24年2月27日更新
VOL.43-11 通巻NO.524
JD理事 山下 康
障害者虐待が止まらない。厚労省は昨年12月、「2022年度の障害者虐待は過去最多の3,482人に上った」と発表した。事業所職員からの虐待956件の内訳は、グループホーム26.4%、障害者支援施設22.4%と生活の場が約半数を占める。被害の内容は、身体的虐待が46.4%、知的障害者が72.6%、また44.4%が生活支援員からの虐待とある。この数字の見方を変えると「障害者関連施設において、生活を支援する職員から知的に障害のある者が暴力の被害を受けている」という典型的な虐待の構図が浮かび上がってくる。暮らしの場で繰り返される暴力。決して安心して生活できる現状ではない。
神奈川県のある施設では、体調不良で食事が取れないことを案じ、本人がポータブルトイレで排泄中に食事の支援を行い、虐待認定された。他の施設でも食事介助を拒否することに腹を立て、威嚇して食べさせようとしけがをさせてしまった。この職員は、過去に脅かしたら食べてもらえた体験があったと述べている。暴力的・威圧的な支援での成功体験(残虐行為)は、繰り返される。虐待行為は一種の依存症と言える。また、やってあげているという意識や、職員が一方的に良かれと思って支援を押し付ける。まさにパターナリズムである。人権意識はどこへ行ったのか。
障害者福祉施設で虐待が発生する背景には、障害の特性に対する知識や理解の不足、障害者に対する人権意識の欠如、施設の閉鎖性などがあるといわれる。ではどう解決へ導くのか。研修の強化や外部の目を入れる、第三者委員会の立ち上げなど様々な工夫はされているが、それだけでは不十分である。解決策として私は、意思決定支援の取り組みを加速させることだと確信している。厚労省ガイドラインでの意思決定支援の定義は「自ら意思を決定することに困難を抱える障害者が、(略)可能な限り本人が自ら意思決定できるよう支援し、本人の意思の確認や意思及び選好を推定し、(略)推定が困難な場合には、最後の手段として本人の最善の利益を検討するために職員が行う支援の行為及び仕組み」。少し補足すると、エピソードを根拠に本人のストレングス(長所)を集め、そこからアイデアを膨らませた支援を行う。支援者だけではなく同じ一人の人間としての視点や関わり方が求められる。現在だけではなく、生活史の全てを大切にし、更に、障害を理解する専門性を高めることが重要である。
本人のことを理解し、行動の仮説を立てられれば関係性は深まり、お互いに嬉しいし、楽しい。本人と向き合いながら生活を豊かにするなら、そこに虐待など存在しない。この意思決定支援の取り組みを組織的にどのように広げていくか、これが虐待を根絶する行程表である。「障害者権利条約」に常に立ち返ること決して忘れずに。
■視点 能登半島地震から、改めて「地域」を問う!
JD理事 石渡 和実
2024年は厳しい幕開けとなった。元日の能登半島地震、2日の航空機事故。「のどかな正月」を迎えるはずだった思いは一変させられた。能登では帰省していた家族まで巻き込まれ、被害の大きさに胸が痛むばかりである。まさに、災害は時も場所も選ばない。
能登半島地震から改めて問われるのは、「災害避難」のあり方である。道路が寸断され、2週間経っても孤立している集落がいくつもある。救助のための人も物資も届かず、ライフラインの重要性とともに避難所の環境が問われている。1月の能登という厳寒での低体温症、そして、今回クローズアップされたのがトイレの問題である。感染症の広がりが懸念され、災害関連死をいかに防ぐかが大きな課題となっている。
こうした厳しい状況のなかで、身を寄せ合っている人々による「助け合い」の意義を再認識させられた。公民館や体育館で余震におびえながらも、自宅に戻って水や食べ物を調達し、みんなで分け合い、乳幼児への気遣いなども行われていたという。身近な存在、顔を突き合わせている関係性がいかに大きな意味をもつかを痛感させられた。
福祉避難所のあり方も問われている。高齢者や障害者の施設など、福祉避難所に指定されている建物が損壊し、利用者や職員の方々も大きな被害を受けた。本来業務のケアも滞り、福祉避難所としての機能など発揮できない状況という。障害者施設では環境の変化で不安が増し、興奮している方々の支援にさえ手が回らないこともある。「障害者支援に専門性をもつ人の応援がほしい」との切実な声も紹介されていた。被災地域では、指定された福祉避難所の17%しか開設できなかったという(朝日新聞1月16日)。
地震から2週間が経ち、地元の1次避難所から落ち着いた生活ができる2次避難所への移動も始まっているが、入ったのは確保された3%以下という(NHK1月15日)。金沢のホテルで「毎日、お風呂に入れてありがたい」という声も紹介されたが、地元を離れられない人も多いという。病気の家族がいる、仕事が心配、など、それぞれが切実な問題を抱えている。そして、慣れ親しんだ故郷を離れたくないという声も多い。長く暮らす高齢の方ばかりでなく、集団移転を提案された中学生などからも聞かれる。地元への思いとともに、そこで築かれた人間関係、信頼できる人がいる、自分を分かってくれる人がいる、ということが暮らしにおいては何より大きいのである。
能登半島地震から、非常時にこそ、日頃そばにいて、理解し合えている関係が力を発揮することを痛感させられる。だからこそ、障害がある人々が地域で暮らすことが重要となる。その存在を認識し、気にかけてくれる地域の人々がいること、「見守り」といったことになろうか。民生委員などの特別な存在ばかりでなく、顔を合わせる多彩な地域の人々の意識である。一人暮らしの高齢者が増えるなかでも、「見守り」の重要性が随所で指摘されている。「優生思想がはびこっている」と言われる現実もあるが、地域で暮らす障害当事者の活動は、「地域の目」を確実に変えつつある。「支援者」という立場から、この流れをいかに拡げていくか、地域にどのように働きかけていくかが改めて問われている。
1995年の阪神・淡路大震災は「ボランティア元年」と言われ、人々の行動を変えた。2024年の厳しい幕開けが、「見守り元年」とでも呼ばれるような、地域の意識を変える契機になってほしい。そのためにも、地域を巻き込んだ活動を、さらに展開していかねばならない。
雑誌『リハビリテーション』を通じたある作家との思い出
辻 等(社会福祉法人鉄道身障者福祉協会理事長)
絵本の世界で遊んじゃえ!せんたくかあちゃん!
品川 文雄(発達保障研究センター前理事長 / 元小学校障害児学級教諭)出生前診断、イギリスと日本の共通点と相違点
百溪 英一(DSIJ(日本ダウン症国際情報センター)事務局長)
本当の意味でのヤングケアラー支援とは
髙橋 唯(関東在住)
障害者権利条約の生存権条項を生かす(第28条)
磯野 博(無年金障害者の会幹事)
~旧ソ連の障害児収容施設で~
古本 聡(翻訳業)
「優生」に悩んだ障害者たち――ハンセン病療養所の性的少数者(前編)
荒井 裕樹(二松学舎大学准教授/障害者文化論研究者)
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