障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

22年5月24日更新

2022年「すべての人の社会」5月号

2022年「すべての人の社会」5月号

VOL.42-2 通巻NO.503

巻頭言 今こそ「すべての人の社会」という思考が重要

JD理事 伊東 良輔

 2022年2月24日、ロシア政府によるウクライナへの軍事侵略が始まりました。

 ロシア政府の軍事侵略によりウクライナ国民に多くの犠牲が出ており、これは、私たち人類が享有する「自由」と「権利」が侵害されている状況です。

 我々はこの地球の住民として共通の課題を解決するために「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」として17項目の目標を定めました。このSDGsは2015年9月の国連サミットで採択され、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成することを目標にしています。

 その道半ばで行われたウクライナへの軍事侵略は、SDGsの16番目の目標である「平和と公正をすべての人に」という目標達成を大きく後退させました。

 さらに軍事侵略の長期化により、1番「貧困をなくそう」、3番「すべての人に健康と福祉を」、8番「働きがいも経済成長も」、9番「産業と技術革新の基盤をつくろう」、10番「人や国の不平等をなくそう」、17番「パートナーシップで目標を達成しよう」という実に多くの目標達成を妨げています。

 ウクライナへの支援の必要性が問われる中、我々日本国民はどのように活動すべきかを考えると、日本国憲法の前文にある「われらは全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和の内に生存する権利を有することを確認する」という文言の重要性を再認識します。私たちはこの地球の住人としてすべての人が安心して生活することができるようお互いの存在を認め合い、尊重することが重要なのではないでしょうか。

 日本障害者協議会の発行するこの冊子「すべての人の社会」のタイトルはまさに今、必要とされる考え方だと思います。この考え方は権力者のための社会ではなく、この地球で生活する障がい者、高齢者、児童、性別など属性もすべて包含した「すべての人」のための社会であることが重要であることを意味し、誰もが「自由」と「権利」を主張できる社会の実現を目指す旗印となるでしょう。

 「すべての人の社会」を実現するためにこれからも一緒に声を上げていきましょう。

 

視点 ネットで故人の声を聴け

JD副代表 薗部 英夫

 古田雄介『ネットで故人の声を聴け   死にゆく人々の本音』(光文社)。筆者は、工業大学卒業後、建設工事現場監督と葬儀社スタッフを経て編集者からフリー記者に。「東洋経済オンライン」の好評連載がまとめられた新書だが、第5章に「4代にわたって引き継がれている故人のサイト  轟木(とどろき) 敏秀(としひで)のホームページ」がある。

 轟木さんは、筋ジストロフィー症デュシェンヌ型患者と自己紹介し、24時間人工呼吸器を使用し、寝たきりの病院生活を送っていた。好奇心旺盛で、かすかに動かせる両手の親指でパソコンを使い、1日2時間、手紙を書いたりホームページで文章を発信する。そこには「私という人間」「マスターベーションについて」「出生前診断について」「死についての思い」「障害者という壁を作っている?」などが綴られていた。

 わたしは同じ頃、パソコン通信や、JDで、インターネットのパソコンボランティア運動にとりくんでいた。衝撃的だったのが「我が分身たち」(1995年、NHKスペシャル)だ。轟木さんと彼の入力機器(KBマウス)を開発した当時、横浜市総合リハセンターの"スイッチの神様"畠山卓朗さんとの交流記録だ。

 「明日亡くなってもおかしくない。だから来てほしい」とのことで畠山さんは轟木さんの暮らす鹿児島の病院に3度足を運ぶ。要望を丁寧に聞き、支援機器を開発・調整していく。ラスト3分のエンディング。寝たきりの轟木さんは4年間天井しか見られなかった。畠山さんから支援機器でコントロールできる電動ミラーが届く。鏡に映る鶏の唐揚げは4年ぶりに見る料理だ。「見える、見える。唐揚げだ。OK、OK。おいしそうだな。食べてる気がする」。轟木さんの喜びの言葉がこころにしみた。

 畠山さんは、後に「共感者の視点」として、同情ではない、「あなたにとってうれしいというのはこういうことですよね」と、いっしょに喜ぶことができるような視点があると話されている。ともに生きる喜びと気づき、共感と科学・テクノロジーの統合、総合化が大切なことなのだと。

 轟木さんは、1998年に35歳で亡くなられた。管理人が亡くなったサイトは放置されるか消滅していくものだ。でも、彼のサイトは今も閲覧できる。なんとしても残したいと、主治医は家族や周囲の人と話し合い著作権を継承した。トップページに訃報を載せた以外は手を加えず、静かにサイトを守り続ける方針だ。その後、轟木さんのサイトは早稲田大学で教授となった畠山さんが自身のホームページで引き継いだ。

 わたしは、畠山さんをパソコンボランティアのとりくみの「顧問」役としていた。1997年の初回のカンファレンス(PSVC)開催から2008年の区切りのときも、単行本化も、その後のパソボラ同窓会でも親身のアドバイスをいただいた。その畠山さんは2016年の暮れ、悪性リンパ腫で亡くなられた。

 「そこでサイトの管理を引き継いだのは、畠山さんと関係の深かった5人の研究者たちだ」と本文にあるが友人有志たちのことだ。一人は元長野大学のリハ教授の伊藤英一さん、畠山さんの娘さん、同僚、リハエンジニア、そしてわたしだ。ノーマネットに畠山さんのサイトをメモリアルページとして移設し、そこに轟木さんのサイトも管理されている。

 伊藤さんは「できる限りすべて残そうと努めました。墓標というよりも、まだ我々の意識のうえでは生きておられると考えるのが妥当なのかもしれません」と語っている。

 轟木さんの思いやねがい、生き方に主治医や畠山さんは「共感」し「科学とテクノロジー」がコラボして、貴重なサイトが今日につながれている小さな物語がある。


2022年4月の活動記録



投票バリアフリー

新型コロナ感染療養者の投票権を奪わないで ―視覚障害者の実態―
 藤原 義朗(全日本視覚障害者協議会理事)    

JD最近のうごき

投票バリアフリーの実現 障害のある人の投票における問題改善に向けて

    

私の運動の軌跡と『障害のある人の分岐点』  

長男の事故から高次脳機能障害の運動に
  東川 悦子(元日本脳外傷友の会理事長)



障害者権利条約

宝の山を日本語に ~JD仮訳の取組み~
佐藤 久夫(日本障害者協議会理事)
宮﨑 木綿子(きょうされん)
佐々木 良子(日本障害者協議会理事)




資料 身体拘束ゼロをめざす院内集会アピール



連載 優生思想に立ち向かう 第32回

人生を変えることができるのは
Chan Sarin(ハンズオブホープコミュニティ代表)

連載 COVID-19のインパクト 第17回

アジアから:場面別2 -買い物-
佐野 竜平(日本障害者協議会理事 
法政大学現代福祉学部教授)




私の生き方 番外

和田 美珠



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いんふぉめーしょん

JDセミナー2022 いま、あらためて障害者の権利保障を考える!



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