23年3月24日更新
○2月27日、大阪地裁で聴覚に障害のある子どもが亡くなった交通事故の加害者への判決が出されました。一般労働者の所得の85%の賠償という判決でした。損害賠償における逸失利益について再検討を求めます。
2023年3月23日
声明 障害を理由とした不利益はあってはならない
-障害者権利条約にもとづく「逸失利益」の再検討を-
認定NPO法人日本障害者協議会
代表 藤井 克徳
大阪地裁は2月27日、6年前に起きた聴覚に障害のある子が亡くなった交通事故の加害者に対して、一般労働者が将来受け取るであろう所得の85%の金額の賠償を命じた。障害があることを理由に「85%」にする判決には到底納得できない。
障害のある人の「逸失利益」は、いのちの尊厳や重さ、とりまく情勢の変化によって影響するといわれる。これからの時代、国や自治体の政策動向、社会の障害に対する意識、ICTはじめさまざまな技術の進歩などを考え合わせると、障害があっても障害のない人と同等の賃金を受け取ることは十分可能となる。
2007年、東京地裁は女児の交通事故における賠償金についての判決で、それまで一般女性の収入を基礎に判断していたが、それを「多様な発展可能性を性の違いで差別する側面がある」と否定し、男女の平均を採用した。性による差別を否定するのであれば、あらゆる属性による差別を否定することが当然である。いままさに、損害賠償における将来の所得を推定する「逸失利益」の考え方そのものを問い直すときにあるのではないか。誰にも将来のことはわからないのであり、固定観念に満ちた将来の決めつけは合理的とは言えない。
日本が批准した障害者権利条約の根本的な思想は、「他の者(市民)との平等」である。総括所見では、「障害者が他者と対等であり人権の主体であると認識し、全ての障害者関連の国内法制及び政策を本条約と調和させること」と勧告されている。また、障害者差別解消法では、第2条で社会的障壁について、「障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう」と定義している。まさに社会の側が変わり、環境が整えば、さまざまな可能性が広がる。
私たちは、優生保護法廃止を訴え、その根源にある優生思想が社会の隅々に浸透し、それが法制度にも影響を与えていると強く指摘してきた。今回の大阪地裁判決は障害のある人の人としての価値を割り引くものである。引き続き私たちはこのような優生思想に基づいた社会意識と戦っていきたい。
障害はだれにでも発生し得る。逸失利益の考え方は、その社会の障害のある人のとらえ方と深く関係する。今般の大阪地裁判決について、市民社会としても深く考えてほしい。
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