23年12月25日更新
VOL.43-9 通巻NO.522
JD理事
佐々木 良子
もう30年前のことになります。手話を学び始めた頃、地元(埼玉県)の聴覚障害者団体の会長とデートをしました。突然、「デートに行こう」と言われ、奥さまからも「どうぞ!どうぞ!」と。気がつけば最寄り駅で待合せ、川越に出かけていました。何を話したのか(そもそも手話で話せないのですが)は覚えていないのですが、帰りの電車の光景は忘れられません。会長が、いつものように小さな小さな紙で鶴を折り始めるとそれを見た隣や前の席に座っている人たちが驚き、会長が、小さな小さな紙を周りの人たちに渡して、にわか折鶴教室になったのです。
会長は、とにかくパワフルな方でした。耳が聞こえず、相手に分かるような声は出せません。それでもお祭りや会議など、人が集まる所であれば、いろいろな人に話しかけ、握手をしまくっていました。そのパワフルさは筋金入で、同じろう学校のクラスメートだった奥さまを見初めると、彼女の家族に「嫁にほしい」と直談判。見事、結婚されるとその後は、仕事をしながらろう運動もバリバリされていたそうです。ある日、「これからは東京だ」と家族や親類の反対を押し切って東北から東京に出てきた(奥さま談)という方でした。
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今、手話が言語として認められ、全国の多くの市町村で「手話言語条例」が制定されています。昔は"猿真似" と言われ使用を禁止されていた手話が、小中学校等でも取り入れられ、学ぶ機会も増えています。このように広がっていったのは、運動をけん引する人たちがいたこと。そして、会長のように地域で種まきをしてきた人たちがいたから…とも思うのです。会長は、いっぱい、いっぱいの種をまいていました。すべての種の花は開かなかったかもしれませんが、それでもその中のいくつかは花開き、花が開かないまでも土壌を豊かにし、次の種がまかれる時の備えにはなったのだろうと思います。
私の地域でも、今年、手話言語条例が制定されましたが、何かが変わったのか…というと実感がないのが本当のところです。これは、他の地域も同様で、手話言語条例が制定されても何も変わらないというのは、よく聞く話です。
手話言語条例は、制定されて終わりではありません。手話言語条例をどう花開かせることができるのかは、私たちの取り組みにかかっています。もう声を聞くことはできませんが、きっと会長も見守ってくれていると思います。
JD代表
藤井 克徳
「経済、経済、経済」と声高に連呼したのは、先の臨時国会での岸田文雄総理の所信表明演説だった。演説の評価は別として、この響きやリズムを聞いているうちに、私たちの障害分野が重なってきた。「加算、加算、加算」である。
障害者事業の現場では、この「加算」が何より重要なワードになってしまった。加算無しでは事業経営は成り立たない、加算をいかに得るかが経営手腕のバロメーター、新規の加算制度をどう作らせるかが喫緊の課題等々、文字通りの「加算花盛り」の様相にある。「えっ、あの法人が、あの人が」と思うことがあるが、返ってくる答えは決まっている。「経営を守るためには背に腹は代えられない」と。頭ごなしの否定はよくないが、寂しさは禁じ得ない。
加算の考え方の端緒はいつ頃になろうか。25年以上前の「社会福祉基礎構造改革」(1998年中間報告)にまで遡る。そこでは、それまでの公的責任を基本としていた社会福祉事業を、「福祉はサービス」「福祉の商品化」と置き換えた。このような政策機運は、障害の自己責任論や成果主義政策とも相まって、障害者自立支援法とその後継法の障害者総合支援法で、一気に揺るぎないものになっている。
そもそも加算とは何かである。辞書には、「一定の額に、さらにある額をつけ加えること」とあり、厚労省の資料には、「職員配置やサービス提供に対する上乗せ分の報酬」とある。要するに、ベースとなる本体が大前提で、あくまでもこれへの補いなのだ。ここでの「ベースとなる本体」とは、基本報酬に他ならない。
ところが、基本報酬は名ばかりで、「基本」の体を成していない。幾重もの加算を取らなければ、職員の生活に足りる賃金分を確保できない。相当な加算を得たところで、労働者平均の賃金水準からはなお遠い。そんな中での基本報酬とは一体どういう意味を持つのだろう。かつて筆者は、障害者事業所の公定価格について、「官製のワーキングプア」と評したことがあるが、状況は変わっていない。
問題はなぜこうした事態を招いたのかである。政府全体の経済合理性、経済効率性一辺倒の政策基調に由来する。ひと頃昔であれば、財務省と闘う厚労官僚がいたはずである。今は見当たらない。結局、財務省の圧力は厚労省を押さえ込むことになる。一見して合理的に見え、かつ財務省が好む成果主義にも適う「加算方式」を差し出したというのが真相だろう。
例えば、就労継続支援事業B型でみると、目標工賃達成指導員配置加算など21種類もの加算制度がある。前述の通り、現場ではこれをどう積み上げるかに躍起となる。加算方式を極めていくとどうなるか。制度に合わせるあまり、集団も個人も、ずたずたにされるのではなかろうか。「成果」につながりにくい障害の重い人の受け入れ拒否も危惧される。
加算の花盛りとも関係しながら、もう一つ気がかりなのが常勤換算問題である。職員体制を非正規職員で埋めていいとするものである。最新のきょうされんの調査では、非正規職員の割合が60%近くにまで達した。全国共通の傾向と言えよう。実践力、運動力、未来形成力のどこから見ても赤信号である。非正規率を、「法人の衰弱指数」とするのはどうだろう。
エッセンシャルワーカーなどとおだてられている場合ではない。加算制度や常勤換算の本質を見抜かなければならない。改善と改革の違いを聞いたことがある。改善とは、現状を前提に修正すること、改革は現状の否定から始まるという。もはや、障害者事業の公費基準額の問題は改善ではどうにもならない。現場をゆがめないためにも改革を急ぐべきだ。
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㈱言語生活サポートセンター特定相談支援員・障害児相談支援員)
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