
25年6月24日更新
VOL.45-3 通巻NO.540
■巻頭言 社会の当たり前が当たり前とは限らない
JD理事 佐々木 良子
NHKのラジオに、作家の高橋源一郎さんがパーソナリティを務める「飛ぶ教室」という番組があります。前半は高橋さんのよもやま話と本の紹介、後半は対談になっています。高橋さんの今を切る鋭さと色々な話が聞けるので、毎週、金曜夜を楽しみにしています。去年、そのラジオで高橋さんが、テレビドラマ「不適切にもほどがある!」が面白いと言われたので私もその翌週から見るようになりました。話題になったドラマなのでご覧になった方も多いと思いますが、「コンプライアンス」と言われて久しい令和の今と「コンプライアンス」がゆるかった昭和を比較するドラマです。毎回、くすっと笑ってしまう内容だったのですが、昭和生まれの私は、「あった!あった!」と思うエピソードも多々ありました。
バブル期に就職した私は、「オールドミス」や「お局(つぼね)様」という言葉を普通に使っていました。「学校を卒業したら就職し、しばらく働いたら結婚のため退職する」ということが「普通」だと思っていたからです(自分も「普通」にはなれなかったのですが)。仕事ができて優しかった先輩は、会社が移転するのと同時に退職されました。もしかしたら会社に居づらかった、居る意味が見いだせなかった、のかもしれません。
20年近く前のことになりますが、友人が40歳を過ぎて妊娠しました。その友人が、私たちに妊娠の報告をしてくれた時、産婦人科で「出生前診断」を薦められたけれど断ったと言っていました。理由は、「もし障害があったとしても子どもをおろすという選択はしないから」というものでした。
出生前診断を行うことで妊娠中に赤ちゃんの発育や異常の有無などが分かります。場合によっては、中絶をする選択もあるということは知っていました。友人も悩まなかった訳ではないと思います。なのに私は、友人の話を聞いた時、うまく説明できない何とも言えない気持ちになり、「おめでとう」とすぐに言えなかったことは覚えています。
私がすぐに「おめでとう」と言えなかったのは、私自身が、「障害児を育てるのは、大変」で、「家族は、その子が大きくなってもずっと面倒をみなければならない」と考えたからです。もし「障害を持って生まれてもその子が適切な支援や教育を受けることができ、社会でいきいきと自分のしたいことをしながら生きることができる」と思えたら、素直に「おめでとう」と言えたはずです。そもそも「子どもの一生を最後までみる」という前提がいかがなものかと今なら思います。
差別は私の中にもあります。その差別を引きおこす前提が、適切なのか不適切なのか。社会の当たり前が当たり前とは限らない。肝に銘じておかなければと思います。
■厳しい状況下でも、あきらめない運動を継続していく
―第15回総会議案書『はじめに』より―
第二次世界大戦終戦、そして広島、長崎の原爆投下から80年の大きな節目を迎える。戦争は人々のいのちや暮らしを根こそぎ奪い、人生を歪め、人権を蹂躙する。しかし、戦争や紛争は今も世界で続いている。今この瞬間も日々の生活を奪われ、いのちの危険と背中合わせに暮らす人たちがいる。そして、世界中の格差と分断が広がり、米国ではトランプ政権による「自国中心」主義がWHOやパリ協定離脱をはじめ大きな影響を及ぼしている。第二次世界大戦の深い反省から生まれた国際連合も、その影響をもろに受け、ことに人権分野への影響は計り知れない。
一方、日本被団協のノーベル平和賞受賞は、粘り強い原爆被害者を中心とした運動が原爆被害の実相を広く知らしめ、核戦争の危機が現実味をおびている中で、世界の人々に今まさに重要な取り組みであることを明らかにした。また、2024年7月の優生保護法裁判の最高裁判決は優生保護法が立法当時から憲法違反だったと断じた。この勝訴判決も優生保護法被害にあった人たちのあきらめない闘いと運動が大きな一歩につながった。
あきらめない、粘り強い運動は人々を動かし、社会にインパクトを与え、歴史を動かすと教えてくれた。
1.戦後80年、日本国を守り活かす活動を
2024年11月に開催した「憲法と障害者」をテーマにした学習会では、徳田靖之弁護士から「戦争で父親を奪われ、母の心を奪われた」ことが活動の原点だと語られた。そして、ハンセン病、薬害エイズ、優生保護法、JR九州駅無人化等の人権裁判に長年にわたり関わってこられた経験から、「人間としての尊厳」「自分らしく生きること」は絶対的権利であり、優生思想の克服のためには憲法を学ぶことが重要だと訴えた。改めて、JDは憲法と障害者権利条約を一人一人の暮らしの中で活かしていくことの大切さを求め続けていく。
