障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

24年6月21日更新

2024年「すべての人の社会」6月号

2024年「すべての人の社会」6月号

VOL.44-3 通巻NO.528

巻頭言 朗報!精神障害者の運賃割引 この成果をさらなる制度改善に!

JD理事 白沢 仁

  本年4月11日、JRグループ、東京メトロ、大手私鉄各社が鉄道運賃割引制度において精神障害者の対象適用を発表しました。実施時期は、JRグループが2025年4月、私鉄では京成電鉄が最も早く本年6月、東京メトロが同8月など、各社ともに多少の違いはありますが、いずれにしても来年4月には精神障害者の割引が身体・知的障害者と同様に実施されることになりました。

 ふりかえると、1952年に「身体障害者に対する日本国有鉄道等の旅客運賃の割引について」の厚生省(当時)通知を受け、国鉄(当時)が「身体障害者旅客運賃割引規則」を公示して、身体障害者の運賃割引制度が実施され、今年で72年が経過しました。この間、適用範囲が拡大され、制度実施から38年後の1990年に身体障害者であるにもかかわらず、対象除外されていた内部障害者(心臓・腎臓・呼吸器・膀胱・直腸・小腸・ヒト免疫不全による免疫機能障害)、翌1991年に知的障害者が割引対象になりました。

 今回の精神障害者の割引は、精神障害当事者やその家族の粘り強い運動はもちろん、長年、障害者・患者に対する運賃割引を求め続けてきたすべての障害者関係団体にとっても大きな成果・朗報といえます。制度実施から70年以上、知的障害者の対象化から30年以上も経過した久々の成果に確信しつつ、この確信をさらなる制度改善を求める運動の力にしていくことが必要です。

 改善すべき課題は山積みです。そもそも運賃割引制度は、収入の少ない障害者に対する経済支援であるとともに、社会参加を促進するための重要な役割をもつ制度であることを国・国土交通省はもちろん、各鉄道事業者において徹底していくこと。その上で、国の福祉施策か企業努力かの責任のなすり合いではなく、国の必要な財政支援に基づく企業努力といった、割引制度そのものの仕組み自体を見直す必要もあると考えます。

 なによりも、難病者をはじめ、いまだ対象から除外されている障害者・患者がいること、「介護者あり」と「単独乗車」、「第1種」と「第2種」の違い、JRの「特急券」除外同様に各鉄道事業者によって「普通券」と「定期券」の扱いの違いなど、さまざまな制限があること、単独乗車における「片道100キロを越える区間に限り割引」など、早々に改善を求めていかなければなりません。

 運賃割引制度の対象は、身体・知的・精神の福祉法に基づく障害程度等級表等を活用しています。「医学モデル」以外の何ものでもありません。この運動は、障害者権利条約にふさわしい施策の実現を求める課題であり、「人権モデル」をふまえた制度改善が求められる課題です。いよいよ害の違いを乗り越えた、新たな運動を開始しましょう。

困難な課題への取り組みを継続していく
 ―第14回総会議案書『『はじめに』より―          


 2023年、日本障害者協議会(JD)は国際リハビリテーション協会(Rehabilitation International/RI)の100周年記念貢献賞受賞といううれしいニュースから始まり、藤井克徳代表が北京で開催された授賞式に参加し挨拶の機会を得た。また、JD編「障害と人権の総合事典」を出版し、ヤマト福祉財団の助成金を受け、公立図書館、大学図書館などに計733冊を寄贈できた。JDの長年にわたる活動の蓄積が内外で評価される1年であった。

 一方、2024年の元日は能登半島大地震から始まった。障害があることで災害時の困難は増大する。そのことを想定した災害時の備えがあるのか、過去の災害の経験を生かせているのか、日本障害フォーラム(JDF)と連携した被災地の支援活動に取り組むなかで政策課題を提起していきたい。

 ウクライナへのロシアの侵攻は未だ終息の目途がつかず、ガザでの人道危機で無辜の人々のいのちが奪われている。平和でなければ障害のある人は生きづらいことは歴史も物語っている。国内では周辺有事が声高に叫ばれ、沖縄が再び日本の盾として位置づけられ、軍事費の増大も顕著だ。国会での議論も抜きに、武器の共同開発・輸出が始まる。戦争する国日本への傾斜に対し、JDとして警鐘を鳴らし続けなければならない。

1.平和を守り、日本国憲法を生かす
 憲法99条では国会議員らの憲法遵守義務が定められているにもかかわらず、総理大臣は「総理在任中に憲法改正の発議を」と繰り返し述べており、日本国憲法を軽視する現政権の姿勢を強く正さなくてはならない。2023年11月に開催したJD集会「憲法と障害者」は原爆被害を受けた当事者の体験に基づき、日本国憲法を国際的な基準にするべきという力強い主張に日本国憲法の価値を再確認した。憲法改正を目指す現政権下だからこそ、憲法を学び、守り、身近な存在として生かしていくことがこれまでにも増して重要になっている。

2.障害者権利条約、総括所見(勧告)を生かした障害者基本法改正
 障害者基本法改正も喫緊の課題である。JDとしての障害者基本法改正の柱を、①障害者権利条約、国連からの総括所見、②2010年に内閣府に設置された障がい者制度改革推進会議でまとめた障害者制度改革のための第二次意見とし、障害者基本法の改正の方向性を明確化してきた。2024年度はJD内での検討を重ね、JDFと連携し、障害者施策の水準を押し上げていくための障害者基本法改正実現に向けた運動を推進していく。

 JDとしては、障害者基本法改正に加え、障害者権利条約プロジェクトチームを中心に加盟団体と一体になりながら、総括所見の理解を深め、障害者権利条約と総括所見を実質化するための法整備の必要性などを検討し、効果的な提言を行なっていく。

