障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

24年1月25日更新

2024年「すべての人の社会」1月号

2024年「すべての人の社会」1月号

VOL.43-10 通巻NO.523

年頭にあたって

JD代表 藤井 克徳

 

  新年という高見台から、国の内外を眺めるとどうだろう。悲しいほど好材料は乏しい。ひと頃であれば、「せめて正月ぐらいは」と気持ちを切り替えることができたが、昨今はそれもままならない。前年からの重苦しさは、膨らみ続けるだけではなく粘度が増している。年が改まっても、重苦しさは社会と心にまとわりついたままである。

 そんな中での私たちの障害分野であり、独り厚遇などあろうはずがない。それどころか、世相のひずみは社会的立場の弱い層に集積するというのが歴史の常である。ウクライナやガザの同胞はどんな状況にあるのか、今夏もまたあの猛暑に襲われるのでは、急激な人手不足と障害分野はどう関係するのか、高止まりの物価高は暮らしに何をもたらすのか等々、障害分野からの不安は募る一方。

 こんなふうに考えていくと、気持ちがますます沈んでしまう。気を取り直して障害分野をじっと見つめるとどうだろう。不安材料のすき間にいくつかの芽が顔を出している。それらにスポットを当ててみたい。大事なことは、これらを着実にものにすることだ。

 一つ目は、優生保護法問題が最高裁の大法廷で審理される動きである。優生政策という障害問題の本丸が大法廷でどう扱われるのか、日本の障害関連政策史上からも注目される。判決は夏ごろと言われているが、何としても勝利しなければならない。

 二つ目は、障害者基本法の改正論議がどうなるかである。障害分野の憲法と言われている障害者基本法であり、その改正は日本の障害分野の行方に大きく影響する。前回の改正(2011年)から13年になるが、この間、障害者権利条約が批准され(2014年)、総括所見も出された(2022年)。また優生思想や障害者差別とも深く関係する「やまゆり園」事件が発生し(2016年)、精神科病院の不祥事も後を絶たない。新たな事態と諸々の深層課題にどう応えるか、次期改正はかつてなく重要になりそうだ。2024年はそのための準備年となる。

 三つ目は、国連障害者権利委員に立候補している田門浩(たもんひろし)さんを当選させることである。ろう者であり、弁護士である田門さんは、障害や人権の専門性はもとより、人柄もいい。選挙は、今年6月の国連の権利条約批准国による締約国会議で行われる。

 他にも、各種人権条約にまたがる国内人権機関の創設に向けての本格的な準備を始めること、大規模自然災害への備えも怠ってはならない。障害分野全体のまとまりがますます重要になり、JDとしても適時な提言など、積極的に役割を果たしていきたい。

新春鼎談 人権とメディア
        『人権』を土台とするメディアが新しい社会実現のために果たすことは          


木原 育子 きはら いくこ
東京新聞特別報道部記者

持丸 彰子 もちまる あきこ 
NHK大阪放送局ディレクター

増田 一世 ますだ かずよ
やどかり出版代表 / JD常務理事


メディア志望は学生時代の支援活動から
増田:あけましておめでとうございます。本日お話しいただくお二人は共に、昨今、精神障害に関わる優れた取材、報道をされており、とりわけ昨年発信された記事、番組は大きなインパクトがあり、多くの注目を集めました。
 私は、常勤先の団体であるやどかりの里で、精神障害のある人たちと一緒に働いています。やどかりの里は精神障害の人が病院でしか生きられないのはおかしいと、1970年に活動を開始し、さいたま市で障害のある人たちが地域で暮らすことを支える活動をしています。
 持丸さんはETV特集「ルポ死亡退院〜精神医療・闇の実態〜」で、視聴者に感銘を与え、放送文化の発展と向上に寄与した優れた放送番組に贈られる「放送文化基金賞奨励賞」、また、アジア・太平洋地域の放送機関などが加盟するABU(アジア太平洋放送連合)テレビドキュメンタリー部門で最優秀賞を受賞されました。2つのご受賞、おめでとうございます。
 さて、現在の仕事に就かれるようになった動機や経過などをお聞かせください。

