障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

23年6月22日更新

2023年「すべての人の社会」6月号

2023年「すべての人の社会」6月号

VOL.43-3 通巻NO.516

巻頭言 「大丈夫です」は本当に大丈夫ですか?

JD理事 赤平 守

 今回は極めて個人的な話を書かせていただく。4月下旬の休日、東京で、ある女性Aさんと3年ぶりに再会した。私と彼女の関わりは足掛け12年。5月に彼女は28歳になった。敢えてこの紙面を使わせて頂くのは、Aさんが「すべての人の社会」(2013年9月~2014年6月)に渡って連載した「罪を犯した障害者の背景にあるもの」の最終回とJDブックレット「生き場をなくした人たち」のあとがきに登場する人だからである。ここでは内容を詳しく書けないのでバックナンバー等をお持ちの方は参照していただきたいが、少なくとも典型的な被虐待児であり、貧困、障害、いじめ、孤立等、背負った「生きにくさ」は到底一人の少女が抱えきれるものではなかった。当時私は、そんなAさんの未成年後見人となるという形で関わる形となるのだが、私は、苛酷な少年期であるとはいえ、ある意味Aさんの生活基盤を奪った存在でもある。人生の再スタートには新たな「生きにくさ」が付きまとっていたに違いない。

 それでも、会うだけでなく、10年以上メールや電話(今は北陸在住)で連絡を取り合えたのはなぜかを考えてみた。思い当たるのは、彼女が「生きにくさの壁」にぶち当たる度、湧き上がる不安や不平不満、苛立ちをぶつけてくれたということである。その都度、私は途方に暮れる。そして役に立たない自分を詫びることになる。なのに最後には「仕方ないよ」とAさんから慰められるのが私だった。

 翻って、様々な「生きにくさ」が社会を覆っている中、以前から気になっているのが「大丈夫ですか?」「大丈夫です」というやり取りである。「大丈夫ですか?」と訊かれたら反射的に「大丈夫です」と答えてしまう。いかにも日本的な日常ともいえる。しかし、これが福祉の現場となると話は違ってくる。例えば、あなたの職場で明らかに「大丈夫ではない」状況にある人が「大丈夫ですか?」に「大丈夫です」と答えたとする。それで問題解決とする人は少ないはずだが、もしそうでない人がいるなら、考えてもらいたい。「大丈夫です」は信頼の上での言葉だったのか、他の訊き方はなかったのか。実際本当に大丈夫かどうかわかるのは今後の関わり方次第というのがほとんどだろう。だからこそ合理的配慮とか意思決定支援を支援者側の視点だけで安易に用いてはならないことを肝に銘じてもらいたい。

 Aさんとは僅か3時間の再会だった。私は彼女が簡単に「大丈夫」を口にしない人だったことに感謝している。

権利条約と総括所見を生かしていく1年に
―第12回総会議案書『はじめに』より―

 日本障害者協議会(JD)は、国連での障害者権利条約の制定過程から関与し、国内では障害団体の大同団結を求めて日本障害フォーラム(JDF)の設立に努力してきた。そして、2009年にはJDFの一員として拙速な批准にストップをかけ、JDFでのパラレルレポートの作成に積極的に関わり、障害のある人のニーズを中心にした障害者施策の実現を求めてきた。そして、2022年8月、国連欧州本部(スイス・ジュネーブ)で障害者権利委員会での初の対日審査、そして、9月には総括所見(勧告)が公表された。2023年はこの勧告を学び、生かすための正念場ともいえよう。「他の者との平等」を実質化するためにJDとしては、関係団体との共同の取り組みを進める中で、立法府や行政府等との協議も必要となろう。障害者権利条約、そして総括所見(勧告)を実質化していくための重要な1年となる。

1. 憲法や平和の大切さを噛みしめる1年に
 新型コロナウイルスの感染はまだ予断を許さない。ロシアのウクライナ侵攻は長期化し、未だ収束の気配が見えない。長引く戦時下の障害のある人たちや家族が困難を強いられていることは想像に難くない。

 日本は軍事費をGDPの2%にするという巨額の方針があっという間に閣議決定され、武力攻撃を抑止するという名目で、5年間で43兆円もの軍事費が予算化された。軍事力強化によって平和は保たれるのか。軍備を固めるということは、他国に対し日本は戦うつもりがあるという意思表示にもなろう。戦争放棄を宣言している日本国憲法に反する為政者たちの動きを看過することはできない。私たちは平和を踏みにじろうとする動きには敏感でなくてはならない。社会に向けてその危険性をいち早く発信するとともに障害分野の立場から、憲法の大切さと平和と自由を守るための役割を果たしていきたい。

2. 障害者権利条約、総括所見(勧告)を生かす
 2022年8月にはJDからジュネーブの国連で行われた障害者権利条約の初の対日審査に傍聴団を派遣し、9月に公表された総括所見(勧告)も含めて情報を発信してきた。 2023年3月11日にオンラインで開催したJD特別セミナー「総括所見(勧告)を学び、知り尽くそう」には約450人が参加した。勧告の内容を学びこれからに生かしたいという機運が広がってきている。締約した国は勧告を真摯に受け止め、日本の障害者施策を前進させ、障害を理由にした人権侵害を繰り返さないことを求めていく。

 2023年度も障害者権利条約プロジェクトチームが中心になって、加盟団体や障害関係団体との学習や意見交換を行う。同時にJDFの一員としての取り組みを重視し、他の条約体の関係者と国内人権機関の設置等に向けて、共同の取り組みを進める。