3.自然災害と障害のある人 これまでの経験を生かした能登半島地震への取り組み
 JDはJDFの構成団体として、能登半島地震で被災した障害のある人や支援を求める人たちに向けた現地支援センターの立ち上げに協力し、加盟団体に働きかけ支援員の派遣等を行なっていく。同時に東日本大震災や熊本地震での経験をどう生かしていくのかが問われている。被災の現場では日頃の困難が増幅して現れることを経験してきた。大災害に直面した時、障害のある人や災害弱者といわれる人たちが日常を取り戻すことはそう簡単ではない。障害のある人の実態やニーズに即した提案や要望活動もJDFと協力して随時行なっていく。
JDF災害総合支援本部

4.障害のある人の権利擁護に向けた取り組み
 障害関連施策の動向を注視し、声明/要望書の発信等をタイミングよく行なう。障害のある人の人権救済や生活の質の向上に向け、必要な取り組みを進める。

1)優生保護法問題への取り組み
 各地の原告の切実な訴え、弁護団、支援する人たちの粘り強い取り組みの中で、2024年5月29日には最高裁大法廷での審議を迎える。取返しのできない国の過ちを司法で明確に認めさせ、立法府・行政府の責任ある謝罪と補償を実現させるための関係者の一塊の運動が求められている。そして、社会に広がる優生思想と向き合い、生きづらさが蔓延する社会から、誰のいのちも等しく大切であることを共通の価値とする社会の実現に向けてたゆまぬ努力を続けていく。

2)精神医療改革
 死亡退院が多く、院内での深刻な虐待被害が発覚した滝山病院事件だが、未だ同病院に取り残された人たちがいる。精神科病院での虐待事件が続く背景には、日本の精神科医療の構造的問題と精神疾患への根深い偏見差別がある。2024年4月施行の改正精神保健福祉法は病院内の虐待対策を求めている。障害者虐待防止法から切り離されたこの改正法が病院内の虐待防止に役立つのか危惧される。

 国連からの総括所見で指摘されているように強制入院を定めた精神保健福祉法そのもののあり方を問い、抜本的な法改正と地域支援の充実を求める政策提言を行なう。

3)障害のある人の投票への合理的配慮を求める取り組みの継続
 障害のある人の政治への参画は当然の権利だが、投票行動の際の障壁が大きいことも明らかである。JDとNHKみんなの選挙プロジェクトとの連携した取り組みで、自治体ごとの取り組みも進みつつあるが、まだまだ障壁は残されている。国政選挙の実施なども視野に入れ、投票行動の際の合理的配慮を求める取り組みを継続する。

4)JD編「障害と人権の総合事典」の更なる普及
 本事典は、障害者権利条約を基本に当事者の視点、現場の実態を踏まえ、JDのこれまでの蓄積を踏まえた出版となった。2023年6月には厚生労働省記者会で本事典の記者発表を行ない、各地で新聞報道された。刊行から1年が経過し、2024年度は本事典をさらに広げ、障害者権利条約を社会に浸透させていくための努力を続けていく。そのための映像等を活用したプロモーション活動なども行なう。

5.JDの運営について
 COVID-19のもたらした影響はJDにとっても大きかったが、一方でオンラインでの会議やセミナーは障害や距離による参加の障壁を低減した。一方で日常的な関わりが減ることは、人と人との関係を希薄にすることにならないか危惧するところだ。JDとしてはオンラインの特性を生かしつつ、実際の出会いの場も大事にする1年とする。

 また、加盟団体の中にはその使命を終えたとして会を閉じる、あるいは会員減などで運営が困難になるといった状況が散見される。JDに加盟する団体が互いに知恵を出し合い、さらなる協力関係を築いていくために取り組んでいく。そして、JDの仲間として共に活動する団体を広げていきたい。合わせて、JDの活動を支える賛助会員を3年間で1000人に広げていく。活動の要である事務局体制の確立が重要であり、2人の事務局員とともに役員をはじめ加盟団体の参加型の運営を目指していく。
賛助会員募集中

2024年4月の活動記録


ささえあい・つながり・わすれない

能登半島地震の被災障害者支援について考えること

阿部 一彦(日本障害フォーラム(JDF)代表)




What's New

逼迫する職員不足と2024年報酬改定のゆくえ その②

小野 浩(きょうされん常任理事)




支援現場のいま

強度行動障害のある人の支援について

日詰 正文(国立重度知的障害者総合施設のぞみの園 研究部 部長 
/ 日本発達障害ネットワーク 副理事長・事務局長)

  


連載 赤國幼年記Special版14

~旧ソ連の障害児収容施設~

古本 聡(翻訳業)




連載 障害者権利条約を日本で生かす 18

もっと身近にしたい障害者統計

佐野 竜平(日本障害者協議会理事 / 法政大学現代福祉学部教授)

  


連載エッセイ 障害・文化・よもやま話 第44回

「優生」に悩んだ障害者たち――ハンセン病療養所の性的少数者(後編)

荒井 裕樹(二松学舎大学教授 / 障害者文化論研究者)




トピックス・追悼

世界を変えた知的障がい者 ロバート・マーティン卿



いんふぉめーしょん 

最高裁大法廷での情報保障を求める緊急要望




賛助会員大募集中!
毎月「すべての人の社会」をお送りいたします。

■個人賛助会員・・・・・・・1口4,000円(年間)
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▼お申し込みは下記JD事務局へメール、電話、FAXなどでご連絡ください。
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 日本障害者協議会
TEL:03-5287-2346 FAX:03-5287-2347

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※視覚障害のある方向けのテキストデータ版もございます。
※ご不明な点はJD事務局までお問い合わせください。



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