21年5月30日更新
○JDは、2021年5月27日の優生保護法下における強制不妊手術を考える議員連盟総会に向けて、「旧優生保護法一時金支給法第21条に基づく調査に関する意見書」を提出しました。
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2021(令和3)年5月26日
優生保護法下における強制不妊手術を考える議員連盟
会長 尾辻 秀久 様
衆議院厚生労働委員会理事会 御中
参議院厚生労働委員会理事会 御中
旧優生保護法一時金支給法第 21 条に基づく調査に関する意見書
優生保護法(1948~1996 年)は、その前身である国民優生法と合わせて、日本の人権をめぐる歴史の中で最大かつ最悪の問題ととらえるべきである。残念ながら、今となってできることは限られている。
一つは、被害者に対する謝罪と手厚い補償であり、もう一つは、徹底した検証と総括である。謝罪と補償については、旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律(以下、一時金支給法)においてその入口に立つことができたが、真の解決にはなお遠い。施行状況を点検しながら、早い時期の改正が求められる。
もう一つの、検証と総括については、一時金支給法第 21 条に基づく調査に期待したい。当会は、当初より「調査ではなく検証とすべき」と要望してきたが叶わなかった。但し、関係議員の説明を総合すると、「検証に代わって調査を用いることにした」とあった。当会としては、第 21 条の調査を、検証と同じ意味と解したい。
当会は、2020 年 6 月 30 日付で優生保護法下における強制不妊手術を考える議員連盟尾辻秀久会長宛に、「旧優生保護法一時金支給法第 21 条に基づく調査への要望書」を提出している。下記はこれを改訂したもので、ここに改めて意見書としてとりまとめたものである。今後の調査にあたり反映されたい。
記
1.中立性・独立性の堅持
衆参両院厚生労働委員会調査室(以下、調査室)で行う調査が、いわゆる政治の力に左右されることなく中立性・独立性を貫くことである。同時に、調査室の独善性や恣意性を排すとともに、重要な内容の見過ごしや漏れを防ぐことである。そのための手段の一つとして、折にふれ、また重要な節目に際し、障害者団体を含む関係団体との意見交換が欠かせない。加えて、進捗状況についての定期的な報告、検討の経緯等についての記録の公開を求めたい。
2.検証内容(主要なもの)
1)優生保護法関連
被害は、深刻な人権侵害を伴いながらおびただしい数に上る。かつ長期間にわたり、全国に及ぶ。これらに応えられる調査が求められる。少なくとも、以下の諸点を調査の対象とすべきである。
・優生保護法の立法過程(日本国憲法との関係、GHQ(連合軍総司令部)との関係、前身となった国民優生法との関係、さらにはナチスドイツ下の遺伝性疾患子孫予防法との関係等)
・「優生保護法別表」(優生手術の対象疾患・障害)の根拠
・障害関連立法への影響(「優生上の見地から」「不良な子孫」などに基づく障害観が、後の障害関連法律、障害関連施策にどう影響したか)
・優生保護法と精神衛生法との関係
・優生手術件数と精神科病床数・知的障害者入所施設定員の相関関係(現象としては、優生手術件数の減少傾向と合わせて、精神科病床及び知的障害者入所施設定員の伸びがみられる)
・施行後の厚生省(当時)の対応(関連通知の発出による優生手術促進策等の実態と背景)
・教育行政への影響(高等学校の保健体育教科書への優生政策奨励の掲載等)
・法務行政への影響
・施行後の自治体の対応(都道府県並びに市町村、保健所、相談機関、公立医療機関等の動き。兵庫県などでは「不幸な子供の生まれない県民運動」を実施。
・優生手術実施数の自治体間格差の背景
・精神医療関係団体(病院関連団体、関連学会等)の動き、並びに政府とこれらの団体の関係
・マスメディアの対応(重要な節目での報道内容、論調の推移等)
・優生保護法と市民社会との関係(改まらない障害者差別や偏見への優生保護法の影響等)
・優生条項の廃止時(1996 年)に、国会において、どの程度の検証や総括が成されたのか。もし正規の審議時間をとっていなかったとしたらそれはどうしてか。
・謝罪と補償政策が遅れた要因(不十分ながらも一時金支給法が制定されるまでには、優生条項が失効してから 22 年余も経過している)
・長期にわたり被害者が声を上げることができなかった理由
・被害者及び家族が訴訟を起こさなかった理由
・一部の被害者が、優生条項の失効後何度か厚労省(以前は厚生省)に補償を訴えているが、厚労省の対応は「当時は適法だった」のくり返しにとどまった。こうした厚労省の対応の真意と背景は何だったのか。
・「障害による不利益」(とくに意思を表明しにくい知的障害者、精神障害者、聴覚障害者)と除斥期間(民法724 条後段)との関係
・国際的な関連の動き(優生関連法の有無、被害実態、謝罪や補償の実態等)この他、検証の内容については、被害者や家族、弁護団に加えて、広く障害関係団体や人権関連団体などから意見や要望を集約すること。また、ハンセン病問題に関する検証会議などの先行事例を参考にすること。
2)「一時金支給法」の検証
「一時金支給法」については、成立の段階から、とくに被害者(原告)から厳しい評価が下されている。法の内容面に加えて、国会での審議が十分でなかったことも問題とされている。調査の対象に、優生保護法問題だけではなく、一時金支給法関連も含むべきである。
・一時金支給法の成立過程
・一時金支給法の評価
・施行後の課題(認定件数の極端な少なさ)
・自治体の関連動向
3.報告書への期待と役割
優生保護法は、必要ないのちと不要ないのちの選別を、公的権力の下で行なってきた。生産に役立つ人とそうでない人を分ける考え方は決して過去のものではなく、私たちが生きている今の社会に厳然として残っている。津久井やまゆり園事件や中央省庁での障害者雇用水増し事件などは、障害のある人のいのちや存在が軽んじられていることの証左である。
本報告書は、優生保護法被害問題の背景にある、人を選別し差別する思想に深く切り込み、こうした問題に、今を生きる私たちがどう対峙していくのかを考え、社会のあり方を捉え直すきっかけとなることが求められている。これに耐えられるものであってほしい。
【連絡先】
特定非営利活動法人日本障害者協議会
〒162-0052 東京都新宿区戸山 1-22-1
Eメール office@jdnet.gr.jp
TEL.03-5287-2346 FAX.03-5287-2347
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