障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

23年7月25日更新

2023年「すべての人の社会」7月号

2023年「すべての人の社会」7月号

VOL.43-4 通巻NO.517

巻頭言 一家に一冊、「障害と人権の総合事典」を!

JD理事 木太 直人

 JDの理事を拝命して今期が4期目となります。

 私が初めてJDの活動に触れたのは、2000年度の途中から政策委員会に日本精神保健福祉士協会の立場で参加したことでした。当時の政策委員会では、日本における障害者差別禁止法制の実現に向けて熱く議論されていたことを断片的ながら記憶しています。1990年にアメリカ合衆国において障害をもつアメリカ人法(ADA)が制定されたことを端緒に、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、香港などで差別禁止法が次々と制定されており、JDの中では国内の法制化に向けた機運が高まっていたのだと思います。

 精神科医療機関のソーシャルワーカーであり精神障害という狭い領域のことしか知らなかった当時の私にとって、政策委員会に参加することはまさに蒙を啓かれる経験となりました。また、委員会終了後に佐藤久夫さんや太田修平さんらと近くのサイゼリアでマグナムボトルのワインを飲んだことも懐かしい思い出です。それはさておき、政策委員会における真剣な議論が、その後の障害者権利条約の採択や日本国内の障害者差別解消法等の整備に結実していったのではないかと大げさでなく思っております。

 いま、私の机には出来立てほやほやの「障害と人権の総合事典」(やどかり出版)があります。JDが編集した事典です。藤井克徳代表が寄せた序文には、この事典の特徴の一つを以下のとおり紹介しています。

 一つ目は、読み物としての魅力である。一つひとつのキーワードにショートストーリーが込められている。歴史性や背景、キーワードによっては近接の領域や方向性まで示唆している。障害者分野を網羅した「短編集」としても読み応えがある。調べものついでに、立ち止まって深読みするのもいいのではなかろうか。

 試しに第4章「差別禁止」をめくってみます。この章で取り扱っているキーワードは、障害者差別解消法、障害者雇用促進法の差別禁止条文、合理的配慮、社会的障壁、障害者差別禁止条例、欠格条項、アファーマティブ・アクション、障害をもつアメリカ人法(ADA)です。わずか7ページながら、障害者に対する差別禁止の捉え方や日本の現状と課題が網羅・凝縮されており、この問題をさらに深掘りしてみたいという気にさせてくれます。

 どこかのキャッチコピーを拝借して、
 「なるほど、これならわかる!」一家に一冊、JD事典!

視点 北欧の住まいとノーマライゼーション、インクルージョン

JD副代表 薗部 英夫

 白夜のはじまる5月中頃、3年半ぶりに北欧を旅した。フィンランドでは、知的障害者親の会が運営する重度障害者のグループ住宅(オスカリンプイスト)を訪問した。街中にある白樺の芽吹きが美しい。

◆◇◆

 「ここには33歳から80歳の人たちが、一つのグループ5人で、三グループの15人が暮らしています」と施設長のイエンニさん。それぞれの部屋は18平米+トイレ・シャワー5平米。グループのメンバー5人が集える広いリビングもある。
 コーヒーが大好きという63歳の方の部屋を見せていただく。定年の年齢なので、日常はロッキングチェアでゆっくりされているそうだ。部屋には父や母の写真が飾られ、絵カードで一日の過ごし方がわかる。このグループでは、5人のうち3人は日中は外に出て活動し、2人は年齢も高く、通院などもあり、日中は部屋にいるそうだ。
 12人のスタッフが、朝、夕、夜に分かれて24時間サポートしている。必要な場合は、外部会社から「ガイヘル(ガイドヘルパー)」の派遣もある。
  参加メンバーからつぎつぎと質問が続いた。

<質問>お金の管理は? (1ユーロ=約140円)
→年金は普通に支給されています(月額で約1000ユーロ)。賃貸料(家賃=300ユーロ+食費=500ユーロ)を支払い、小遣いが残るようになっている。
→支援サービス料は出身の自治体が支払う。支援のランクがあり、特別な支援が必要な場合には、支援額がアップされる。

<質問>医療的ケアが必要な人の場合は?
→高齢となり、病気の対応などが必要となっても、ここで最期まで過ごすことをめざしています。入院しても回復したらここに戻る。ホスピスとしてここで亡くなった方もおられました。ここはみなさんの「自宅」なのですから。

<質問>暴力や体罰への対策は?
→暴力はゼロです。職員にあればクビです。行政に報告し記録が残ると業界で働くことはできません。
→住んでる人の暴力の場合は介入します。とめられないときは警察に通報します。

<質問>スタッフの人材確保は?
→福祉分野の人材不足はある。障害分野も同様です。ですがここは福利厚生にも力をいれています。

<質問>「余暇」の時間数はどれくらい?
→買い物、映画、美術館、博物館など「基準」はありません。普通の人の生活と一緒ですから。

<質問>ここに入居できない人はどうしてるの?
→20歳から25歳は「独立」する年頃です。こうしたグループ住宅は質的には幅はあるが、過去に比べれば格段に良くなっています。

 隣にあるデイセンターには、自宅や他のグループ住宅からリフト付タクシーでみんながやって来る。

◆◇◆

 障害者権利条約第19条は「自立した生活、地域社会へのインクルージョン」を定めている。
 デンマークのバンク‐ミケルセンは、戦後、社会省に務め、知的障害者親の会の運動を手伝う中で、ノーマライゼーション(障害のある人たちに、障害のない人と同じ生活条件を-すべての人に自由と独立を)を提唱した。この考え方は、1981年の国際障害者年、2006年障害者権利条約にも影響した。
 北欧では、大規模な入所施設ではなく、より小規模で、自由やプライバシーが尊重された「住まい」=「家」としてケアのある生活が追求されている。
 日本ではノーマライゼーションは「脱施設化」が強調され、同年齢の市民と同等の生活条件をつくりだすという側面は弱かったのではないか。
 顔の見えるような小さな町で、ノーマライゼーションが暮らしの場でどのように実現されているのか、地域社会のインクルージョンの展開を、見て、聞いて、考えてきた。数えると17度目の北欧旅だ。

2023年6月の活動記録

 

あらゆる差別を禁止する社会に向けて(前編)

新しい局面を迎えた包括的差別禁止法

林 陽子(弁護士 / 元国連女性差別撤廃委員会委員長)



ミカちゃん裁判、勝利的和解

~障害特性の理解と合理的配慮~
JDが発した声明



いのちのとりで 【原告の声】

人間らしい生活と障害者差別をなくすため最後まで闘う

伊藤 勇人(札幌市)

「いのちのとりで」守りたい

佐藤 晃一(やどかりの里)



連載 出かけよう!おとなも読みたい えほん・児童文学の時空旅 第1回 

きっかけは小学1年生の時の入院

品川 文雄(発達保障研究センター前理事長 / 元小学校障害児学級教諭 )



連載 優生思想に立ち向かう 第41回

優生保護法訴訟6月1日仙台高裁判決を乗り越えて

新里 宏二(全国優生保護法被害弁護団 共同代表)



連載 障害者権利条約を日本で生かす 8

第9条 施設及びサービス等のアクセシビリティ

髙橋 儀平(東洋大学名誉教授)



私の生き方 第81回

田畑 快仁(神奈川県在住)



トピックス


いんふぉめーしょん
『障害と人権の総合事典』待望の刊行

 

 

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