22年9月14日更新
○9月9日国連障害者権利委員会は、締約国である日本に対する 総括所見(勧告)を公表しました。JDでは総括所見を多くの方々と 共有し、今後に生かしていきたいと考え、声明を発表しました。
声明
国連総括所見(勧告)を障害者政策の根本改革の契機に
2022年9月14日
認定NPO法人日本障害者協議会
代表 藤井克徳
2022年9月9日、国連障害者権利委員会は、障害者権利条約(以下、権利条約)締約国である日本(行政・立法・司法および地方自治体などの公的機関)への総括所見(勧告)を公表した。総括所見は、日本社会のあり方や障害者をめぐる課題を根本的かつ鋭く問いただし、長年にわたって私たち障害者関係団体が求めてきたことが網羅されている。文字通り「わが意を得たり」の心境である。
憲法98条には、「国が締結した条約を誠実に遵守すること」とある。権利条約と総括所見は一体であり、国は憲法の規定に沿って総括所見に向き合うべきである。わけても、権利条約が繰り返し述べている「他の者との平等を基礎として」を尊重することであり、不平等の実体のこれ以上の先送りや言い訳は許されない。総括所見の全体を貫いているのは、従来からの障害者政策の枠組みからの脱却である。国の障害者に対する人権感覚の貧しさは言うに及ばず、政策審議システムも予算措置も、既存政策の延長線上には真の答えがないことを示唆しているように思う。
内容面で注目したいのは、関連する法制度の基本的な考え方を医学モデルから社会モデル/人権モデルに転換を求めていることだ。また、国や自治体での政策等の意思決定過程に多様な障害者代表の積極的かつ実質的な参加を勧告している。これは、「私たち抜きに私たちのことを決めないで」という基本的姿勢が日本では欠如していることの証左でもある。
特筆すべきは、国際的に大きく立ち遅れている精神科医療について、権利条約第10条、14条、15条、19条、25条などで厳しく指摘していることだ。障害に基づくいかなる形態の強制入院・治療も認めず、無期限の入院をやめ、自由の剥奪である強制入院の法的規制の廃止を明記している。合わせて入院しているすべての障害者について徹底した調査を求め、極めつけは加害者を起訴し処罰せよと勧告していることだ。
さらに、人権問題の根幹に重なる障害者差別解消法や障害者虐待防止法の見直し、優生保護法問題の解決を求めている。障害者の暮らしと深く関係する所得保障制度にも言及し、障害者の適切な生活水準を保障するための障害年金額の規定の見直しを勧告している。
日本の障害者政策の根本的見直しを求める総括所見の背景には、国内の障害関係団体が意見の違いを越えてパラレルレポート作成に取り組んできたこと、そのパラレルレポートをもとに国連の障害者権利委員会とのコミュニケーションを大切にしてきたことがあげられよう。国別審査が始まって以来の100人を超える日本からの傍聴団の熱意も権利委員会には伝わったはずだ。冷静で深い洞察力をもって日本の実態の考察に携わった、国別(日本)担当のヨナス・ラスカスさん(リトアニア)とキム・ミヨンさん(韓国)をはじめとする、すべての障害者権利委員(18人)に心から敬意を表したい。
この総括所見をどういかすか、私たちには今後の取り組みが問われている。総括所見の内容を学び合い、深め合うことがその第一歩である。総括所見を多くの人たちの共通認識にしていくための努力も必要だ。かつて国連は、「障害者を締め出す社会は弱くもろい」と言明した。障害者政策の根本的な解決は、社会のあり方とも深く関係する。国連総括所見(勧告)の具体化を、市民社会のみなさんと一緒に実現していきたい。
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