障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

22年10月11日更新

2022年「すべての人の社会」8月号

2022年「すべての人の社会7月号

VOL.42-5 通巻NO.506

巻頭言 障害者虐待をなくしていくために私たちは何をなすべきか

JD理事 山下 康

 

 2022年4月、ある神奈川県立障害者施設において、入所者への虐待が疑われる事案が発覚した。職員や退職者へのアンケートにおいて利用者への不適切な行為が約40件報告され、具体的には、利用者の肛門にナットが入っていたり、食事に多量のシロップをかけたり、服薬用のコップに塩や砂糖が混ざっていたり、つかまれた腕を振り払い利用者が頭を打って失神したり、様々な暴力行為等々である。報道は約60人の職員がこの行為に関 与していた可能性があると伝えた。これはほんの一例でしかなく、障がい者への虐待は全国で後を絶たない状況が続いている。

 

 障害者虐待防止法は2012年10月に施行されている。改めてその目的を見ると「障害者虐待は障害者の尊厳を害するものであり……もって障害者の権利利益の擁護に資することを目的とする」旨記載されている。そして、虐待を受けたと思われる障害者を発見した者に速やかな通報を義務付けている。法はその後改正を経て、2022(令和4)年度には各事業所において、責任者の設置や研修の実施等々、虐待防止及び身体拘束などの適正化の推進に係る取り組みが義務化されている。

 

 一方、2016年7月に起きた「相模原障害者施設殺傷事件」の後まとめられた「津久井やまゆり園再生基本構想」(2017年8月)の中では、利用者の意思決定支援を、国のガイドラインを参考に、意思決定支援チームを設置した形の多様な視点から本人の意思決定を進める仕組みが提案された。この取り組みの中で、現場の職員が個別の支援計画やライフヒストリーの重要性に気付き、利用者を多角的にアセスメントすることを経験してきた。その結果、支援そのものに膨らみが出来、利用者本人の望みを理解できるようになり、結果が出せるようになってきた。
 そうなると相乗効果で支援自体が楽しくなってくるし、意思決定支援の関りで作られた関係性からも、ここに虐待など存在しなくなる。本人のことがわからないから虐待につながってくるのではないかと私は思う。

 

 いま私たちに求められているのはスタッフがまず障害を理解し、エビデンスに基づいた支援を行うことである。そして専門性を担保するためにも有資格者を増やし外部からのチェック機能を取り込んだ風通しのいい環境を整えることである。障害者虐待を無くしていくために停滞は許されない。日々被害者が生まれないために一刻の猶予も許されない。
 権利擁護とは、誰もが皆持っている当たり前のことが侵害されないように守ることなのである。

 

視点 今求められる防衛とは

JD代表 藤井 克徳

 

 予想を超えるとんでもない大ごとが現出するものだ。今日で言えば、新型コロナウイルスの大流行と、ウクライナ戦争の勃発があげられよう。賢人の遺した、「現在は未来を映し出す鏡である」という戒訓が頭をかすめる。世界がこぞって当座の有効策に総力をあげることはもちろんだが、後世に引きずらないような終息や決着のつけ方が求められる。

 そこで今回は、この「とんでもない大ごと」と、それに類似した事象に焦点を当てることにする。共通点に問題の本質がみえてくるような気がする。最大の共通点は、私たち市民の日常が壊されていることである。コロナで言えば、人と会うことが極端に制限され、働き方もすっかり変わってしまった。国内だけでも3万2千人を超える死亡者を出していること自体異常だが、その大量死亡に鈍麻しかけているメディアを含む社会の向き合い方にも怖さを覚える。ウクライナ戦争による日常への影響も計り知れない。戦争に伴う食糧供給力の低下とエネルギー不安は、地球規模でのインフレを誘発し、人びとの希望や暮らしを脅かしている。

 共通点はまだまだある。ピークアウトがいつになるのかがわからないのも似通っている。さらには、社会的に脆弱な人びとに負の影響が集積するのも共通である。この点では、障害のある人への影響が心配だ。というより既に顕在化している。精神科病棟でのクラスターの発生は最悪の事態を引き起こした。閉鎖病棟でのウイルスの大暴れは、地獄絵を彷彿させる。精神科の入院患者というだけで、総合病院での診療拒否が相次いだ。これらを背景に、沖縄では一か所の病院だけで70人以上の入院患者が亡くなった(2021年7月)。ウクライナの障害者の多くが、とり残されの状態にあることは、AFPなどの外信だけでなく、現地の障害団体からのレポートでもはっきりしている。

 歴史的な大ごとのさなかではあるが、ここでもう一つ考えておかなければならないことがある。残念ながら、大ごとはこれで一休みという保証がないことである。それどころか、日常を壊すという点では、ここに掲げた二つの大ごとに匹敵するか、それ以上の出来事が心配される。原発事故や大洪水の可能性もそうであるが、確実視されているのが津波を含む超大型の震災である。過去のくり返しを顧みればそろそろという感じがする。感覚的な話だけではなく、政府の中央防災会議などでもかなりの確度で南海トラフ地震の襲来を予測している。自然現象は待ってくれない。この瞬間にも襲いかかって来るやもしれない。

 前述の共通点に、もう一つ付け加えておかなければならないことがあった。それは、政治の力が深く作用することである。戦争開始の決断は例外なく政治の長が行う。ウイルス対策の後手や的外れ、迷走、あげくの果ての大量死亡者も過去と現在の政治の貧寒さが重なる。超大規模の震災もしかりであり、備えと事後の双方で、政治の役割は決定的となる。

 備えという点では、毎年度、数兆円規模での国家的な災害基金を積み立てるべきではなかろうか。防衛費の2倍論にうつつを抜かしている場合ではない。2倍の増額分をそっくり災害基金に振り向けてもなお足りなかろう。それでも積み上げた分の効力はあるはずだ。改装の成った政治には耳を傾けてほしい。私たちが求めているのは、軍事防衛ではなく、災害防衛であり日常の防衛であるということを。


2022年7月の活動記録


私の運動の軌跡と『障害のある人の分岐点』

私の歩みと関連した障害者の分岐点
 松井 亮輔(法政大学名誉教授)

What's New!

障害者情報アクセス法への期待
全日本ろうあ連盟・日本視覚障害者団体連合

連載 私の“ほッ”とタイム⑤

私の「知りたい」を増やしてくれるラジオ
尾上 裕亮(障害者の生活保障を要求する連絡会議(障害連)代表)

連載 家族も自分の人生を歩む 家族依存・家族支援を考える 第11回

ヤングケアラーの持つ課題と支援策に向けて
小関 真凛(立命館アジア太平洋大学4年)

連載 優生思想に立ち向かう 第34回

福祉を学ぶ大学生の現状から優生思想を考える
佐野 竜平(日本障害者協議会理事
 法政大学現代福祉学部教授)

連載 このままでいいのか! 障害者総合支援法 ③

就労の問題
赤松 英知(きょうされん常務理事)

新連載 障害者権利条約を日本で生かす 1

いよいよ国連障害者権利条約履行状況の日本審査
増田 一世(日本障害者協議会常務理事)

連載エッセイ 障害・文化・よもやま話 第33回 寄り道篇

新刊『凜として灯る』刊行
荒井 裕樹(二松学舎大学准教授)

トピックス・読書案内


いんふぉめーしょん

JD・投票における合理的配慮を欠く問題事例の改善を求めるとりくみ(第二次)



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