障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

22年11月17日更新

2022年「すべての人の社会」11月号

2022年「すべての人の社会10月号

VOL.42-8 通巻NO.509

巻頭言 近隣の国の人々にとっての戦争
 

JD理事 野際 紗綾子

 ロシアによるウクライナ侵攻が2022年2月24日に始まってから8ヵ月が過ぎました。この軍事侵攻は、旧ソ連諸国の人々にも様々な影響を与えています。

 旧ソ連諸国の中で最も経済的に貧しいタジキスタン共和国。一人当たりのGDPは年間877.6ドルと、191カ国中174位で、ルワンダ等のアフリカ地域の状況と変わりません1)。そこでは、親ロシア派とされるラフモン政権が約30年にわたり大統領の座についており、出稼ぎ労働者からの送金やロシア軍の国内駐留など、経済・軍事面でロシアへの依存度が大きい状態が続いています2)

 難民を助ける会は、この国で2001年に事務所を開設し、ここ十年近くはインクルーシブ教育の推進活動を実施しています。私が2018年に出張で訪れたときも、ロシアの影響を様々なところで感じました。教育機関の壁には、ラフモン大統領とプーチン大統領が肩を並べた巨大ポスターが飾られていました。私が帰国する際には、現地職員が、「この辺で一番品質のいいロシア製のおもちゃ」をお土産に渡してくれたり、自分の子どもたちには「将来のために」ロシア語とタジク語の2カ国語を学ばせるなどしていました。

 ここでもロシアの軍事侵攻による変化が起こっています。最近、「宿泊費が高騰して予算を上回ってしまいそうです」とタジキスタンへの出張者が悲鳴を上げていました。円安や物価・燃料費の上昇だけが原因ではありません。徴兵拒否などの理由でロシア人がタジキスタンにたくさん来ていて、ホテルの部屋が高騰しているというのです。彼らはここタジキスタンで職を探しています。

 かつての出稼ぎ先だったロシアから逆方向の人々の移動。近隣のキルギスタンやウズベキスタンでも同様のことが起こっているそうです。ロシアの中からも、ウクライナ侵攻への協力を拒否して、故郷を離れざるを得なくなった人が出てきているということでしょう。

 人道危機は急激で複雑な変化を広範囲に引き起こします。それはこのように近隣の国の人々にも及んでいます。タジキスタンの現地通貨のソモニはルーブルの価値の低下に伴って暴落。物価は高騰し、人々の生活は厳しさを増すばかりです。その中で、障がい者は多くの困難に直面しています。

 災害と同様に、戦争は脆弱な立場に置かれがちな人々に特に大きな被害を与えます。ウクライナの障がい者は言うまでもなく、ロシアや近隣諸国でも障がい者がどのような影響を受けているか、その多様で複雑なメカニズムを明らかにし、支援につなげなくてはなりません。

 「国籍や障害の有無にかかわらず、すべての人の生活や教育が保障される」という理念は平和と不可分です。当会でも微力ですが、変わりゆく環境に可能な限り柔軟に対応しながら、活動を続けていきたいと思います。

1) IMF-World Economic Outlook Databases 国際通貨基金 世界経済見通し(2022年4月)
2) 外務省ホームページ タジキスタン共和国(Republic of Tajikistan)基礎データ

 

視点 広げよう「私たち抜きに私たちのことを決めるな」の声
      所信表明への懸念


JD常務理事 増田 一世

 2022年10月3日、第210回臨時国会が始まり、冒頭に岸田内閣総理大臣による所信表明演説が行われた。「厳しい意見を聞く」姿勢こそが原点と述べているが、本当に私たちの声は届いているのだろうか。

 所信表明の中で障害に関することは、〈包摂社会の実現〉の項目で「新しい資本主義を支える基盤となるのは、老若男女、障害のある方もない方も、全ての人が生きがいを感じられる多様性のある社会」と登場する。全体を見ると、「成長のための投資と改革」「外交・安全保障」に多くの紙幅が割かれている。外交・安全保障では、5年以内の防衛力の抜本強化、予算規模の把握及び財源の確保が明記。「選挙制度・憲法」の項目では、先の国会で衆参合わせて20回を超える憲法審査会が開催されたことを歓迎し、憲法改正の発議に向けて国会の場でこれまで以上に積極的な議論への期待を述べている。そして、結語には「信頼と共感」この姿勢を大切にするとある。

