障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

23年3月23日更新

2023年「すべての人の社会」3月号

2023年「すべての人の社会」2月号

VOL.42-12 通巻NO.513

巻頭言 日本の障害分野の課題を解決するには?

JD理事 佐野 竜平

 国連・障害者権利委員会による審査結果は、総括所見として各国へ勧告されます。対日審査から5ヶ月ほど経った2023年1月下旬、総括所見の日本政府訳(仮訳)が公開されました。この中で障害者権利条約上の用語の「不正確な和訳」として例示されているのが、英語表記のままになっている「inclusion」、「inclusive」、「communication」、「accessibility」、「access」、「particular living arrangement」、「personal assistance」、「habilitation」です。

 そこで、今世界中で話題になっている人工知能(AI)に回答を求めました。これらを「日本語訳してください」と尋ねたところ、「inclusion→包含」、「inclusive→ 包含的」、「particular living arrangement→特定の居住環境」と返ってきて、あとはカタカナになっただけでした。「別の日本語訳にしてください」という問いに対して、3語 はそれぞれ「包摂」「包括的」「特別な生活環境」となりました。あとは同じくカタカナのままでした。確かにカタカナは便利だなと思いつつ、なぜか妙に機械的に捉えてしまいます。

 ちょっと角度を変えて、「日本の障害分野の行方は?」と聞いてみました。すると、「近年改善が見られていますが、まだまだ課題が残っています。例えば、障害者の雇用率は低いままで、障害者のアクセシビリティや社会参加の機会も不十分です。政府やNGOなどがこれらの課題に取り組んでいる一方で、まだまだ努力が必要です。」と返事が来ました。まあ確かにそうなのですが、こちらも何となくしっくり来ません。それは筆者だけでしょうか。いずれにせよ、使い方を間違えると理解の齟齬につながりかねないツールです。

 改めて総括所見を眺めてみます。日本障害フォーラム(JDF)を中心に民間団体が参考資料として出していた仮訳と見比べると、日本政府訳(仮訳)では文章の語順を逆にする倒置法を使うなど相違点も多くあります。異なる言語の捉え方なので必ずしも間違いとは言い切れませんが、微妙なニュアンスが異なってくるのもまた事実です。総括所見にある一つひとつの勧告をきちんと受け止めているか、AI翻訳などに頼って吟味せずに頭だけで理解しようとしていないか、自分自身への問いかけのようにも思います。

 ネットの検索ワードのごとく調べては忘れていきます。「コロナ禍に入って毎日確認する情報源が増えた」とする日本人は約7割という調査もあります。SNS(交流サイト)を1日3時間以上使う大学生は約6割ということです。通信の高速化に加えてアプリの種類も増え、情報過多社会はますます肥大しています。

 「日本の障害分野の課題を解決するには?」という問いに対して、AIの答えは・・・。いや、ここは止めておきましょう。「安易に回答を求めない姿勢」を自らへの戒めとしたいと考えています。

 

視点 断種政策が最優先の政治課題だった

JD代表 藤井 克徳

 「第三帝国初期の数年間に於ける、生(なま)政治に関するナチスの施策で最も重要なものが、遺伝性疾患子孫予防法による断種政策だった事に疑いの余地はない。」、これはドイツ精神医学精神療法神経学学会(DGPPN)の下に置かれた優生政策に関する国際検証委員会報告書の一部です。より正確に言えば、この検証委員会が対象にしたのはヒトラー政権樹立後の断種政策と「T4(ティーフォー)作戦」(価値なき生命の抹殺を容認する作戦)であり、その中の断種政策記述の冒頭部分の一節です。ちなみに、報告書の分量は500頁余で、2016年に公表されています。

 こうした見解はドイツ政府の公式なものではありませんが、それでもDGPPNのこれまでの負の過去への向き合い方や、国際検証委員会の顔ぶれと内容の精密さからみて信憑性を感じます。

 「疑いの余地はない」の論調を念頭に置きながら改めて歴史を遡ると、思い当たる節があります。そして合点がいくのです。それは、ヒトラーによる政権樹立直後の1933年7月14日のことです。この日の国会で、三つの法律が採択されています。「政党新設禁止法」(いわゆる一党独裁法)、「ドイツ民族投票法」(国民投票法との邦訳も)、「遺伝性疾患子孫予防法」(通称を断種法)の三法です。抱いていた疑問は、「政治上の重大な二つの法律と断種法がなぜ同日に採択されたのか」でした。その疑問は冒頭の一文で一気に晴れた感じです。

 それにしても、政権奪取後の政治全体の最優先課題に断種政策を掲げたのは驚愕です。同じことが、「T4作戦」の命令書の発布日にも表れています。第二次世界大戦の開戦日と命令書の発布日が重なっているのです(1939年9月1日)。国民を鼓舞するメッセージの一つに、「内なる戦争で障害者を抹殺する」を示しました。実際にも20万人以上が殺害されました。

 歴史のひも解きついでに、日本の優生思想に関連した動きをみてみます。象徴的なものを二点あげます。一つは、明治時代の政府や知識層に影響をもたらした福沢諭吉の考え方です。福沢は1884年に著した『血統論』で、「結婚する相手の血統の調査が往々にしてなされていない。これは『社会全体の為に人種の改良進歩を謀る』ときに憂うべきことである。」と述べています。英国のF・ゴルトンが優生学を提唱したのが1883年で、同時期に福沢は同じことを発想していたのです。

 もう一つは、精神医学の先達者の言動です。例えば、東京帝国大学医学部教授の三宅鑛一(こういち)は、「私は現在の日本国民一億のうち、極端な断種論者ですが、一千万位は断種してもいゝと思うのです。そうしたら低能はもう全部断種です。」と残しています(『科学知識』 1939年)。

 私たちは、「優生保護法は終わっても優生保護法問題は終わっていない」という立場をとっています。急ぐべきは被害者の尊厳と人権の回復であり、それにふさわしい補償を実現することです。同時に、優生思想の根絶が大きなテーマです。ただし、その前提として前述の重い歴史があることを忘れてはなりません。重い歴史を直視することであり、負の歴史をどこまで断ち切れたのかの検証が必要です。

 今年は、ナチス・ドイツの政権樹立から、そして断種法の制定から90年になります。「優生政策と障害者」の源流をたどる新たなきっかけにしてもらえればと思います。  

2023年2月の活動記録

私の運動の軌跡と『障害のある人の分岐点』

中途失聴・難聴者が迎えている分岐点
新谷 友良(全日本難聴者・中途失聴者団体連合会(全難聴)理事長)




私の65歳問題

必要とされる私でいたい
上村 照代(三重県在住)




連載 私の“ほッ”とタイム⑪

盲老人ホームができて「ほっ」とした
茂木 幹央(日本盲人社会福祉施設協議会理事)




連載 家族も自分の人生を歩む 家族依存・家族支援を考える 第16回

私たちはふつうに老いることができない
児玉 真美(ライター / 日本ケアラー連盟理事)




連載 優生思想に立ち向かう

第38回 歴史は差別された当事者が作る
徳田 靖之(弁護士)




障害者権利条約を日本で生かす6

父権主義と人権モデル(1~4条関係)
佐藤 久夫(日本障害者協議会理事)




新連載 赤國幼年記Special版1

~ 旧ソ連の障害児収容施設で ~
古本 聡(翻訳業)




トピックス・インフォメーション・読書案内

いんふぉめーしょん

優生保護法問題の早期・全面解決を求める3.28院内集会~各地判決を受けて~



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