23年1月19日更新
VOL.42-10 通巻NO.511
JD代表 藤井 克徳
〈雀の子そこのけそこのけお馬が通る〉、多くの人に知られている小林一茶の代表作の一つである。季語の「雀の子」がいかにもほほえましく、初春にふさわしい一句と言えよう。
ただし今の世相を背にこの句をじっとみつめていると、不吉なイメージが割り込んでくる。句中の「お馬」に霞がかかり、代わって「軍事費」が大股で迫ってくるようである。これをもじると、〈雀の子そこのけそこのけ軍事費が通る〉。さほどの違和感は覚えまい。むしろぴったり感を覚える人が少なくないのではなかろうか。
それにしても、急浮上の軍事費倍増政策は目に余る。向こう5年間で43兆円という途方もない巨額を軍備につぎ込むという。いろいろな疑問が脳裏を駆けめぐる。ざっと考えるだけでも、軍事費予算枠の歯止めをGDP1%から2%に引き上げると言うが2%の根拠は何か、歯止め枠の変更という一大国策転換を国会審議抜きでいいのだろうか、太平洋戦争の猛省から軍備関連に国債を当てないとしてきた国家政策はどうなってしまうのか、みんなで分かち合っている東日本大震災の復興特別所得税の一部を実質的に軍事費の財源に振り向けるのは許されることなのか等々があげられる。
さらに懸念は尽きない。それは憲法改正の布石につながることへの不安である。軍備を大幅に増強しておいて、「遅れているのは憲法の方で、早く実体に追いつくべき」とする既成事実先行改憲論が一気に勢いを増してきそうである。少し想像力を働かせれば、障害分野を含む社会保障費への甚大な影響が見えてくるはずである。「大砲かバターか」の論理は正直で、数年後にはバター(社会保障予算)の配分率急減は火をみるより明らかである。せっかく手にした国連障害者権利委員会による総括所見も、画餅となりかねない。
財源論をめぐる与党内の華々しい議論が報じられたが、素直には受け入れがたい。問題の本質は財源論なのか。そうではない。前掲した諸点こそが本質であり、徹底した論議が求められる。議論の華々しさは、本質をそらすための高等戦術とさえ思ってしまう。
「忘れられた歴史はくり返す」は歴史学が生んだ名言だ。日本もドイツも、大戦後の市民の回顧は共通していた。「これくらいなら、これくらいならと見逃しているうちに手も足も出なくなった」と。手や足を出せるぎりぎりの状況が今なのかもしれない。
もう一つ句が浮かんできた。〈戦争が廊下の奥に立っていた〉である。銃後俳句で著名な渡辺白泉が太平洋戦争突入前の1939年に詠んだ句だ。古臭さを感じさせないところに、今日の事態の危うさがうかがえる。「尊敬される国」こそが最大の抑止力になると思うのだが。
■新春鼎談 障害者権利委員会勧告から障害者政策の根本改革へ!
障害者権利条約にふさわしい社会の実現を
石川 准
前国連障害者権利委員会副委員長 / 内閣府障害者政策委員会委員長 / 障害学会会長 / 静岡県立大学名誉教授
藤井 克徳
日本障害者協議会(JD)代表 / 日本障害フォーラム(JDF)副代表
増田 一世
JD常務理事 / やどかりの里理事長
人権の国際常識と日本
増田:あけましておめでとうございます。昨年は、8月に障害者権利条約の履行状況について、国連の障害者権利委員会(以下、権利委員会)による初めての日本審査(対日審査、建設的対話)がジュネーブで行われ、9月9日に総括所見(勧告)が出されました。
本日は、2017年から4年間、権利委員会委員を務められた石川准さん、藤井代表と3人で対日審査の感想や、総括所見を今後どのように日本に根づかせ、生かし、政策に展開していったらよいのかなどを話し合っていきたいと思います。2015年の新年号企画でも同じ3人で鼎談を行いました。それから7年、激動の日々だったのではないでしょうか。
まず、対日審査についてお伺いします。
石川:私は(内閣府)障害者政策委員会委員長(以下、政策委員会)の立場で政府代表団の一人として参加しました。日本政府は政策委員会を「国内監視枠組み」と位置づけており、建設的対話の冒頭で発言(ステートメント)する予定でした。ところが、政府代表団団長の次に発言するはずが飛ばされてしまいました。外務省も気づいたのですが、なすすべもなくすぐに委員からの質問が始まりました。しかしジュネーブまで来て発言しないで帰るわけにはいかず、休憩時間に現場で交渉してようやく発言することができました。