 「包摂社会の実現」が掲げられているが、「他の者との平等」を求める障害者権利条約、そして日本へ出された総括所見(勧告)は視野に入っているのだろうか。OECD諸国の中にある精神科病床の37%が日本にあるというデータがある(JD藤井代表と佐野理事が精査したデータ)。国策によって精神科病床を肥大させてきた歴史があり、日本には鍵のかかる病棟の中で期限も決められず生きる人たちがいる。街の中で生きることをあきらめ、年を重ねるごとに管理された精神科病院での生活から抜け出すことが不安になり、困難が増す。こうした状況を視野に入れたうえでの包摂社会の実現なのか。もっとも声を上げづらい人たちの声を聴く努力こそ、為政者の責任であろう。

 今国会で障害福祉関連法案の上程が予定されており、10月14日には定例閣議で法案上程が決定された。しかも障害者総合支援法、障害者雇用促進法、精神保健福祉法、難病法、児童福祉法の一括審議だという。この5法の改正案の中には障害者政策を前進させる内容もあるかもしれない。しかし、懸念事項も多い。こうした一括法案の提出で十分な審議ができるのか。さまざまな問題が内包されているからこその一括審議なのではないか。こうした審議形態をとる政府に対して「信頼と共感」は生まれない。「私たち抜きに私たちのことを決めるな」の基本姿勢を求めたい。

 所信表明を読んで懸念が広がるのは、戦争できる国への傾斜、憲法改正への動きが一歩前に進んだ印象があることだ。防衛が大事、闘う能力を高め、そのための予算措置が必要という路線が明確に示されている。日本の平和を守るための兵力増強だとし、人々の危機感をあおり、この機に憲法改正を進めたいという強い気持ちが見て取れる。

 とても危うい状況にある今、私たちは一方的な情報に与せず、障害分野だけではなく、生きづらさを抱える人たちの実態を共有していくことが重要だ。バラバラになるのではなく、違いがあったとしても議論を重ね、一致点を見出すことだ。そのためにはまずは生きた学習こそが必要だ。JDは微力かもしれないが、声を上げづらい人たちの声を拾い上げ、共に考え、話し合う場を創り、為政者にとっての厳しい声を発信し続けたい。

 「私たち抜きに私たちのことを決めるな」これは、日本社会全体に広げたい切実な叫びだ。


2022年10月の活動記録

What's New

優生連全国集会 野音/オンラインで2,500人! 原告らの"#いのちを分けない社会へ"の切実な声が日比谷に響いた
✓精神科病院での身体拘束要件緩和に強い危機感 精神障害のある人たちが厚労省へ要望書提出
✓旅館業法改正案 -ハンセン病元患者団体などが見直し求め意見書提出! JDも声明



いのちのとりで

生活保護基準はあなたの生活にも影響します
 田川 英信(いのちのとりで裁判全国アクション事務局)

寄稿-コロナ禍の中で-

コロナ禍で変わったこと
佐野 昇(全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 副理事長兼事務局長)

連載 家族も自分の人生を歩む 家族依存・家族支援を考える 第14回

多くの人と手をつないで
宮﨑 京子(花梨の家理事)

連載 障害者権利条約を日本で生かす3

障害者権利条約を身近に感じて
竹内 智彦(ゼンコロ事務局)

連載 COVID-19のインパクト 第22回(最終回)

アジアから:場面別7 -検査・ワクチン接種-
佐野 竜平 (日本障害者協議会理事 / 法政大学現代福祉学部教授)

私の生き方 第79回

西田 江里 (パーソナル・アシスタンス とも)

トピックス・インフォメーション

いんふぉめーしょん

介護保障を考える弁護士と障害者の会全国ネットオンラインシンポジウム 世界からみた介護保障ネットの10年

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