障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

24年11月19日更新

2024年「すべての人の社会」11月号

2024年「すべての人の社会」11月号

VOL.44-8 通巻NO.533

巻頭言 ノーベル平和賞が翼になることを願って

JD理事 赤平 守

 日本国憲法第十四条「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」

 女性初の弁護士、裁判官になった三淵 嘉子(みぶち よしこ)の実話をもとにした今年上半期のNHKの朝ドラ「虎に翼」は初回の冒頭、この14条の朗読から始まり全編を通して幾度となく14条が登場するという、異色かつ画期的なドラマであった。今回はこの「虎に翼」に関して書こうと決めて、原稿に執りかかった矢先の10月11日の夕方、素晴らしいニュースが飛び込んできた。

 「ノーベル平和賞に日本被団協」-この「被団協」とは、昨年11月2日のJD主催の憲法セミナーで講演をしていただいた木戸 季市(きど すえいち)さんが事務局長を務める「日本原水爆被害者団体協議会」のことである。報道直後から、世界中のあらゆるメディアがその意義深さと「被団協」の活動の歴史を取り上げているので、ここでは1年前の木戸さんのあるエピソードを紹介しようと思う。

 セミナー当日、会場にギリギリに到着された木戸さんから「夕べ作ったのですが」と言って8ページ分の追加資料が手渡されたのだが、その最後には、何度も差別発言を繰り返す、ある国会議員に関する新聞記事がホッチキス止めされていた。木戸さんはふと「愚かしい」と漏らした。「核廃絶」の願いと共に、無知と偏見による「ヒバクシャ差別」への怒りは運動継続の大きなエネルギーであることを改めて感じた。

 それから5か月後にスタートした「虎に翼」ではマイノリティーな立場の人の生きにくさの夫々が描かれていく。そして9月には史実に基づいて大きく原爆裁判を取り上げ「ヒバクシャ差別」があった事実と「アメリカ軍による広島・長崎への原爆投下は国際法に違反する」という世界初の判決文が読みあげられるクライマックスシーンに辿り着くこととなる。さらに1か月後「ノーベル平和賞に日本被団協」のニュースは世界を駆け巡った。

 時間は前後するが、木戸さんは憲法セミナーで14条以外にも基本的人権の諸原則についていくつか述べられていたが、それらを束ねる最も重要な憲法の条文として第十章最高法規を揚げている。できれば是非、声を上げて読んでほしい。

 第九十七条「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」

視点 優生保護法最高裁判決と障害当事者の役割


JD副代表 石渡 和実

 7月3日の最高裁による「胸のすくような名裁き」(10月号「視点」の藤井克徳代表の言葉)から、優生保護法関連の動きが猛スピードで進んでいる。首相や国会の謝罪、国と原告・弁護団・優生保護法問題の全面解決をめざす全国連絡会(優生連)との間で基本合意書の締結、そして、10月8日には「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者等に対する補償金等の支給等に関する法律(補償法)」が成立した。

 補償法では、強制不妊手術の被害者本人に1500万円、配偶者に500万円、中絶手術被害者には200万円が補償されることとなり、「判決を上回る救済」「踏み込んだ内容」などと評価されている。藤井代表が前号で、国の姿勢として「判決を凌駕する構え」を求めたが、法律では「到達した」と言うこともできよう。今後は、補償がすべての被害者に行きわたるための方策をどのように講ずるかが問われる。必要とする方に、プライバシーに配慮しながら、裁判の成果が確実に届くことを願わずにはいられない。

 最高裁判決とその後の進展を考えるにつけ、被害者である原告や弁護団、関係者の皆さんのご尽力に改めて敬意を表したい。朝日新聞の「取材考記」(9月10日デジタル版)でも、仙台で裁判を始めた新里宏二弁護士が被害者に突き動かされ、「被害者の声が社会を動かす」と信じて闘ってきた、という談話が紹介されていた。最高裁弁論でも、原告らの率直な訴えが裁判官の心を揺さぶり、15人全員一致の違憲判決を勝ち取ったとの指摘も多い。地裁・高裁・最高裁と、それぞれの場で当事者が大きな役割を果たしてきたのである。

 原告被害者の皆さんは既に高齢となられており、判決後、多くの原告が「静かに暮らしたい」という思いを語られていた。残された人生をどのように生きるか、納得できる日々を送れるかは補償金だけで済むことではない。それぞれの想いに寄り添う支援者とともに、地域の人々が果たす役割がより重要になってこよう。これまでの闘いに敬意を払いつつ、地域での当たり前の暮らしを実現するために、原告を支えるネットワークを地域全体に広げ、穏やかな毎日が送れるような地域作りが求められる。

 10月6日に横浜で、「障害者権利条約と重度障害者の地域生活推進」というフォーラムが開かれた。「重症心身障害者」と呼ばれる、植松死刑囚なら真っ先に「生きる価値がない」と断ずるであろう人々の支援である。このような人々の地域生活を50年以上支えてきた、横浜市の「朋」や兵庫県西宮市の「青葉園」の実践が紹介された。今はグループホームでの「看取り」も検討され、利用者と職員とが一緒になって知恵を出し合い、試行錯誤を重ねている。言葉を発することや行動することが難しい人達であるが、その意図を汲み取る工夫を重ね、納得できる関わりを探すなかで、新たな支援や安心できる地域が生まれてきているという。障害者権利条約17条が主張する「そのままの状態」で、侵すべからざる存在(integrity)として、支援者を育て、新たな地域を築くことに大きな貢献をしているのである。

 優生保護法裁判は、「不良な子孫」の障害者観を「社会を動かす」存在へと転換し、社会を大きく変革しつつある。その闘いの意義を伝え、残された課題の解決に向かうことが、さらなる地域や社会の変化をもたらし、原告被害者の穏やかな日々や充実した暮らしを支えていくことにもなるはずである。障害者運動の大きな一里塚となった裁判である。

2024年10月の活動記録



連載 出かけよう!おとなも読みたい えほん・児童文学の時空旅 第14回

三びきのやぎのがらがらどん

品川 文雄(発達保障研究センター前理事長 / 元小学校障害児学級教諭)

  


連載 障害のある人と警察のあり方 第4回

知的障害の理解と啓発のため活動を続ける

佐々木 桃子(全国手をつなぐ育成会連合会 会長)




連載 障害者権利条約を補完する一般的意見をどう理解する? 第3回

一般的意見第2号(2014年)第9条 アクセシビリティ ―幅広い分野の連携が大切―

星川 安之(日本障害者協議会監事 / 共用品推進機構 専務理事)

  


論考 刑法 性犯罪規定の改正における障害者の位置づけの変化と今後の課題

岩田 千亜紀(法政大学現代福祉学部助教)




投稿 優生保護法の被害者補償への「なが~い」道のり

一国連勧告の積極的活用を一

馬橋 憲男(フェリス女学院大学名誉教授)




新連載 赤國青春記 第1回

モスクワでただ一人、車いすの高校生

古本 聡(翻訳業)




What's New

総括所見の視点から見た「制度の谷間」 ~コロナ後遺症を巡る現状~

篠原 三恵子(筋痛性脳脊髄炎の会理事長)




トピックス・インフォメーション



いんふぉめーしょん

JDF全国フォーラム JDF 20年の歩みと未来への展望 障害者権利条約の目指す社会の実現に向けて




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