障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

25年1月21日更新

2025年「すべての人の社会」1月号

2025年「すべての人の社会」1月号

VOL.44-10 通巻NO.535

年頭にあたって 今でなければできないこと

JD代表 藤井 克徳

 

 社会を形づくる上で、金銭では太刀打ちできないもの、また組織や集団では得られないものがある。その一つに、個人に蓄積されている記憶があげられる。記憶の蓄積は、時に個人を飛び出して、社会の規範や思想と言われるものに結実し、人びとの考え方や社会のあり方に影響することが少なくない。

 ただし、個人の記憶の蓄積は、それがどんなに価値があろうと、寿命が尽きるのと同時にきれいに消え失せてしまう。文字通り無形の財産なのである。せめてもと、人間社会は個人の記憶を伝承や文字に転化してきた。昨今では、AIの駆使を含む録音や録画なども有力な記憶保存の手段になっている。

 そんなことをつらつら考えながら、あらためて「今年」、「この時期」を考えてみた。迫ってくるのは、今でなければ得られない記憶の継承についてである。連想が膨らみ始める。

 今年は戦後80年、広島と長崎の被爆80年とも重なる。日本被団協によると、被爆者の平均年齢は86歳という。戦争体験者も被爆体験者も、次の節目となる90年となると、激減するに違いない。より苛烈さを伴った障害のある人のそれも同様である。

 連想はさらに進む。ハンセン病療養所の在籍者、優生保護法に基づく強制不妊手術や人工妊娠中絶を強いられた人たちの高齢化も気になる。全国のハンセン病療養所(国立13カ所、民間1カ所)の最新の在籍者総数は720人にまで減り、平均年齢は88歳を超えたという。優生手術を強制された人の平均年齢ははっきりしないが、80代と90代に集中しているのは間違いない。戦争や被爆の体験者と合わせて、これらの聴き取りも猶予はない。それどころか、寸刻を争うと言っていい。

 よく耳にするフレーズに、「もっと聴いておけばよかった」「そのうちに聴こうと思っていたのに…」がある。個人レベルの思い出話であればそれで済まされよう。しかし、歴史や社会の好転に影響するとなればそうはいかない。「思い立ったら即」の怠りは、「見えない大罪」に等しかろう。次の10年までになどと言わずに、ここ数年が勝負とみるべきである。JDの本体ならびに会員(加盟団体)はもとより、多くの団体や関係者にあっても、見えない大罪に染まってほしくない。

 戦後80年の節目を、体験と記憶の聴き取り集中期間の新たなスタートとすべきでは。今を生きる私たちの責任は重い。例年に増して身の引き締まる屠蘇(とそ)となった。

新春鼎談 "さらば優生思想!補償と検証元年"
        優生保護法裁判の勝利、そして補償法の成立-その意義とこれから-          


福島 みずほ ふくしま みずほ 
参議院議員 / 優生保護法下における強制不妊手術について考える議員連盟事務局長

大竹 浩司 おおたけ こうじ 
一般社団法人全日本ろうあ連盟優生保護法対策チーム長 /
優生保護法の全面解決をめざす全国連絡会(優生連)共同代表

藤井 克徳 ふじい かつのり
JD代表 / 優生連共同代表 *進行


◆2024年の最大トピック
藤井:あけましておめでとうございます。混沌とした、閉塞感の強い社会状況にあって、昨年の優生保護法裁判の最高裁大法廷判決と、被団協のノーベル平和賞の知らせは際立った吉報でした。優生保護法問題は、日本の人権分野からみても、障害分野からみても、最大の未決着の問題でした。2018年に仙台の被害者が提訴したことで社会に表面化し、昨年7月3日の最高裁判決が出て、政府が動き、国会の謝罪、補償法(旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者等に対する補償金等の支給等に関する法律)成立と、事態は一気に進みました。大法廷判決から半年、そして新年を迎えた今、裁判を振り返り、その意義を考えたいと思います。
 福島さん、大竹さんは、異なる立場でのキーパーソンです。先ずは最高裁大法廷判決をめぐる感想を伺います。

