障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

22年10月25日更新

2022年「すべての人の社会」10月号

2022年「すべての人の社会10月号

VOL.42-7 通巻NO.508

巻頭言 「平和であること」を改めて考える
 

JD理事 中村 敏彦

 ロシアのウクライナ侵攻は、「まさか」と疑い、「なぜ」と何度も問いかけずにはいられません。歴史的背景があったとしても許されるものではないとつくづく思います。8カ月が経った今でも収束の見込みは立っておらず膠着状態に陥っていると言います。多くの人の命と人権を奪い、住まいを破壊し、家族を引き離し、母国から避難しなければならない状況が、いったいいつまで続くのでしょう。核保有5カ国が「核戦争に勝者なし」と共同声明を出す一方で、核保有で脅したロシアの大統領もまた、「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならない」と声明を発表しています。そもそも、核を使用するか否かは別にして、戦争そのものに勝者などいないことは、過去の苦い経験から学んでいるはずです。

 この戦争に、15カ国で構成される国連安全保障理事会は、残念ながら機能不全の状態です。常任理事国であるロシアが「拒否権」を行使していることが理由にあげられていますが、世界の平和は、この常任理事国によって支配されてしまうのでしょうか。そんなことがあってはなりません。生活必需品はもちろん、様々な価格が高騰し、世界中が混沌に包まれています。とりわけ高齢者や児童、女性、障害のある人々など、弱い立場の人たちへの影響は甚大であると思われます。情報戦とも言われていますので、公的報道はもちろん、フェイク交じりの情報では、正しい状況を把握することすら困難です。

 1948年、「世界人権宣言」が国連で採択されました。5,000万~8,000万人ともいわれる犠牲者を出した第二次世界大戦から、人が生きていく上で、人権がいかに重要であるかを学んだことが背景にあります。核の被曝と敗戦を経験した日本は、最も多くのことを学んだ国と言えます。日本の経済・産業は壊滅的な打撃を受けました。諸大国に追いつこうとガムシャラに成長を推進し、経済的には何とか追いつくことができています。何よりも、日本国憲法において、戦争放棄を宣言していることで平和が維持できていることを、私たち一人ひとりが大切にしなければなりません。「武力ではなく対話で」誰もが理解できる明瞭なメッセージ、日本からの発信は、重みがあり価値があります。

 現在の政権政党は憲法改正を提案しています。制定から75年、1度も改正されず国内外の環境の大きな変化に対応すべきとして、起草案の第9条には「戦争は放棄するが、自衛権の発動を妨げるものではない」とあります。「いざとなったら応戦する」とも読めますが、戦争放棄を固持することが最大の防御になるのではないでしょうか。75年もの間、戦争をせずにいられたことを忘れないで頂きたい。そして、混沌とした世界情勢だからこそ、平和について、改めて真剣に考えなければと思うのです。

 

視点 微力かもしれないが、無力ではない

JD副代表 薗部 英夫

 京都の井上吉郎さん(1945年生まれ)が夏の終わりに旅立たれた。
 1992年、国連・障害者の10年最終年には、京都駅前で「マラソンスピーチ366」にとりくんだ。1年間、毎日違う人がそれぞれの言葉でスピーチをつづけた。「障害者を締め出す社会は弱くてもろい社会だ」と市民運動を組織し、3度の京都市長選(1993年、96年、2000年)でも訴えた。「排除しない社会」をつくるために力を合わせたい!

 