2.障害者権利条約、総括所見(勧告)を活かした障害者基本法改正
障害者基本法は、前回の改正から13年が経過している。その間に日本は障害者権利条約の締約国となり、障害者権利条約や総括所見(国連勧告)を反映した改正が求められている。JDでは検討を重ね、日本障害フォーラム(JDF)と連携し、障害者施策の水準を押し上げていくための障害者基本法改正実現に向けた運動を引き続き推進していく。
2024年度にJD障害者権利条約プロジェクトチームは、JD加盟(正会員)団体に向け3回にわたるオンライン学習会「障害者権利条約実現への道」を企画・運営した。「雇用・労働」「精神医療・保健福祉」「教育」のテーマを取り上げ、加盟団体の意見を共有し、話し合う機会となった。引き続き障害者権利条約や総括所見をさまざまな視点から見直し、日々の暮らしや実践を点検し、改革の方向性を考えていく機会としていきたい。
また、独立した国内人権機関の設置について国連から強く求められており、他の条約体との連携を図り、具体化に向けて考えていく。
3.自然災害と障害のある人 能登半島地震への取り組みの継続
JDはJDFの一員として、能登半島地震で被災した障害のある人や支援を求める人たちに向けた現地支援センターの立ち上げに協力し、加盟団体に働きかけ支援員の派遣等を行なってきた。しかし、能登半島地震とその後の豪雨災害からの復旧には時間を要し、現地の人々の暮らしは未だ厳しい状況にある。障害福祉事業所の人手不足も被災の影響を大きく受け、支援センターの役割が求められている。引き続き、支援センターと協力し、現地支援を進めていく。
4.障害のある人の権利擁護に向けた取り組み
障害関連施策の動向を注視し、声明/要望書の発信等を継続していく。障害のある人の人権救済や生活の質の向上に向け、必要な取り組みを進める。
1)優生保護法問題への取り組み
2024年7月の優生保護法裁判の最高裁判決以降、総理大臣はじめ関係大臣の謝罪、国と原告・弁護団・優生保護法問題の全面解決をめざす全国連絡会(優生連)との基本合意書締結、国会での謝罪決議、旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者等に対する補償金等の支給等に関する法律(補償法)の制定、施行。これらは大きな前進ではあるが、多くの被害にあった人たちの人権回復、合わせて補償制度を知らせていくことは急務であり、国や自治体の取り組みを求めつつも、民間団体としても周知等の役割を果たしていく。
優生保護法問題を全面的に解決する緒に就いたところであり、基本合意書に基づく定期協議や検証についても積極的に参加し、根深い優生思想と向き合い、同時に障害のある人、他の市民との平等を実現していくための法整備、障害ゆえに必要な支援の充実に向けて取り組んでいく。
2)障害者自立支援法違憲訴訟 基本合意15周年
2008年に全国の障害のある人が立ち上がり、障害者自立支援法の応益負担を憲法違反として闘った障害者自立支援法違憲訴訟は、国と原告・弁護団が2010年に基本合意を締結し、以降、障がい者制度改革推進会議などで協議し、骨格提言はじめ貴重な提言が行われた。それから15年が経過する。この間、定期協議を重ねることで障害福祉の後退を押しとどめる役割を果たしてきたが、問題は山積している。2025年6月には15周年記念フォーラム「尊厳あるくらしをめざして! 基本合意のこれまでとこれから」を開催する。障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす会の事務局を務めるJDは、この集会を成功させ、障害のある人の暮らしの好転に寄与していく。
3)谷間の問題、立ち遅れた領域に関係団体と共に取り組む
今の日本の法制度は谷間に置かれる人たちを生み出している。ことに指定難病でないため医療費助成が受けられない、障害者総合支援法の対象から外れるため障害福祉サービスを受けられていない人たちがいる。こうした制度の谷間の問題を社会化し、厚生労働省等への働きかけを関係団体とともに行う。
また、立ち遅れた領域の1つが精神障害分野であろう。2022年に出された国連障害者権利委員会からの勧告でも非自発的入院や治療を認める法制度の廃止、新たな制度の創設を求められている。診療報酬や障害福祉サービスの報酬改定では抜本的な改革への見通しは全く立たない。他の先進国では当たり前になっている地域で暮らしながら必要な治療や支援を受ける仕組みの構築に向けて、加盟団体、関係団体と協議し、抜本改革の方策を考えていく。
4)所得保障制度の検討・政策提言/いのちのとりで裁判を応援する
