障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

23年4月18日更新

2023年「すべての人の社会」4月号

2023年「すべての人の社会」4月号

VOL.43-1 通巻NO.514

巻頭言 障害者権利条約の「総括所見」を読んで

JD理事 矢澤 健司

 2022年9月に出された障害者権利員会の総括所見(勧告)は「障害者が他者と対等であり人権の主体であると認識し、全ての障害者関連の国内法制及び政策を本条約と調和させること」と述べており、このことは総括所見の全般を貫いています。障害者は他の者と同等に生きる権利を持っている。生きるために必要なものはすべて与えられなければならない。これが、権利条約の根底にあるのだと思います。

 医学モデルよりも、人権モデルや社会モデルを推奨しています。医学モデルは、機能障害別にランクを決めて、あるレベル以上を救済の対象にして、それ以下は対象から外し予算の枠に合わせる経済モデルであるのに対し、人権モデルや社会モデルは、その人に必要な支援を提供するモデルで、予算は必要な額が支給されます。つまり、障害の程度と関係なく、必要な支援が行われるのです。

 このため、医学モデルでは自治体の財政に依存することになり格差が生まれます。経済的観点から効率を優先され、大型施設で効率的なルーティンの手順が行われるため、個々のニーズは無視され標準的なケアが行われます。このシステムが多く使われているのが精神病棟です。ルーティン的作業は思考能力を低下させて、虐待にもつながると考えられます。

 一方、人権モデルや社会モデルでは、一人ひとりに必要なサービスが提供されるため豊かな生活が保障されます。このため、合理的配慮という考え方が生まれてきます。

 このような考え方から、障害者権利委員会は、「障害、性別、年齢、民族、宗教、ジェンダー自認、性的指向及びその他のいかなる身分を理由とした、複合的かつ交差的な差別形態、及び合理的配慮の拒否を含め、本条約に合致し、障害に基づく差別を禁止するために、障害者差別解消法を見直すこと」を求めています。

 同じことは教育問題にも言えると思います。

 通常学級よりも多くの人材を必要とする特別支援学校や学級の運営に必要な費用をできるだけ少なくするために、既存の学校や学級に多くの生徒を詰め込んで授業を行なっていますが、これは一人ひとりに合った授業とは言えません。生徒が通いやすい地域で、少人数で、多くの必要な専門職を投入して、一人ひとりに合った授業を行う必要があります。障害者権利委員会はこれに必要な予算を投入することを求めています。

 障害者権利委員会は、これらのことがすぐに解決するとは思っていません。時間をかけて、少しずつ理想に向かって変化して行くことを望んでいます。

視点 精神医療の闇を問う

JD常務理事 増田 一世

 NHKのETV特集で「ルポ 死亡退院 〜精神医療・闇の実態〜」と題したドキュメンタリー番組が放映された(初回放送2023年2月25日)。衝撃だった。医療機関であるはずの病院の中で、入院している患者たちは人として扱われていなかった。鍵のかかる病棟の中で、いつ出られるともわからず、看護者から罵声を浴びせられ、暴力を振るわれ、拘束された人びとがいた。今もその病棟に閉じ込められている人たちがいる。

 実際にはこの病院の劣悪な処遇に対し、長年警告が発せられていて、行政もその事実を知りつつ、放置し、それどころか患者を送り込んでいた。精神医療の闇の実態に震撼とする。東京都地域精神医療業務研究会(地業研)は30年以上前からこの病院の実態を把握し、問題提起してきた。地業研提供の資料「東京精神病院事情(ありのまま)」によれば、1987年1年間の外来患者数はゼロ(東京都精神科病院統計)、2008年の死亡退院率66.5%、2013年の年間退院者176人のうち114人(65%)が死亡退院、2016年の年間退院者166人のうち101人(62%)が死亡退院となっている。医師・看護師・コメディカルスタッフがいずれも少なく、有資格看護者も少ない。65歳以上の患者が多く、腎透析ができる精神病院として重宝がられていた。

 さて、この精神医療の闇の実態をどう捉えていったらよいのか。この国の棄民政策の片棒を精神病院が担ってきたという事実が迫ってくる。まず正すべきはこの国の精神医療対策であろう。

 筆者の働くやどかりの里では、ドキュメンタリー映画「夜明け前のうた 消された沖縄の障害者」(原義和監督)の上映会を開催予定だ(4月27日、28日全4回上映)。1900年の精神病者監護法で制定された私宅監置(精神障害のある人を小屋などに隔離)の制度は1950年に廃止されたが、沖縄では1972年まで残されていた。1960年代に東京から医療支援に行なった医師が私宅監置されている人たちを撮影した写真と原監督が出会ったことがこの映画の始まりだった。

 私宅監置が形を変えて精神病院での隔離・拘束になり、自由を奪われ、社会と遮断され、人間としての尊厳を根こそぎ奪われた被害者たち。精神病院での虐待事件は、枚挙に暇がない。滝山病院事件は特異な事件と言い逃れはできない。

 今だからこそ、「夜明け前のうた」を上映し、多くの人たちに映画を通して、沖縄の私宅監置と今の日本の精神医療は地続きにあることを考えてもらいたいのだ。そして、少し想像力を働かせれば、だれか特別な人のことではなく、自分自身のことであり、大事な家族のことでもあると思えるのではないか。

 2022年9月に発表された国連の障害者権利委員会による総括所見(勧告)でも、障害を理由に隔離・拘束をはじめ自由を奪うことを認めるすべての法制度の廃止を求めた。国連は、精神医療の問題は締約国の責任である、と明確に指摘している。

 精神医療改革に真摯に関わり、真っ当な精神医療を実践しようと奮闘している人たちもいる。当事者・家族、そして医療・保健・福祉関係者、マスメディアの応援も得ながら、大きくまとまり、小手先の修正しか念頭にないこの国の為政者たちに精神医療改革を強く求めていく、今こそその時なのだ。

夜明け前のうた上映会応募フォーム

2023年3月の活動記録

 

ウクライナの障害のある人に思いを馳せて

詩 愚の骨頂動物国連総会

 

私の運動の軌跡と『障害のある人の分岐点』

障害当事者との出会いから当事者参画のUDWS(ユニバーサルデザイン・ワークショップ)の展開へ

髙橋 儀平(東洋大学名誉教授)

 

連載 家族も自分の人生を歩む 家族依存・家族支援を考える 第17回

家族が背負い込まなくてよい社会とは

野村 忠良(全国精神保健福祉会連合会 政策委員)

 

優生思想に立ち向かう 第39回

私たちもひとりの人間 ~人権侵害を許さない~

ピープルファースト北海道

 

連載 障害者権利条約を日本で生かす7

障害者施策にジェンダー視点を! ジェンダー施策に障害の視点を!

藤原 久美子(DPI女性障害者ネットワーク代表)

 

連載 赤國幼年記Special版2

~旧ソ連の障害児収容施設で~

古本 聡(翻訳業)

 

連載エッセイ 障害・文化・よもやま話 第37回

本とイベントの紹介 ―安積遊歩『このからだが平和をつくる― ケアから始まる変革』

荒井 裕樹(二松学舎大学准教授/障害者文化論研究者)

 

トピックス・読書案内

 

いんふぉめーしょん

日本障害者協議会(JD)で購入できる冊子

 

 

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