものではない」「個別の状況を丁寧に勘案」して支給決定するよう通知してきた。しかし「一律の対応をするのが行政である」との伝統が根強く残る中で、また財政負担を少しでも軽くするために、要介護認定で非該当になった場合のみ障害福祉サービスを継続するという市町村も多い。「中間整理」でも1月11日の第12回「定期協議」でも、厚労省は周知徹底を図るにとどまっている。
 介護保険との関係が見直されるまでの間、全国の市町村で介護保険の対象年齢となった利用者にどのような支給決定がなされたか、その理由や本人の納得状況などについて継続的に「調査、監視、公表」を行うべきではないか。

1-4)法の対象者の範囲
 支援ニーズのあるすべての障害者を対象とすることは、国の公正・公平な制度の要件である。
 厚労省は、2012年改正で「特殊の疾病」が対象化され、診断基準が確定した難病が含まれるようになったことで、この問題の幕引きとしているのではないか。しかし、社会保障審議会障害者部会のヒアリングでは、ひきこもり、対人トラブル、犯罪の加害・被害などを抱える成人の発達障害者等が福祉制度を適切に利用できていないと指摘され、例えば自立生活援助事業をひきこもりの人々にも拡大すべき、との提案があった。
 一方「難病等」を対象として10年近くたつが、障害福祉サービス利用者全体の1%にも満たない利用である。難病患者や関係医療機関に適切で継続的な周知(好事例の紹介を含む)がなされているかどうか。さらに筋痛性脳脊髄炎など一部の難病が、支援ニーズはあっても厳密な診断基準が未確立という理由で除外されている現状は、公正とはいえない。また、「固定的な」障害のある人に向けて作られてきた障害福祉サービスがこれらの人々にとって、内容面でも利用方法の面でも十分対応していない可能性もある。さらに、子どもと高齢の難聴者への補聴器費用補助制度が自治体で広がっているが、補装具の対象となる「聴覚障害の範囲」が狭すぎることが背景にある。  部会ヒアリングでは、厚労省「生活のしづらさなどに関する調査」で、「手帳非所持かつ自立支援給付など非受給」とされた人々のニーズ把握の重要性が指摘された。これらの人々は現在の障害者総合支援法の利用者130万人より多い約180万人と推計されている。このように「法の対象者の範囲」の問題は依然として大きな問題である。

2.「中間整理」への意見

2-1)居住支援
 「本人が希望する一人暮らし等に向けた支援を目的とする」「通過型グループホーム(GH)」の創設が検討されている。希望する生活の場への移行を支援することは重要であるが、そのために新しいGH類型が必要かどうかは疑問である。現状でもGHから一人暮らしなどに移行する例は多く、必要に応じてGH職員、相談支援専門員などが支援している。さらにこの支援は既存の自立生活援助、地域移行支援、地域定着支援にも期待される支援であり、これらをコーディネートする「地域生活支援拠点」の役割でもある。訓練等給付の「自立訓練(生活訓練)」の活用も可能である。全国で希望に沿った移行が実現できた例を分析し、教訓化し、普及するとともに、既存のサービスの改善や新たなサービスが必要かどうかを検討すべきであろう。いずれにせよサービスや事業に人を合わせるのではなく、人にサービスを届けることが重要である。
 2021年度報酬改定で、支援区分3以下のGH基本報酬が大幅に引き下げられ、これらの人の受け入れがGH運営上負担となった。支援区分の程度とGHの利用ニーズは必ずしも相関しない。にもかかわらず今回の通過型GH案は、支援区分の重度者を入所施設へ、中等者を現行GHへ、軽度者を通過型GHやアパートへと、支援区分で生活の場が決められる事態をさらに大きく進めることが危惧される。もちろん本人の選択による利用契約ではあるが、他にほぼ選択肢がなければ自由な選択とは言えない。これは「どこで誰と生活するかを選択する機会」を保障した障害者権利条約第19条、障害者基本法第3条、障害者総合支援法第1条の2に違反し、「中間整理」が基本とするはずの「当事者中心に考える」視点とも相いれない。

