障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

14年9月12日更新

全盲の女子生徒への暴行傷害事件についての声明

JDは、9月12日、全盲の女子生徒への暴行傷害事件についての声明を発表しました。


 【PDF版はこちら】

                                                      

          全盲の女子生徒への暴行傷害事件についての声明

                                    



 埼玉県の盲学校に通う全盲の女子生徒が登校途中に何者かに足を蹴られた事件が起きました。
多くの人が、怒りを通り越した無念さと衝撃を覚えたのではないでしょうか。そして、障害のある人たちは、
言いようのない不安と恐怖にさいなまれたに違いありません。日本障害者協議会はこうした事件の再発
防止と、そのための必要な手立てを社会全体で考えていくことを強く願うものです。

 被害にあった女子生徒は、9月8日午前8時前、通学のため、JR川越駅コンコースの点字ブロックを
白杖(はくじょう)を使って歩いていたところ、正面から来た人が白杖に躓き転倒、その後、背後からひざ
裏を強く蹴られたのです。加害者は終始無言だったため全盲の女子生徒には性別さえもわかりません
でした。川越駅には、この加害者を探す立て看板も立てられたようですが、自ら名乗り出て当時の真相
を明かして卑劣な行為を詫び、女子生徒に謝罪するべきです。精神的なダメージを受け、心身ともに傷
ついた女子生徒が一日も早く傷が癒えるのを願うばかりです。

 女子生徒は「以前から杖に躓く人はいたが暴行を受けたのは初めて。蹴られたときは何が起きたか
わからず、怖かった」と話すように、事件以降、外出に強い恐怖心を抱いたにもかかわらず、後輩たちが
同じような経験をしないようにと勇気ある決意をもって被害を公にしたのです。そして、「白い杖は視覚
障害者にとって目の代わり、点字ブロックは道を歩くための道しるべであることを理解してほしい」、合わ
せて、社会の一員として平等に認めてほしいと訴えています。

 この女子生徒の訴えには、視覚障害に限らない、すべての障害のある人のおかれた現状、社会の課題
が映し出されています。障害のある人が社会生活を営むためには、なんらかの支援が必要になります。
全盲の女子生徒にとっては、白杖と点字ブロックは、安全に歩行するための「命綱」そのものです。肢体障害
の人にとっての介助者や車いす、聴覚障害の人にとっての手話通訳や要約筆記なども同じだと思います。

 通学したり、通勤したり、友達と会っておしゃべりするというごく当たり前の行為が障害のある人にとっては
容易ではありません。当たり前を実現するためには、今の社会では大きな障壁にぶつかる場合が少なくない
のです。障害のある人への社会全体の理解が大切であることは言うまでもありませんが、個々の障害特性
や年齢、性別などに応じた障壁を減らすための具体的な支援がとても重要になります。社会の一員として
認めてほしいとは、社会の側がそれらの支援策の必要性を十分に理解することに他なりません。

 この事件は、障害のある人への社会の理解が進んでいないことの表れであり、今回の被害も実は氷山の
一角に過ぎません。ツイッターでは「点字ブロックが盲人のためのものだとは知らなかった」「盲人が我が物顔
で歩いていて不愉快」といった発言も見受けられ、視覚障害者のことを知らず、差別感をもつ人がまだたくさん
いる現実があります。また、駅のホームで複数回にわたって暴言を吐かれた上に電動車いすのタイヤを蹴り
つけられる経験をした当法人の役員もおり、市民の理解はまだまだと言えます。

 去る7月には同県で盲導犬が傷つけられた事件が報じられたばかりですが、これらの行為や事件はすべて
根は同じです。その背景には、障害や障害のある人に対する無知・無理解があり、これと関連しながら、思い
やりや人権意識の欠如があるように思います。

 世の中には、様々な人がいます。その様々な人によって社会が成り立つためには、違いを認め合い、理解
し合うことが大切になります。相互理解が深いほど社会の成熟度は大きくなるのであり、すべての人が暮らし
やすくなるのではないでしょうか。

 今年1月、日本は障害者権利条約を批准し、障害のある人の権利保障の推進を世界に向かって宣言し
ました。国内においては、障害者基本法の改正や障害者差別解消法を制定し、障害のある人の普通の暮らし
の実現に大きな後ろ盾を得ることができました。批准された障害者権利条約や新たな法律をもっと社会に
周知・浸透させていかなければなりません。

 日本障害者協議会は、重ねて今般の事件を深く憂い、再発されないことを強く願うものです。そのためには、
社会の様々な立場の人が障害のある人思いをはせるように、そして障害のある人の声が社会に届くように、
ひいては、すべての人が安心して暮せるインクルーシブな社会をめざして活動を継続していくことを表明
するものです。


2014年9月12日

                                          特定非営利活動法人日本障害者協議会
                                                 代 表  藤 井 克 徳


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