3. 障害のある人の権利擁護
1)優生保護法問題
 優生保護法が憲法違反であることは各地の裁判で認められたものの、除斥期間を理由に原告の訴えが退けられて た。しかし、2022年2月22日大阪高裁、3月11日東京高裁に続き、2023年1月23日熊本地裁、2月24日静岡地裁、3月6日仙台地裁、3月16日札幌高裁、3月23日大阪高裁、そして関連の情報公開を求めた3月24日大津地裁と原告勝訴が続いている。判決では優生保護法の人権侵害が強度であり、障害者に対する根強い社会的差別や偏見を正当化・固定化し、助長した法であること、原告らが損害賠償権を行使することは困難であったことなど、除斥期間の適用を認めることは著しく正義・公平の理念に反すると断じ、憲法より下位にある民法による除斥期間を認めなかった。しかし、被告である国は控訴、上告し、解決に向けて迅速に取り組む姿勢がない。高齢である原告らの状況を考えると1日も早い優生保護法の全面解決と優生思想の根絶が求められる。JDとしても優生保護法問題に向き合い、誰のいのちも等しく尊いことを発信し続け、共感の輪を広げていく。

2)精神医療改革
 総括所見(勧告)において、非自発的医療、閉鎖処遇、身体拘束などを認める法制度の廃止が求められた。そのさなかで滝山病院事件が発覚した。続発する精神科病院の職員による虐待事件だが、精神医療の構造的問題を解決しなければ、同様の事件はなくならない。精神障害があっても地域の中で自身が望む暮らしを実現することがごく当たり前になっていくことを目指していく。そのために、抜本的な精神医療改革について、加盟団体や他の団体とも連携して2023年度の重要な取り組みとしていく。

3)障害のある人の投票行動のための合理的配慮
 障害のある人たちが、政治参加するための重要な権利である投票の際に合理的配慮を欠く事態があった。JDは投票の権利が侵害されていることを憂慮し、その状況を改善するために事例・要望を収集し、201の事例・要望集をまとめた。そして、要請書「障害者の投票行為における合理的配慮を欠く問題事例の改善を」を201の事例・要望集とともに総務省に提出し、担当課との懇談を行い、その後記者発表を行なった。この取り組みがマスコミ報道されるなど大きな反響があり、総務省は全国の選挙管委員会への調査を実施する動きにもつながった。NHKでも「みんなの選挙」プロジェクトが、市区町村選挙管理委員会アンケートを実施。HP上で報告している。NHK「みんなの選挙」作成のコミュニケーションボードなどを周知し、障害を理由に投票の権利行使が阻まれる事態をなくすための取り組みを継続させていく。

4)障害のある人の権利侵害・不利益に対する国等への働きかけ
 今般の物価高、水光熱費の高騰は、所得基盤がぜい弱な障害のある人や家族にはより大きな影響を及ぼす。また、障害者支援の事業所にも物価高や人材不足の影響は大きい。こうした影響を最小限に抑えるために必要な手立てを国に求めていく。また、昨年度は障害のある人に関わる不利益な法改正や職場等での不利益な処遇に関し、JDへの協力要請があり、声明や意見書等を発表してきた。さまざまな動きに関し、加盟団体とも協力しつつ、障害を理由にした差別的な対応・処遇を許さず、障害のある人の権利擁護に努めていく。

JDの意見書・要望書はこちら

5)JD『障害と人権の総合事典』の出版と普及
 40年余にわたる運動の経験とネットワークを土台に、障害者権利条約を軸とし、当事者視点と現場の実態を踏まえた、「障害と人権」に関する総合的な事典を2023年5月に出版する。27章立てで328の用語(280頁程度)、総執筆者数116人からなる事典で、2022年9月に国連障害者権利委員会から指摘された、日本のパターナリスティックな障害者施策を大転換させ、社会モデル/人権モデルへと転換していくための土台となる事典であり、普及に関してはさまざまな取り組みを行なっていく。

6)JDの運営
 2023年度総会は戸山サンライズを会場に対面での開催とするが、午後の政策会議はハイブリッド開催とする。対面での事業展開を進めていくが、新型コロナウイルスの感染状況等を鑑み、柔軟に対応していく。毎月開催の理事会に関しては、参加の利便性という点からも2023年度もオンライン開催を継続する。

 昨年荒木事務局長退職後、事務局運営については非常勤職員の採用等を行なってきたが、専従事務局員への負担が大きくなっており、業務の一部を障害のある人の事業所等へ委託することも視野に入れ、事務局体制の確立に向けて引き続き検討していく。

2023年5月の活動記録

 

JDのうごき

JD第12回総会 4年ぶりに対面で開催 午後は総括所見を学び合う政策会議



私の運動の軌跡と『障害のある人の分岐点』

きょうだいの会と、きょうだいの会に出会った私

田部井 恒雄(全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会前会長)



基幹統計への障害に関わる設問の導入

その意義と課題

佐藤 久夫(日本障害者協議会理事)



連載 優生思想に立ち向かう 第40回 

優生保護法裁判と除斥期間

藤原 精吾(弁護士・優生保護法被害者兵庫弁護団長)



連載 赤國幼年記Special版4

~ 旧ソ連の障害児収容施設で ~

古本 聡(翻訳業)



連載エッセイ 障害・文化・よもやま話 第38回 

障害者の戦争体験 --手話で伝える、手話を伝える--

荒井 裕樹(二松学舎大学准教授/障害者文化論研究者)



トピックス・読書案内


いんふぉめーしょん
(公財)鉄道弘済会主催・第59回社会福祉セミナー

 

 

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