26年7月15日更新
2026年「すべての人の社会」7月号
VOL.46-4 通巻NO.553
■巻頭言 一つの本と一つの論文をきっかけに腎不全医療に新たな進展
JD理事 出森 幸一
2026年度は一つの本と一つの論文をきっかけに、腎不全医療に新たな進展がみられることになりました。今年度は2年に1度の診療報酬改定の年ですが、この度、透析患者の緩和ケアが初めて制度として位置づけられ、主に終末期の苦痛や不安を和らげる診療や入院などに加算が設けられ、生活の質(QOL)の向上が図られました。また、移植医療においては、臓器摘出と臓器移植の手術に従来の5倍もの点数が付いて推進が図られたほか、脳死判定後の脳死した身体への処置や検査、医学的管理などにも加算が設けられ、脳死移植の推進が図られました。
では、どうしてこのような診療報酬上の展開が生まれたのか? まず「透析患者の緩和ケア」については、ジャーナリストの堀川惠子著「透析を止(と)めた日」という書籍が世に出てベストセラーとなり、関係各方面に大きく反響を及ぼしたことにありました。
堀川さんの夫は透析患者で、NHKの番組ディレクターとして過酷なテレビ制作の現場に立ち、透析を12年、腎臓移植を9年、再び透析に戻り1年余りが過ぎる頃には全身状態がかなり悪化していました。堀川さんは付き添いから介護、看取りと続け、闘病の記録を克明につけ、関係機関には著作に必要な取材をジャーナリスト精神で濃密に行い、書き上げたのがこの本でした。人生最後の数日に人生最大の苦しみを味わうことになったが、それは本当に避けられない苦痛だったのかと疑問に感じていると著書の中で語り、緩和ケアの必要性が認識されながらも後回しにされ、十分に普及してこなかった現状などを明らかにしました。
また、「脳死移植」については、湘南鎌倉総合病院の腎移植外科医による提言論文『なぜ日本の脳死下臓器提供率は停滞したままなのか』が、世界で最も権威ある移植専門紙に掲載され、医療現場から発信する「制度変革のための医学的提言」が、国際的にも高く評価されたことにありました。「医師は治療に加え、家族説明、脳死判定、法的書類作成、院内外の調整、脳死判定後から臓器摘出までの全身管理を担わなければならず、救急・集中治療の現場では、これらを同時に行うことは現実的に困難である」ことが述べられています。さらにこうした脳死臓器提供関連業務にはほぼ診療報酬上の支援がないため、臓器提供の対象となり得る患者がいても、実際に医療者から提供の話が向けられるのは僅かとなり、その結果、脳死下臓器提供率が停滞し、毎年数千件規模の臓器提供の機会が失われている状況などが示されました。
日本の臓器提供率は先進国の中で極めて低く、移植待機リストに登録されている患者のうち、年間に臓器移植を受けられるのはわずか4%にとどまっているとのこと。これまで文化的・宗教的背景、とりわけ「遺体を損なわない」という価値観によるものが主な理由として挙げられていましたが、本論文では、真の障壁は医療制度内部の構造的欠陥こそが最大の問題であると示唆しています。
■視点 障害者権利条約20年 そしてこれから
JD常務理事 増田 一世
2006年8月25日 それから20年
2006年8月25日、障害者権利条約はニューヨークの国連本部に設置された特別委員会で仮採択、同年12月13日に国連総会で採択された。今年は制定から20年という節目の年だ。特別委員会に出席していた藤井克徳(JD代表)は仮採択の瞬間を「拍手と歓声、口笛と足踏みとが国連議場を覆いました。私は高揚する気分の中で、まるで議場が揺れ動いているように感じていました」1)と記している。
それから20年が経過し、2026年6月9日~11日、ニューヨークの国連本部での締約国会議において、日本障害フォーラム(JDF)が「障害者権利条約20年」をテーマとしたサイドイベントを主催(日本、オーストラリア、イタリア、メキシコ、ニュージーランドの政府代表、障害者権利委員会、国際障害同盟が共催)した。サイドイベントで藤井さんはJDF副代表として、この20年を俯瞰し、関係した人々に感謝し、改めて障害者権利条約の意義を語った。そして、歴史的な判決として優生保護法裁判の最高裁判決をあげ、基本合意書が交わされ、国会での謝罪決議、補償に関する法律の制定など、その後の動きにも触れた。優生保護法問題の検証会議にも障害者権利条約が生かされていると述べた。
人権を守る闘いを支える障害者権利条約
さて、筆者の視点で障害者権利条約20年を振り返ると、残念なのは、障害者権利条約の採択と障害者自立支援法(現在の障害者総合支援法)の施行が同年であり、応益負担や報酬の日額払い制度、規制緩和による障害福祉の市場化が始まったことだ。しかし、「私たち抜きに私たちのことを決めないで」というメッセージは力強く、障害者自立支援法違憲訴訟に、全国の障害のある人、家族が立ち上がった。そして、2010年には国との基本合意を結び、応益負担の被害を最小限にとどめるなど、障害者権利条約を追い風に障害のある人の権利を守る闘いは成果を上げた。
また、2022年の国連の障害者権利委員会による日本への勧告も大きな力になった。日本の法制度は父権主義だとの指摘は、私たちに大きなインパクトを与えた。勧告を手にして、障害の社会モデル/人権モデルの視点も身近になった。冒頭で触れたサイドイベントの開会挨拶で、国連障害者権利委員会委員長のキム・ミヨン氏は次の10年への展望として「私たち抜きに私たちのことを決めないで」を政策決定の標準(原則)とすべきだと述べた。この言葉は重い。「よかれと思って」という父権主義に傾いたり、当事者不在で大事な物事が決められていったり、参加しようと思っても参加を阻む障壁が立ちはだかる。しかし、何かを変革しようとしていくときには、気づいた人が声をあげ、小さな声を聞き逃さない人がいて、小さな声が束なって大きな動きを生んでいくことを私たちは体験してきている。それを支えてくれるのが障害者権利条約だ。
世界のあたりまえを日本でも
これからの10年に向けては、「国内人権機関」の設置が重要課題の1つになるだろう。世界の120以上の国にあり、日本にないのが不思議だ。国内人権機関の設置の背景には、第二次世界大戦の反省と教訓があるという。政府は過ちを犯し得ること、自らの政策を中立公正に評価するのは困難であることが国際社会の共通認識だそうだ。
「私たち抜きに私たちのことを決めないで」を実質化していくためにも国内人権機関の設置は必須である。
1)藤井克徳:私たち抜きに私たちのことを決めないで;やどかり出版、2014
津久井やまゆり園事件 十年の節目に 優生思想を乗り越えるために
行政の責任と障害者の尊厳を問う「みんなのため」の訴訟
中島 哲(弁護士)
佐藤 久夫(日本障害者協議会理事)
丸山 啓史(全国障害者問題研究会副委員長 / 京都教育大学教授)
『スクリーンリーダー』は読み書きの翼
芳賀 優子(共用品推進機構所属)
全世代型社会保障改革と人権保障を考える
長友 薫輝(佛教大学社会福祉学部教授 / 日本高齢期運動サポートセンター理事)
物乞い、それとも信仰上のアイコンか
古本 聡(翻訳業)
第94回 ありのままの自分でいいと伝えたい
佐々木 来知(岩手県在住)
当事者として福祉に関わっていきたい
佐々木 来夢(岩手県在住)
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