2-2)就労支援
 「就労支援」については、本協議会として、障害者権利条約27条「労働の権利、労働市場の開放、労働環境における無差別」の実現が重要課題と考えている。しかし、その達成にはなお時間を要するという認識に立ち、当面雇用施策と福祉施策の併用や連携が必要と考え、いわゆる「福祉的就労」という形をとっている労働現場での障害者の権利確立も求める。多くの障害者が働いている福祉施策の現場を労働・雇用の対象にすることも重要な課題である。
 中間整理では、民間企業の雇用者数の増加を評価するが、厚労省の「社会福祉施設等調査概要 サービス種類別に見た利用者数の推移」によると、2015年~2019年の5ヵ年比較で、就労継続支援A型事業は5万4千人から7万1千人(131%)、就労継続支援B型事業で20万4千人から26万5千人(130%)と、利用者が増加している。また、独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の「障害者の就業状況等に関する調査研究」によると雇用1年後の定着率は、発達障害者71.5%、精神障害者49.3%、知的障害者68.0%、身体障害者60.8%、厚労省の「雇用動向調査」の全常用労働者の平均定着率84%~86%と比較すると極めて定着率が低い。一般企業を退職し、施設を再利用する人も少なくない。これは雇用の質の問題であり、障害者が一般労働市場で働き活躍することの困難さを表している。一概に雇用率の増加を評価できない。
 また、就労継続支援事業(A型・B型)の趣旨・目的を「知識や能力の向上のための訓練等を実施する」としているが、低額に留まっていることは課題だが実際に賃金や工賃が支払われ、安心して働き続けられる場であることも間違いない。
 「新たな就労アセスメントの創設」が提案されているが、現行制度で適切な支援を得るためのアセスメント事業(相談支援事業)があり、改めて「ニーズ把握と就労能力や適性の評価」を制度化することは、福祉サービス利用の抑制につながることが危惧される。
 これらの施策を進めることによって、障害者の一般就労を後退させることは絶対にあってはならないことを付言しておく。

2-3)地域移行
 厚労省がこの課題を政策の重点として掲げながらも、ほとんど改善されていない原因の一つは、地域移行を基本的に病院や施設に任せてきたことにある。国・自治体が明確に責任をもつ政策への転換が求められる。今回のヒアリングではこの現状を改めるべきだとの意見が多く出された。長期入院者の支援を市町村の地域生活支援事業の必須事業とする、入院・入所者への年1回以上の地域移行の意思確認を計画相談支援の運営基準に含める、など。しかしこれらの具体的な意見は、「中間整理」では「課題」として抽象的に紹介され、「検討の方向性」では、「相談支援を担う職員の教育・研修の仕組みや財源の確保」と修正され、現状を変えないように全面的に無視された。
 2011年の「骨格提言」では、病院・施設からの地域移行のために、国の重点予算配分措置として個別地域移行プログラムの実施を打ち出し、これへの病院・施設の積極的協力と、そこへのピアサポーターの関与を提言した。国と自治体が責任をもって本人の希望を聞き、その希望の実現のために、地域生活体験機会の提供を含め、必要な資源の活用と創出を進める継続的なプロセスが個別地域移行プログラムである。障害福祉計画で全体的な資源整備を図る(演繹的)だけでなく、個々の障害者が必要とする支援を、必要な時と場所に創り出す、国と市町村のより具体的な義務(帰納的)を提言したものである。
 「中間整理」の「基本的な考え方」の「1」は「障害者が希望する地域生活を実現する地域づくり」とあり、第12回「定期協議」でも「当事者中心に考えるべき」、「本人の願いをできる限り実現」というフレーズが厚労省からたびたび登場した。この視点を踏まえるなら、国・自治体が入院・入所者本人の意向を直接聞く仕組みはむしろ不可欠である。  地域移行をすすめるにあたっては、相談と共に、居宅支援サービスの基盤整備を欠かすことができない。重度訪問介護をはじめ居宅支援介護サービスを充実させ、施設や病院を出て暮らせる環境を整えることは急務である。
 また障害者権利条約が言うすべての障害者を対象とした「生活のしづらさ調査」は入院・入所者を対象としていないが、2010年の「総合福祉部会」の関係委員と厚労省との話し合いでは、障害者入所施設・精神科病院経営者代表を含めて、「直接本人の生活の希望を聞く調査」への賛同が確認されている。なおこの点については、JDF(日本障害フォーラム)による国連障害者権利委員会へのパラレルレポート(2019年6月と2021年3月)でも、直接、入院・入所の本人の意向を聞くものとするよう修正が求められている。

2-4)障害児支援
 障害児支援に関して、児童発達支援事業や放課後等デイサービス事業の機能や他機関との連携のあり方、地域偏在を解消するための事業所指定のあり方などの検討に比べて、サービスの質の確保のための検討が弱い。通所支援の自己評価・保護者評価の義務化とともに第三者による外部評価も早急に実施すべきである。この質の確保に当たっては、とくに、障害者権利条約第3条(一般原則)(h)で「障害のある子どもの発達しつつある能力の尊重及び障害のある子どもがその同一性(アイデンティティ)を保持する権利の尊重」を規定しており、第7条(障害のある子ども)3で子どもの意見の尊重を強調していることに留意すべきである。

       

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