 2006年の夏。61歳を前に脳幹梗塞で倒れた。
 救命措置で一命を取りとめるも、気管切開、胃ろう、寝たきり状態で、6つの病院での入院は1年を越えた。両足マヒ、右耳聴力なし、右半身にマヒが集中し、口は自由には開閉できず、嚥下障害も生まれた。大好きだった「食べること」「語ること」は不自由になった。
 そんな井上さんが、黙ってはいられないと異議申立てたのが障害者自立支援法違憲訴訟だ。京都訴訟の原告となり、「応益負担」は納得できない!障害のある人にとって、「支援」は「益」ではなくて、「生きること」そのものに関わる事柄だ。寝るときの「見守り」を「私益」と捉えるのか!「生きること」を「私益」であるかのように考えるから、矛盾がでてくる!と訴えた。
 国との「基本合意」を締結し、勝利的和解をかちとり、訴訟団124人が首相官邸を訪問した(2010年4月21日)。鳩山首相(当時)は、予定時間を倍ほど延ばして、原告一人ひとりと言葉を交わした。訴訟団でつくったウインドブレーカーを着ていた井上さんは、その場で首相にさっとプレゼントした。鳩山首相はそれを羽織って、「どんな風が吹いても寒くない」と。
 井上さんは、「訴訟を終えて、ひとこと」につぎのメッセージを寄せている。
 「社会福祉施策転換の手掛かりを作った運動に加われたことを誇りに思います。終わりは新たなたたかいの始まりです」。

 

 脳幹梗塞の後遺症は、社会へのアクセスをあきらめさせなかった。そのひとつは、インターネットを活用しての意見・情報発信だ。障害者とIT活用については、90年代の「パソコン通信」の時代から井上さんは注目していた。そして、福祉にまつわる「怒り」「ほのぼの」「なるほど」が一杯詰まった「WEBマガジン福祉広場」は毎日情報を発信する基地となった。
 もう一つが「無言宣伝」だ。2013年12月6日、参議院は特定秘密保護法を強行可決し、13日に公布された。井上さんは、「自分にできることはなんでもやろう」「特定秘密保護法に反対の意思を示そう」と北野白梅町駅前で一人で行動をはじめた。
 「言語障害がある身には、マイクを使っての街頭宣伝は困難。モゴモゴなので、相手に言葉が伝わらないし長くも喋れない。利き手の右腕が不随意運動するので、チラシを撒くのも困難(略)そんなことから、一人の無言の宣伝がはじまった」。
 すると「1人宣伝」から、しばらくすると10人を越える参加者となり、毎週月曜日の活動として、井上さん亡き後もつづいている。「戦争法反対」「秘密保護法反対」「壊憲反対」「国葬反対」と。

 

 「微力かもしれないが無力ではない」と「無言宣伝」などユニークな市民運動が組織された。そして、「殺すな 殺されるな」「障害は迷惑ではない」「安保法制 違憲だ!」「裁く!」など研ぎ澄まされた、こころにひびく言葉は忘れられない。
 だれかに伝えたいことがある。発信したい言葉がある。そして、それを受けとめる仲間たちがいる。「他者と共に生きる」ことを走りぬいた大先輩に、
<このバトン、つないでいきますから>。




2022年9月の活動記録


私の運動の軌跡と『障害のある人の分岐点』

子どもらしく育つ権利の保障に取り組みつづけて
中村 尚子(発達保障研究センター理事長)

集まろう! 優生保護法問題の全面解決をめざす10.25全国集会

 佐藤 ふき(優生保護法問題の全面解決をめざす全国連絡会(優生連) / きょうされん)

連載 私の"ほッ"とタイム⑦

近況の暮らし ~いろいろな楽しみを共有して~
古小路 浩典(口と足で描く芸術家協会)

連載 家族も自分の人生を歩む 家族依存・家族支援を考える 第13回

若年性認知症の夫と共に
今村 香(埼玉県・さいたま市若年性認知症サポートセンター)

連載 優生思想に立ち向かう 第36回

ハンセン病療養所とかかわって
沢 知恵(歌手)

連載 障害者権利条約を日本で生かす2

国連障害者権利条約 日本審査を傍聴して
南 由美子(全日本難聴者・中途失聴者団体連合会(全難聴)国際部 副部長)

連載 COVID-19のインパクト 第21回

アジアから:場面別6 -仕事・勉学-
佐野 竜平 (日本障害者協議会理事 / 法政大学現代福祉学部教授)

連載エッセイ 障害・文化・よもやま話 第34回 寄り道篇 

新刊『障害者ってだれのこと?「わからない」からはじめよう』刊行
荒井 裕樹 (二松学舎大学准教授)

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