福島:昨年の最高裁判決を受けて国会は議連(優生保護法下における強制不妊手術について考える議員連盟)を中心として、補償法を作りました。最高裁は優生保護法の立法自体が違憲だと断じました。除斥期間も適用しないとしたことの意味はとても大きいと思います。行政・都道府県、審査会などいろいろな局面での問題はありますが、優生保護法が完膚なきまで断じられたことを、国会は、真摯に、極めて重く受けとめ、議連はその意義を生かすことからスタートしました。
 しかし、ここまでの道のりに、ものすごく時間かかりました。優生保護法は1948年にできて、1996年に母体保護法に変わりましたが、その時は残念ながらあまり議論がありませんでした。
 日本は1998年に国際人権(自由権)規約委員会から補償をするよう勧告を受けています。国会で私は何度か質問しましたが、事態は進みませんでした。それが、強制不妊手術を受けた被害者が弁護士会に人権救済を申し立て、各地で裁判が提訴され、原告、代理人、支援者が声を上げたことで大きく動きました。謝罪と補償法成立まで余りに長く時間がかかったことは本当に申し訳ないと思っています。

藤井:福島さんは弁護士でもあり、法律にお詳しいですが、当時の社会状況を勘案しても最高裁は違憲と断じました。これは予想された判決でしたか?

福島:違憲判決は私も予想していました。25,000人以上の方々から、同意なしで生殖能力を奪うという凄まじい被害を与えたのですから、最高裁が断じたのは当然だと思います。
 従前の一時金支給法(旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律)に基づき、衆参の厚労調査室が分厚い調査報告を出しました。優生保護法が制定される時の国会議事録も読みましたが、差別的表現と差別的思想に基づいて作られた法だと思っていたので、最高裁はよくぞ言ってくれたという思いと同時に、憲法からすれば当然の判断だと思います。

藤井:大法廷は15人の裁判官で構成されますが、15対0と、原告側完全勝訴です。判例変更までして、違憲としました。大竹さんは判決を聞いた瞬間どのような感想を持たれましたか?

大竹:私は最高裁判決は傍聴できませんでしたが、衆議院議員会館内で原告の勝訴判決のニュースを見て驚き、これはすごく画期的だと思いました。

◆「除斥期間」(時の壁)を打ち破った!
藤井:除斥期間とは、不法行為から20年経過すると損害賠償の請求権が消滅するという民法の規定です。高裁では、良いとされた判決でさえ何らかの期限が付けられるなど、判例の枠内での判決でしたが、最高裁は無条件で適用しないとしました。このことで、懸念していた原告の分断が避けられました。被害者の結束の土台ができたと安堵しました。

大竹:今回の優生裁判を通して初めて、「除斥期間」という言葉を知りました。原告が被害を訴えても、20年経ったから阻むという国の言い分は、人間としての人権を認めない、余りにも理不尽だと腹が立ちました。大阪地裁判決、一時金支給法の5年間の期限などは、原告や被害者に対するお詫びというか配慮がないと思わざるを得ません。
 今回の判決は、優生連(優生保護法の全面解決をめざす全国連絡会)が33万3602人の署名を集めて最高裁に提出したことが大きな力になったと確信しています。

 つづきは本誌で。

2024年12月の活動記録


連載 障害のある人と警察のあり方 第6回(最終回)

健太さんの悲劇を繰り返さないため、活動を進めよう

辻川 圭乃(弁護士 / 「健太さんの会」事務局長)




連載 障害者権利条約を補完する 一般的意見をどう理解する? 第5回

一般的意見第4号(2016年)第24条―インクルーシブ教育を受ける権利―

井上 育世(NPO法人全国LD親の会理事長)




連載 赤國青春記 第3回

~モスクワでただ一人、車いすの高校生~

 古本 聡(翻訳業)

  


私の生き方 第86回

 岡村 晃太(北海道在住)

  


トピックス・インフォメーション・読書案内


いんふぉめーしょん 

JD特別セミナー『なぜ、現行の年金・雇用制度では自立できないのか!―障害者の所得保障のあり方を問う―』




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