
25年2月13日更新
○昨年12月27日に政府の「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた対策推進本部」が発表した行動計画は、従来の「理解促進・広報啓発」にとどまっています。これに対し、JDの見解を発表しました
2025年2月10日
障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた
行動計画等に関する見解
NPO法人日本障害者協議会(JD) 代表 藤井克徳
2025年1月17日、「旧優生保護法に基づく強制不妊手術などに対する補償金支給法」が施行され、石破総理大臣は首相官邸で原告らと面会し、「政府の責任は極めて重大。真摯に反省する」「優生手術といった個人の尊厳を蹂躙する、あってはならない人権侵害を二度と起こしてはいけない」と述べた。そして、1月24日、第217回国会の開会にあたり、施政方針演説で「旧優生保護法を執行してきた立場として、真摯な反省に立ち、補償金の着実な支給と差別のない社会の実現に力を尽くす」と述べた。
7月3日の最高裁判決以降、謝罪と真摯な反省が繰り返し述べられてきた。しかし、総理大臣をトップとした「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた対策推進本部」が2024年12月27日に発表した行動計画は、従来の「理解促進・広報啓発の取組」とほとんど同じであり、国の本気度がまったく伝わってこない。以下、行動計画(以下計画)への意見に加え、今後国が果たすべき役割と責任について述べたい。
記
策定過程で旧優生保護法国家賠償訴訟の原告や障害者団体へのヒアリングを実施したこと、障害者の尊厳と権利に関する研修において障害当事者を講師とすることを明記したことは評価できる。しかし、全体的には従来の「心のバリアフリー」対策と大差なく、「事例集の周知」「リーフレット作成」「公務員の人権研修」「正しい理解の啓発」「普及・啓発イベント」などが並ぶ。「心のバリアフリー」を中心とした「行動計画」といえる。「国民の啓発」「公務員の研修」は重要だが、国民へのより大きな教育力を持つのは、障害のある人の生活実態、政策とその基礎にある国の障害観である。例えば、精神科病院への長期入院や病院内で増え続ける身体拘束。国民はこうした国の貧しい障害者政策から障害のある人への障害観を学ぶ。啓発や研修によって「共生社会」は実現せず、優生思想を乗り越えるための法の制定や予算の増額なしに「共生社会」は実現困難だ。障害者権利条約に基づく政策の抜本的な見直しこそが、「共生社会」実現、「国民の偏見と無理解」の変革への近道だ。
また、障害のあるなしにかかわらず、子どもを生むか生まないかを自分で決める権利を尊重するために必要な支援についても既存政策の枠内にとどまっている。自己決定権を行使するために必要な情報や教育などについて全く触れられていない。
国連・障害者権利委員会の日本への初回総括所見では「相模原市の津久井やまゆり園で発生した殺傷事件への包括的な対応の欠如」を懸念し、「優生思想(優生学と非障害者優先主義)と闘い、そのような考え方を社会に広めた法的責任の追及をめざして、津久井やまゆり園事件を見直すこと」を勧告した。この勧告にふれずに、優生思想を克服した共生社会の実現をめざす「計画」は机上の空論ともいえよう。
優生思想からの脱却に向けて、医療、教育、福祉の分野を中心としつつも、あらゆる分野(メディア・放送、裁判官・弁護士・警察官・刑務官、IT関係技術者、交通・運輸、住宅・建築・デザイン専門職、スポーツ・文化・司書・学芸員など)を対象にした総合的視点が必要で、医療、教育、福祉に狭める医学モデルの視点を脱却すべきである。
また、あらゆる分野の養成課程(国家試験・資格試験、採用後研修の各段階の教育・研修)を通じて、障害者権利条約、障害者差別解消法、障害の社会モデル・人権モデルを学び、それぞれの実務で生かせるようになることを求める。
精神科病院や入所施設、高齢者施設(精神科病院や入所施設からの転移者)に優生手術を受けたカルテや記録が残されている。一部の自治体では病院や施設を訪問し、またカルテの調査を依頼することで、被害にあった人の特定につながっている。国から全国の自治体に対して、精神科病院や入所施設、高齢者施設への調査や資料の保存を強く要請すべきである。さらに個別対応、メディアを通しての公告などあらゆる手段を駆使し、民間団体への協力依頼なども行い、1日も早く被害にあった人の尊厳の回復と補償を行うこと。
基本合意書に基づく定期協議を速やかに開催すべきである。初回は、少なくとも年度内に開催し、重要かつ多岐にわたる協議事項が想定されることから、当分は年に複数回の開催とすべきである。おざなりとならないよう協議時間は十分に確保しなければならない。また、定期協議の透明度を高めるために、情報保障を含む傍聴席を設けるとともに、オンラインでの中継を図り、メディアに対しては原則フルオープンとすべきである。所管大臣の毎回の出席に加えて、とくに初回ならびに重要な局面にあっては、内閣総理大臣の出席を求める。
国連からの総括所見は、相談・苦情・救済の仕組みを差別解消、精神科医療、女性障害者への暴力の分野で確立するよう勧告し、さらに総合的な権利擁護のために、個人通報制度と国内人権機関の設立を勧告した。優生保護法問題の抜本的解決、同様の人権侵害の再発防止に向けて、国内人権機関の設置を早急に進めるべきである。
「共生社会の実現」に向けて何がどのように進展したかを図る物差しが必要である。 SDGsのグローバル指標には障害のある人とない人とを比較するよう求める11項目があるが、最終年(2030年)を目前にした日本政府の現在のデータは、その求めにいずれも答えられていない。2022年国民生活基礎調査で障害の有無に関する設問が初めて入ったことで、障害のある人の貧困率が分析できる。差別のない社会を実現するためには、障害のある人が置かれている実態を明らかにすべきだ。
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