23年8月24日更新
VOL.43-5 通巻NO.518
JD理事
佐藤 久夫
前号の巻頭言と同じテーマで恐縮だが、私もこの事典を紹介したい。それはとくに、読んでいて引き込まれる点である。単に知識が得られただけでなく、深く学んだ、新しい提起を受けた、という印象である。
いくつかの例を紹介する。
《視覚障害者誘導用ブロック》中項目1000字程度、p75、八藤後猛氏執筆)は、「誕生から普及へ、「規格乱立と利用者の戸惑い」、「問題点」、「今後」の4つの小見出しで書かれている。まず「点字ブロック」は商標だと紹介され、歴史的経過、JIS規格とその内容、国際標準化などにふれる。さらに弱視者に配慮した黄色が基本なのに、「景観にあわせた」茶色などが広がる問題も指摘。そして、2016年の盲導犬利用者の地下鉄駅死亡事故を契機に誘導ブロックの限界が示され、ホームドアの必要性への認識が高まった、と結んでいる。まさにショートストーリー。
《家族支援》(小項目500字程度、p135)。一般的な辞書では短期入所、家事援助、相談支援などがあげられ、その充実が望まれる、と解説される。しかし執筆者の中内福成氏はさらに加えて、「本人が成人となれば,家族を介護から解放し,社会的介護に切り替えるべきである。将来を見通せず不安を抱えたまま生活せざるを得ない苦難からの解放こそが家族への最大の支援である。」とする。成人期にとって家族支援は死語となるべきとの主張。
《精神医療審査会》(小項目500字程度、p155、長谷川利夫氏執筆)では、法的根拠や機能の説明は紙幅の半分にし、半分を(統計や事例を基に)問題点の指摘に当てている。
《視覚障害》(小項目500字程度、p213、田中徹二氏執筆)では、視覚障害の等級や統計を紹介したうえで、従来言われてきた困難のうち、「文字の読み書き」は「読み上げソフト」や「サピエ」で、「歩行」は「同行援護」でほぼ解決してきたとする。問題の1つは「職業」で、とくに三療業が難しくなってきたという。「読み書き」や「歩行」の問題がほぼ解決したとの意見には賛成できない当事者もいるかもしれないが、この数十年幅広く当事者の生活体験を見てきた筆者の概観には説得力がある。機能障害だけでなく生活を見る、その生活も改善面と課題面を見る、しかも政策・支援との関係で……。
障害者権利条約をベースに、328の言葉・概念を117人の第一人者が、それぞれの文責で描き出した貴重な事典を広げたい。
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JD代表
藤井 克徳
「金のしゃちほこ名古屋城」、子どもカルタに載っていた一文で、幼い頃から、絵とともにずっと記憶の底に残っていた。「しゃちほこ」の意味は分からなかったが、どういうわけか「名古屋城」だけは覚えていた。その名古屋城が、いま大きく揺れ動いている。理由はバリアフリーをめぐる論争で、築城主の家康公もさぞ目を白黒させているに違いない。
事の発端は、名古屋市当局による、「史実に忠実な復元」と称する改修工事計画の公表(2018年5月)だった。その概要は、「木造天守閣の昇降に関する付加設備の方針(案)」を示し、「史実に忠実に復元するためエレベーターを設置せず、新技術の開発などを通してバリアフリーに最善の努力をする」というものである。要するに、「史実復元」を優先させ、障害者や高齢者が求めるバリアフリーには応じられないとしたのである。
ちなみに、現在の名古屋城は7階層のうちエレベーターで5階まで上れる。また大阪城も、熊本城も、大規模改修後は下肢に障害があってもエレベーターを使用して天守閣からの眺望を自由に楽しむことができる。本件は、名古屋城の問題に留まらず、各地の歴史的な建造物の復元や改修のあり方にも影響しかねない。
計画公表後も、市当局と障害関連団体などとは議論の溝が埋まらないままである。埋まらないだけではなく、ここにきて議論の域を超えた嫌な空気が漂い始めた。去る6月3日の、市が設定した討論集会で、聞き捨てならない障害者を侮辱する言葉が飛び出した。他にも、障害者の発言に対して、「お前が我慢せえよ」「エレベーターは誰がメンテナンスするの。その税金はもったいない」などが続いた。市側による、侮辱する言葉をいさめたり、中止を求める言動はなかったという。差別発言を浴びせられた障害のある男性は、数日後の記者のインタビューに、「死にたい気持ちになった。就寝前になるとフラッシュバックする」と語っていた。もともとの議論と、討論集会での市側の対応のまずさとが重なりながら、名古屋城問題の揺れ幅はより大きくなっている。
ふと思い浮かぶことがある。名古屋城騒動に、あの優生保護法問題が重なるのである。優生保護法を含む優生政策の最大の問題点は、個人の尊厳の上位に公益を置いたことである。「社会のため」「多数派の意向」が大手を振り、これを公益と称して障害者の子どもを持つ権利を阻んだ。命の継続を奪ったと言った方が正確かもしれない。今般の問題は、テーマこそ異なれ、公益優先という点では同根と言えよう。「史実に忠実な復元」を公益とし、そのためには障害者や高齢者は我慢してもらいたいとしているのである。むろん、「史実に忠実な復元」をないがしろにしていいと言っているのではない。まずは全体を満足させる道を探るべきである。そのうえで、ぎりぎりのところで、「史実復元」か「すべての市民の平等確保」かとなれば、私たちは即座に後者を支持したい。先に掲げた市当局の計画で言えば、まずはバリアフリーの確保を固めたうえで、「史実に忠実な復元の最善の努力を払う」とすべきだ。日本国憲法も、障害者権利条約ももろ手をあげて賛成してくれるに違いない。
さて、築城主の家康公だが、今の世からやりとりできたとしたらどうだろう。「どうする家康」の問いに、こんな答えが返ってきそうだ。「わしは盲人の保護政策には力を注いできたが、バリアフリーの問題はわからん。ただし、復元の如きで民を悲しませるなどはあってはならぬ」と。
平等法制の新時代を、日本でも作ろう
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いのちのとりで裁判 名古屋高裁判決をまえに
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上野 眞治(大阪府)
ウクライナに思いを馳せながら
品川 文雄(発達保障研究センター前理事長 / 元小学校障害児学級教諭 )
優生政策に立ち向う
百溪 英一(日本ダウン症国際情報センター(DSIJ) / 茨城県ダウン症協会事務局長)
~ 旧ソ連の障害児収容施設で ~
古本 聡(翻訳業)
手話が公用語になったなら
宥免 千英子(全国手話通訳問題研究会 理事)
「優生」に悩んだ障害者たち―― 図書紹介:五十嵐大『聴こえない母に訊きにいく』
荒井 裕樹(二松学舎大学准教授 / 障害者文化論研究者)
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