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22年5月13日更新

緊急声明 障害当事者の人権が守られる精神保健医療福祉の実現を求めて

○JDは5月12日、緊急声明「障害当事者の人権が守られる精神保健医療福祉の実現を求めて」を公表しました。

 

【PDF版はこちらから】

2022年5月12日



緊急声明
障害当事者の人権が守られる精神保健医療福祉の実現を求めて

 

 

認定NPO法人日本障害者協議会(JD)

代 表  藤 井 克 徳

 日本の入院中心の精神科医療の抜本的改革は遅々として進んでいません。社会的入院問題の解決も進まず、いわゆる精神科特例の問題も残されたままです。厚生労働省では長年にわたってさまざまな検討が重ねられていますが、障害のある人たちの人権擁護の仕組みは脆弱なままで、精神科医療の改革にも未着手です。
 現在厚生労働省で開催されている「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」では、今後の精神保健医療福祉体制にかかわる重要な検討が行われています。しかし、その議論の推移をみると、立ち遅れている日本の精神保健医療福祉体制を改革するという方向性に乏しく、なかには時代に逆行する提案もあり、危機感を覚えます。障害当事者の人権を守るため、次のことが必要です。

1.医療保護入院の廃止の方向性を明確にすること
 本人の同意を得ずに、家族等の同意により本人を強制入院させる医療保護入院は世界に例をみない入院形態です。医療保護入院が強制入院の主たる入院形態となり、本人の権利が十分守れず、家族へ過重な負担をかけ続けていることなど、様々な問題点が長年に渡り指摘され続けてきました。したがって、検討会において医療保護入院の廃止の方向性が打ち出されたことは当然のことでした。しかし、その後の検討会資料では「廃止」の文言が消え、その方向性が後退してしまいました。改めて医療保護入院の廃止に向けて明確な方向性を打ち出すべきです。

2.精神科医療機関を障害者虐待防止法における通報義務に位置づけること
 精神科医療機関においては、神出病院事件をはじめ精神障害当事者の尊厳を奪う人権侵害事件が後を絶たない状況にあります。このような中、現行の障害者虐待防止法では、学校、保育所等、医療機関、官公署等には通報義務がありません。これについては当会も加盟する日本障害フォーラム(JDF)では、2017年10月23日の厚労省ヒヤリングにおいて上記を通報義務に加えるよう意見を述べています。精神科医療機関にも障害者虐待防止法における通報義務を課し、虐待の防止に万全を期すべきです。

3.身体拘束要件緩和の件
 治療の名のもとの身体拘束は、身体拘束をされた人にとっては生涯癒えることのない「心の傷」となっています。精神科病棟における身体拘束の実施要件は、精神保健福祉法第37条1項基準(昭和63年4月8日厚生省告示第130号)によって定められています。しかし、検討会では、以下のように3回にわたって要件緩和に向けた文言が追加されています。「治療困難」を理由に身体拘束が認められてしまうという危険性を孕んでいます。
 3月16日「処遇基準の見直し等」として、「検査及び処置等を行うことができない場合」を追加
 3月31日「これにより、患者に対する治療が困難な場合」を追加
 4月15日「これにより、患者に対する治療が困難であり、そのまま放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれが切迫している場合や、常時の臨床的観察を行っても患者の生命にまで危険が及ぶおそれが切迫している場合」と修正
 これらはいずれも、「検査及び処置」や「治療」など、現行の要件に存在しない新たな要素を加えるもので、身体拘束の実施要件緩和にほかなりません。本来「身体拘束ゼロ」を目指すのが医療者の役割であり、到底容認することはできません。喫緊の課題として、身体拘束数の削減と患者への負荷の軽減に向けて実効的な措置を講ずべきです。

 以上のように、現在行われている厚労省の検討会の方向性は時代に逆行するものが多く、これを抜本的に見直し、障害当事者の人権が守られる施策が講じられることが必要です。

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