障害分野の根本課題の1つが所得保障制度であり、2025年3月に開催した特別セミナーでは、「なぜ、現行の年金・雇用制度では自立できないのか!」をテーマに障害年金法研究会などの提言書について藤岡毅弁護士に講演いただき、障害のある人の声から学び、所得保障制度の課題を考えてきた。2025年に予定されている年金法改正でも障害年金制度の長年の課題は置き去りにされた。しかし、次の年金法改正を待つわけにはいかず、所得保障制度、障害年金のあり方について他の団体とも協力・検討し、政策提言につなげていく。
また、生活保護基準引き下げ違憲訴訟「いのちのとりで裁判」は各地の地方裁判所、そして高等裁判所での勝訴判決が続き、最高裁での勝訴判決をめざして取り組まれている。障害のある人も原告として立ち上がっており、JDとしても裁判を応援し、所得保障問題の重要な課題として取り組んでいく。
5)障害のある人の投票のバリアフリーと合理的配慮を求める取り組みの継続
JDは、2024年の衆議院選挙を前に投票のバリアフリーを国に要請した。また、「NHKみんなの選挙プロジェクト」など各メディアと連携した取り組みを続けている。2025年度は東京都議会や参議院選挙が行なわれる。障害ゆえの不利益を生じさせないために、これまでの蓄積を土台に、投票のバリアフリーと合理的配慮を求めていく。自治体ごとの取り組みも進んでいる一方で自治体間格差も生まれている。郵便投票の簡素化やさまざまな情報保障含め国連勧告の実現をめざす取り組みを継続する。
6)人材難/物価高の影響を重視し問題提起していく
米不足や価格の高騰、食料品や光熱費など日常に必要なものの値上げが続き、終息の目途が立たない。とりわけ所得の低い人が多い障害のある人にその影響は直撃している。また、原材料費の高騰や従事者の高齢化や人材不足によって補装具の質や供給も危ぶまれている。加盟団体の意見を聞きつつ、立法府や行政府へ働きかけていく。
一方人材難は、障害分野に限らず社会福祉のあらゆる分野で直面する課題である。このままでは、社会福祉事業が危機的な状況となり、制度は持続しても地域によっては必要な支援が利用できない事態が生じる。国は制度の持続可能性を優先した報酬改定を実施するが、その考え方は事業所の不安定運営につながり、そこで働く人たちへの影響は大きい。物価高、人材難に向き合いつつ、国に抜本的な改革を求めていく。
7)JD編「障害と人権の総合事典」の更なる普及
本事典は、障害者権利条約を基本に当事者の視点、現場の実態、JDのこれまでの蓄積を踏まえた出版となった。刊行から2年が経過し、教科書として採用される動きもあるが、まだまだ多くの人に手に取っていただく必要があり、本事典を活用し障害者権利条約を社会に浸透させていくための努力を続けていく。そのための映像等を活用したプロモーション活動なども行う。
5.JDの運営について
正会員団体の会費、賛助会員、購読会員の会費、寄附がJDの運営を大きく支えている。JDが社会的に求められている役割を果たすためにも、JDを支える基盤を安定的にしていく必要がある。賛助会員1,000人を目標に、毎月発行する「すべての人の社会」を活用した賛助会員・購読会員の広がりに会員団体の協力を求め、各会員団体の総会や役員会でJDの応援団(賛助会員・寄附)を広げる機会を設けていただくようお願いしていく。
賛助会員募集中
東京2025 デフリンピックの見どころ
倉野 直紀(全日本ろうあ連盟 / デフリンピック運営委員会 事務局長)
多田 智信(東京コロニー コロニー東村山 営業部)
求められる医療機関作成記録の調査と保存 ―優生手術の総合的な実態解明と新たな被害者の発見のために―
後藤 基行(立命館大学大学院先端総合学術研究科准教授 / 立命館大学生存学研究所副所長)
NHK「みんなの選挙」① ~すべての人が投票しやすい環境とは~
杉田 淳(NHK報道局選挙プロジェクト)
~ モスクワでただ一人、車いすの高校生 ~
古本 聡(翻訳業)
「優生」に悩んだ障害者たち ―母に傷を負わせたのは……―(後編)
荒井 裕樹(二松学舎大学教授 / 障害者文化論研究者)
「日本身体拘束研究所」設立と、雑誌「身体拘束と人権」発刊のお知らせ
■個人賛助会員・・・・・・・1口4,000円(年間)
■団体賛助会員・・・・・・1口10,000円(年間)
★1部300円(送料別)からお求めいただけます。
▼お申し込みは下記JD事務局へメール、電話、FAXなどでご連絡ください。
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 日本障害者協議会
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