持丸:ありがとうございます。私はいま、NHK大阪放送局で「バリバラ」の制作に携わっています。もともと民放で報道の記者・ディレクターとして仕事をしていましたが、ドキュメンタリー番組の制作に携わりたいという思いから、5年前にNHKに転職し、福祉番組の制作に携わってきました。これまで主に、「ハートネットTV」や精神医療関係の「ETV特 集」を制作してきました。
 この仕事に就いた最初のきっかけは、だいぶ前に遡りますが、学生時代に9・11やイラク戦争の報道に接し、留学やミャンマー難民キャンプでNGOのインターンなどをする中で、人道支援の現場での仕事や、写真や映像によるジャーナリズムの仕事に関心を持ったことです。

木原:私は2007年に中日新聞に入社しました。入社後8年ほど地方支局を転々とし、2015年に東京本社(東京新聞)に異動となり、3年前から特別報道部で自分のテーマを持って取材できるようになりました。記者を志したのは、大学院時代にネパールのNGOに携わっていた経験があると思います。小学校の通学に3~4時間かかる山奥で暮らす子どもたちの存在を知り、社会、世界の片隅で生きている人の声に耳を傾けられることを仕事に、と思いました。
 また、高校では野球部のマネージャーをしていて、新聞に取り上げてもらったことがあります。試合でスコアを付けるのがマネージャーの仕事ですが、高校3年生の最後の試合は、応援に熱中し過ぎてスコアを付けられませんでした。そこを新聞記者がしっかり見ていて「なぜ白いの?」と。いろいろ話して「真っ白なスコア」という記事になりました。記事1つで苦労が報われるような思いでした。ヒーローだけでなく、裏方にも目を向けられる、そんな大人の人って素敵だと当時思いました。文章を書くことが好きだったこともあり、「私も!」と思い、新聞社に入りました。

増田:私の団体では1977年に資金作りや活動を広く知らせるために出版事業を始めました。私はソーシャルワーカーを目指してやどかりの里に飛び込み、最初の5年間は、精神障害の人たちと一緒に活動するのが楽しかったですね。その後、保健婦雑誌(当時)の編集者との出会いがきっかけで、現場取材の醍醐味を実感しました。取材する中で優れた実践者との出会い、あるいは精神障害のある人たちが精神疾患に罹患し、精神科病院への入院経験から新たな気づきを得ていくことを伝えていくことがとても重要なことだと考えるようになりました。
 お二人は社会のさまざまな歪みに気づいてこられたと思いますが、転機になったエピソードなどはありますか?

持丸:民放で記者をしていた際に、警視庁担当をしていた時期があって、その際に感じたことは一つの転機になったと思います。主に担当していたのは性風俗やわいせつ、半グレ、薬物などの捜査に関する事件で、被疑者とされる人たちの中には、知的、発達、精神などの障害のある方もいました。警察の担当記者は主に、当局の発表をもとに記事を書きニュースを出稿するのですが、事件の表層部分よりも、被疑者とされる人たちがなぜ犯罪に至ったのかや、事件が起きた経緯や背景の方に強く関心を寄せるようになりました。そうした中で、市井の人たちの生きづらさや心のゆらぎの部分を取材し伝えられるようなドキュメンタリー番組を制作したいという気持ちが強くなったように思います。

増田:罪を犯した人を「悪」と切り捨てるのではなく、その背景、環境、内面に気づかれ、そこにある真実を確信されたということですね。

持丸:そうですね、当時は言語化できていませんでしたが、そうした矛盾を感じたことがターニングポイントになったと思います。

増田:私が手ごたえを感じたのは、阪神・淡路大震災が起きた年に現地取材に行って、精神障害のある人たちのたくましさに触れた時です。また、淡路島では壊れた家に誰が暮らしているのかまで知られている地域のつながりの強さを知りました。現地に行って感じたことを伝えることの大切さを実感しました......

 つづきは本誌で。

2023年12月の活動記録


What's New

滝山病院事件を二度と繰り返さないために

加藤 眞規子(こらーるたいとう代表)




連載 障害者権利条約を日本で生かす 14

第24条教育の実現めざして総括所見をいかした教育改革提言づくりを 薗部 英夫(日本障害者協議会副代表 / 全国障害者問題研究会副委員長)




連載 赤國幼年記Special版10

~旧ソ連の障害児収容施設で~

 古本 聡(翻訳業)

  


私の生き方 第83回

 内海 浩平(言語聴覚士)

  


トピックス・読書案内


いんふぉめーしょん 

待望の新刊!JDF「みんな知っておこう障害者権利条約総括所見のポイント解説」




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