後日談ですが、国連では冒頭ステートメントの機会は、「国内人権機関」に対して提供しており、それ以外の国内監視枠組みに対しては発言の機会を与えないという方針を(異論はあったそうですが)事前に執行部と事務局とで決めていたらしいのです。しかし、私の席のフラグ(名札)はNHRI(国内人権機関)となっていました。国内監視枠組みは国内人権機関が担うものというのがいかに国際人権の常識となっているかがわかります。
藤井:石川さんも私も2014年6月、批准して初めてとなる権利条約締約国会議(第7回/ニューヨーク国連本部)に日本政府代表団顧問として参加しました。議場に入った瞬間でしたが、批准国の仲間入りをしたんだなと実感しました。あれから8年余、今度は、その批准した条約に基づいて審査を受けることになったわけです。場所は、ジュネーブの国連欧州本部ですが、やはり会議場に入った時に感慨深いものがありました。同時に、権利条約の威力のようなものを痛感させられました。なにしろ、28人の日本政府代表団を、そして100人を超える傍聴団を引き付けるのですから。さらには、政府への総括所見(勧告)の公表までを合わせて国別審査というのですから、改めて権利条約のすばらしさを思い知らされました。
増田:私は以前、韓国の審査を傍聴し、その盛り上がりを目の当たりにして日本審査には絶対行こうと思っていました。日本政府の対応には正直がっかりしました。一方、18人の権利委員の日本の状況理解の深さと発言の重みを感じました。石川さんは総括所見をどう評価されていますか。
日本の現状理解と政策の本質を指摘
石川:委員としての経験からすると、肯定的評価が17項目と、他国に比べて圧倒的に多かったのは驚きでした。そして何よりも、日本政府の報告と市民社会のパラレルレポートを熟読し、日本の障害者施策の課題を深く理解し、しっかりした総括所見を作ってくれたと思います。
藤井:18人の権利委員のみなさんは、日本の政府と民間の報告書を深く読み込んでもらっていると感じました。特に日本担当のラスカスさんとミヨンさんにそのことが言えます。総括所見の中の「肯定的な側面」は政府報告書が、「懸念事項及び勧告」は、民間のパラレルレポートがベースになっているのではないでしょうか。政策基調が、「父権主義的アプローチでは」「人権モデルと調和していない」との指摘は日本の政策実態を的確に言い当てています。良かれと思ってやってることがニーズにあってない、権利の主体が障害者に置かれてないということです。
増田:石川さんは父権主義という指摘についてどう考えますか。
石川:日本の政策の本質ですね。パターナリズム、温情主義などとも言います。例えば心のバリアフリー、これは日本の施策のキー概念であると団長も発言していました。権利条約は偏見やスティグマとの戦いを求めていますが、日本は、心のバリアフリーを広げることをめざすと言います。権利条約は障害者の自己決定と政策への参加をなにより重視しますが、日本の福祉、教育、医療などの現場では、依然として、障害者の最善の利益は専門家がわかっているという考え方が強固だと思います。
障害者の人権確保を最も重要な考え方とする条約とのミスマッチが対話で浮き彫りになったと思います。
増田:パターナリズム(訳はいくつかあるようですが)に陥ることはあり得ることで、各自が日々の実践に立ち返り、政策の見直しを考えることにつながる大事な指摘だと思いました。そういう意味で条約は一人ひとりへの問いかけ......
つづきは本誌で。
フランス、ドイツとの交流から考える日本のシェルタード・ワークショップの展望
鈴木 宏(ゼンコロ常務理事)
鈴木 森夫(認知症の人と家族の会 代表理事)
優生思想との闘い
古本 聡(翻訳業)
海に抱かれて
立花 明彦(日本点字図書館 常務理事・館長)
国連・障害者権利委員会の「総括所見(勧告)」を学び、知り尽くそう!
―障害者権利条約にふさわしい施策の実現を求めて―
■個人賛助会員・・・・・・・1口4,000円(年間)
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