障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

24年12月24日更新

2024年「すべての人の社会」12月号

2024年「すべての人の社会」12月号

VOL.44-9 通巻NO.534

巻頭言 障害年金制度のゆくえ

JD理事 木太 直人

 今から40年以上前の話になりますが、当時学生であった私は夏休みになると東京郊外の市営プールで監視員のアルバイトをしておりました。7月下旬から8月いっぱいの40日間程度、毎週月曜日が休みで、毎日8時半から18時までの勤務でしたが、監視員は2班に分かれて1時間交代で休憩が取れ、しかも休憩時間も時給の対象となったので、割と楽で楽しいアルバイトでした。そのときの時給はたしか550円だったと記憶しています。東京都の最低賃金がようやく400円を超えた時代です。

 それから2年後、私は福祉学科の学生として精神衛生センター(現在の精神保健福祉センター)でソーシャルワーク実習を体験することになります。そのデイケアの職員から、デイケアの卒業生(精神障害のある人)が勤務している事業所では1日500円で雇ってもらっているという話を聞き、衝撃を受けました。おそらくはその事業所では最低賃金の適用除外申請をしていたのだと思います(2007年以降は最低賃金の減額特例制度に変更)。さらに、その職員の「『働く』ということは『端(はた)を楽にする』ことなのに、この人たちが働くことはその逆なんだよ」という言葉に強い違和感を覚えました。

 40年後のいま、東京都の最低賃金は1,161円で、かつてのプール監視員の時給の倍以上になりました。それでも月22日、1日8時間働いたとして、ようやく20万円を超える程度、年収にして250万円程度です。一方、障害のある人の所得保障の中核を担う障害年金制度では、障害基礎年金の2級の年金額が813,700円、1級でも1,017,125円です。つまり最低賃金で働く人の年収の1/3または2/5しか保障されていないことになります。この年金額が果たして妥当なのか、改めて検証される必要があるのではないでしょうか。

 いま社会保障審議会年金部会では次期年金制度改正に向けた検討が重ねられています。年末までには年金部会としての取りまとめが行われ、2027年の通常国会には年金制度にかかる改正法案が提出される見込みです。注目すべきは、年金部会における主な検討事項の一つとして「障害年金」があげられていることです。障害年金については、7月30日の部会に「現時点で議論が求められる課題」として「初診日」「事後重症の場合の支給開始時期」「直近1年要件」「障害年金受給者の国民年金保険料免除の取扱い」に係る論点が示されています。残念ながら年金額については論点となっていませんが、40年前の大改正以来の障害年金制度改革がどうなるのか、目が離せません。

視点 障害者差別を助長する東京地裁判決-「公知の事実」なのか-


JD常務理事 増田 一世

◆「かごの鳥」が示す隔離収容政策
 「かごの鳥」(やどかり出版、2024)と題した1冊の本がある。著者は伊藤時男さん。サブタイトルは「奪われた40年の人生を懸けた精神医療国家賠償請求訴訟」。伊藤時男さんは10代に精神科病院での入院生活が始まり、入院生活は40年にも及んだ。この長期にわたる入院は、厚生省/厚生労働省の政策の違法性にあると、被告を国として損害賠償を求める裁判で闘っている。

 伊藤さんは、精神科病院での生活はまるで「かごの鳥」のようで、自分の意思で外出できない、病棟内では何をするにも監視されて、自分一人の自由がなかったと語り、その思いを「夢」という詩に託した。そして、2011年の東日本大震災をきっかけに60歳を過ぎてやっと「かご」から出ることができた。退院後伊藤さんは「かご」の中から出られない人はたくさんいる、長期入院は自分だけの問題ではない、この裁判で少しでも日本の精神医療が変わること、長く入院している人たちの役に立てればと思い原告として立ち上がった。

 「かごの鳥」には、伊藤さんの原告としての意見陳述、代理人の意見陳述、そして、伊藤さんの生い立ちから退院後の暮らし、原告として闘う覚悟が記されている。JDの藤井代表も「歴史に恥じない判決を」と題して一文を寄せている。資料も豊富で、伊藤さんの年表や記者会見や訴状が収められている。この1冊を通して日本の精神科病院の隔離収容政策、そして社会的入院を生み出した背景がよくわかる。国の誤った政策を大きく見直すことなく来たことが、伊藤さんはじめ多くの社会的入院を生み出してしまったのだ。

◆東京地裁判決
 2024年10月1日に伊藤さんが人生を懸けて闘っているこの裁判の東京地裁での判決が出た。傍聴者は全国から詰めかけ、傍聴できなかった人もいたほどだ。裁判が始まり、シーンと静まり返る法廷で、裁判長は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」と告げ、閉廷となった。そして、裁判後の報告会で判決要旨が説明された。

 〇入院の長期化は原告の症状によるものだった。
 〇統合失調症等の精神疾患を有する患者は症状・病状による影響で判断能力に不調を来すことがあり、患者本人が適切な判断をすることができず、本人の利益を守るために本人の同意がなくても入院が必要になるのは公知の事実。
 〇精神医療審査会への退院請求や弁護士に救済を求めることができた。

 結局、精神科病院での入院が長引いたのは国の責任ではなく、伊藤さん自身によるものだという判決だった。

◆人権侵害を助長する「公知の事実」
 判決では精神疾患のある人が、病状のために判断が難しい時には強制入院が必要なのは「公知の事実」、つまり誰でも知っていることだとした。これは司法が精神障害者差別を助長した判決に他ならない。この重大な判決を下すために裁判官は精神科医療の歴史を、社会的入院患者のことをどれだけ調べたのか、鍵のかかっている病棟に足を踏み入れ、自由を奪われている事実を理解していたのか。伊藤さんの人生を懸けての裁判にもかかわらず、精神障害のある人の尊厳を踏みにじる判決だった。

 障害者権利条約は、締約国に対し、障害の医学モデルから社会モデル/人権モデルへの転換を求めている。当然裁判所も締約国の重要な構成員だ。2022年の国連勧告は、非自発的入院は機能障害を理由とする差別であり、非自発的入院による自由の剥奪を認めるすべての法規定の廃止を求めている。司法府こそ国際条約を順守すべきであろう。

2024年11月の活動記録



障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす会ニュース60

  


報告 JD 障害者のしあわせと平和を考える 憲法と障害者2024




連載 「優生思想に立ち向かう」を終えて

-優生保護法問題全面解決に向けて問題の社会化を-

  


連載 出かけよう!おとなも読みたい えほん・児童文学の時空旅 第15回

さむがりやのサンタ

品川 文雄(発達保障研究センター前理事長 / 元小学校障害児学級教諭)




連載 障害のある人と警察のあり方 第5回

障がいのある人と刑事司法:海外における現状と実践

水藤 昌彦(山口県立大学社会福祉学部社会福祉学科教授)




連載 障害者権利条約を補完する一般的意見をどう理解する? 第4回

一般的意見第3号(2016年)第6条―障害がある女子―

南 由美子(全日本難聴者・中途失聴者団体連合会国際部副部長)




連載 赤國青春記 第2回

モスクワでただ一人、車いすの高校生

古本 聡(翻訳業)




連載エッセイ 障害・文化・よもやま話 第47回

「優生」に悩んだ障害者たち―長く語り伝えるために―

荒井 裕樹(二松学舎大学教授 / 障害者文化論研究者)




トピックス・インフォメーション



いんふぉめーしょん

待望の新刊! リハ協ブックレット(2) 「福祉的就労」をめぐる国内外の動向―「社会支援雇用」実現をめざして―




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