障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

09年6月7日更新

2009年度事業計画

はじめに


 憲法25条が、これまでに増してクローズアップしている。直接的な引き金となったのは、昨年末から年始にかけての派遣村に象徴される雇用情勢の悪化であり、同時世界恐慌で加速している市民生活の急激な貧困化である。

 このことは、各種のデータからも裏付けられる。憲法25条と密接な関係にある生活保護の受給者世帯は、1998年から10年間で約1.8倍と急増を続けている(2009年2月現在の受給者概数は1,178,200世帯)。また、いわゆるワーキングプアと称される年収200万円未満の労働者は1000万人を超え、全労働者の約22%を占めるまでに至った。

 これらの背景に、世界規模の原油・原材料の急変動や激烈な景気後退が関係していることは間違いない。しかし、わが国での兆候ははるかそれ以前からあった。「勝ち組・負け組」とか「格差社会」などが言われるようになって久しく、一段の貧困化は2000年代初頭に遡ってみてとることができる。つまり、小泉政権の下で強行されたいわゆる構造改革政策が決定的な意味を持ったのである。

 問題の本質を世界恐慌に矮小化することなく、「すべて国民は、健康で文化的な生活を営む権利を有する」が新たに脅かされている根っこが、わが国の政治の中にあるのだということを明確に認識すべきである。そして、私たち障害分野にその影響がより集中的かつ集積的に及ぶのだということも忘れてはならない。

 さて、障害分野に特化してその特徴点を記してみたい。

 第一点目は、障害者権利条約(以下、権利条約)の批准承認をめぐる動きである。これについては、この3月上旬に大きな動きがあった。「今通常国会での批准承認に向けて、3月6日の閣議でこれを決定したい」旨の政府方針が示されたが、結果的には日本障害フォーラム(以下、JDF)の反発とその意向に沿って、閣議の議題から取り下げられることになった。

 むろん、JDを含むJDFは権利条約を全面的に支持するものであり、一日も早い批准承認を願う立場にはいささかの変化もない。しかし、何にも増して重視してきたのは、形式的な批准承認に終わらせてはならないということであった。権利条約の水準とかけ離れている主要な法制については、批准承認と一体的な改善を図るべきであるという主張を重ねてきた。

 とくに、障害者差別禁止法(仮称)の制定と、条約の推進を含む障害者政策の全般をモニタリングするための監視機構の創設については、実現または具体化への道すじを明示するよう求めてきたのである。これらについて「ゼロ回答」であった以上は、この時点での批准承認の政府方針は受け入れ難かった。

結局、今国会での批准承認は見送られることとなり、後述する障害者基本法の改正動向ともリンクしながら仕切り直しということになった。

 第二点目は、障害者基本法の改正についてである。障害分野の「憲法」とされている障害者基本法であり、これまでの改正にあっても(1993年、2004年)、また今回の改正についても重視している。定時の見直しとなる今回の改正であるが、二つの点で特別の意味を持っている。一つは、前回の改正時に積み残しとなった課題、即ち障害者差別禁止法の制定がどうなるのかということである。今ひとつは、障害者差別禁止法の制定とも関係しながら、権利条約の批准承認の最低要件をいかに満たすかということである。

 こうしてみていくと、今回の障害者基本法の改正は条約の批准承認に向けてのいわば前哨戦にあたり、改正の実質化の度合がそのまま形式的な批准承認を避ける度合にもつながるのである。重要さからみて拙速は避けなければならず、会期が詰まっている今国会での成立にはこだわる必要がない。JDは、権利条約をめぐる課題と同様にJDFと一体となりながらこれに対処していきたい。

 第三点目は、障害者自立支援法(以下、自立支援法)に関する動きである。去る3月31日に、「三年後見直し」に基づく改正法案が閣議で決定され、即日衆院に上程された。自立支援法を批判する声への対応もあって、法文上は「応能負担」にシフトした形をとっている。

 しかし、その実質は二度にわたって講じられた「特別対策」「緊急措置」の固定化であり、政策費用の自己負担という観点からすれば本質的な問題は残ったままである。現実的な負担額の軽減ともあいまって、問題の焦点化が曖昧になりつつあるが、あらためてこの法律の成立の背景と経緯を想起し、本質を見極めることの肝要さを強調しておきたい。

 なお、今回の改正で注目されていた「障害の定義」「障害者の範囲」は部分的な着手に留まり、「すべての障害者」の実現は成っていない。懸案の所得保障制度の改善についても触れられていない。その他、問題点の多かった「障害程度区分」の改訂や個別給付事業と地域生活支援事業との不整合性の解消、就労分野における雇用政策との一体的な調整などについても改善が図られないままである。

 原型が崩れ、ますます歪みを増す自立支援法であり、また障害福祉関連の立法体系の本格的な整備という観点からも、一定の猶予を前提に「一からの出直し」を図るべきである。

 なお、本格的な口頭弁論に移行する「障害者自立支援法訴訟」については、引き続きこれを全面的に支援していきたい。

 次に、障害分野に関するNGOについて触れておく。JDFが結成されて4年半になるが(結成は2004年10月31日)、その存在と活動はさらに重要性を帯びている。「まとまることの大切さ」「一致できる内容で行動する」を最大限に重視してきたが、権利条約をめぐる課題で信頼関係と実績をつくり、その実績は今般の障害者基本法の改正にもつながっている。

 とは言え、個々の課題への考え方や運動の進め方などにはまだまだ開きがある。構成団体の個々の立場や考え方を尊重し、とくに困難な課題を抱えている団体に耳を傾ける必要がある。JDは、引き続き関連する企画や活動に積極的に参画するとともに、とくに人的な面で貢献していきたい。

 ここで、JDの30周年について触れておく。国際障害者年の前年に当たる1980年4月19日に誕生した国際障害者年日本推進協議会(現在のJD)は、来年の4月で満30年となる。過去をふり返り、近未来を展望する上で重要な節目となる。この節目をどう迎えるか、理事会はもとより、ひろく正会員(JD加盟団体)とともに考えていきたい。基本的な考え方については、遅くとも年度の後半期までにはまとめておく必要がある。

 最後に、JDの組織的な課題に言及しておきたい。とくに、重点を置くべきは仲間を増やすことである。いずれにも属することなく、独り困難を抱えている団体はまだまだ少なくない。こうした団体に積極的に声をかけ、加盟を働きかけていく必要がある。JDの強化につながるだけではなく、多様な団体の連携はこの時期ますます重要さを増しているのである。

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