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09年10月18日更新

障害者自立支援法の廃止とこれに伴う新法制定に関する要望書

JD発 第09-27
2009年9月30日


内閣総理大臣 鳩山 由紀夫 様


日本障害者協議会
代表 勝又 和夫


障害者自立支援法の廃止とこれに伴う新法制定に関する要望書


 新政権の中心を担われる民主党におかれましては、かねてより私どもの運動に対して深いご理解とご支援をいただいてまいりました。新政権の樹立を機に、これまでにも増して障害関連政策の発展にご尽力いただきますよう心より期待致します。

 さて、当協議会は9月3日付で“民主党代表 鳩山由紀夫”様宛に、三項目から成る「障害者自立支援法等に関する緊急要望書」を提出したところです。早速ながら迅速な対応をいただき、去る9月19日の長妻昭厚生労働大臣による「障害者自立支援法の廃止と新法づくり」の明言に続いて、24日の広島地方裁判所での「障害者自立支援法訴訟への姿勢転換」、28日には新たな利用料の減額策を講じる旨が報じられました。

 ここに至って注目すべきは、10月下旬に開会が予定されている臨時国会での新政権の対応です。臨時国会において期待したいのは、改めて立法府において障害者自立支援法(以下、障害者自立支援法)の廃止を宣言することであり、同時に「障害者総合福祉法」(仮称)の創設に向けての基本視点とスケジュールを明示いただくことです。

そこで、具体的な要望に先立って、基本的な観点を四点にわたって申し上げたいと思います。

 第一点目は、既にわが国政府も署名し国連において発効をみている障害者権利条約の水準を踏襲することです。

 第二点目は、より体系的な法制設計としていくために貴党がマニフェストに掲げている「障害者制度改革推進法」と一体的に進めていくことが肝要です。そのためにも臨時国会において「障害者制度改革推進法(障害者制度改革推進本部の設置を含む)」を成立させ、一定の期間を要するとみられる「障害者総合福祉法」の創設をこの中に位置づけながら審議いただきたいと思います。

 第三点目は、「政策決定過程への当事者参加」を実質化してほしいと言うことです。形だけの参加であってはならず、また審議会委員の人選にあたってはこれまでのような官僚による恣意的な手法を廃してほしいと思います。

 第四点目は正確な実態把握の上に法制の設計を図っていくことです。自立支援法は「机上のプラン」と揶揄されていましたが、同じ轍を踏んではなりません。

 何卒、私どものこうした願いをご理解いただき、下記事項に関し実現を図っていただきますよう切に要望いたします。



1. 次期臨時国会において、自立支援法の廃止を前提とした「障害者自立支援法の一部改正」を行なうとともに、障害者施策に対する新政府の基本方針を明確にしていただきたい。あわせて、自立支援法に代わる「障害者総合福祉法」制定についての基本的な考え方とロードマップを明示していただきたい。



2.「障害者自立支援法の一部改正」に関する事項

  1. 当協議会としては自立支援法を平成23年度末で廃止し、新法を平成24年度より施行していただきたいと考えているが、この間に所要の調査やヒヤリング等、充分な検討期間を設けて新法づくりに反映させ、真の自立と共生を実現する内容としていただきたい。
  2. 障害者自立支援法がもつ根本的問題である定率(応益)負担と報酬単価の日額制について平成22年4月実施を目途に自立支援法の一部改正を行ない、応能負担化(*1)と報酬の月額化(*2)を実施していただきたい。なお、新体系事業及び旧体系の授産施設における利用料負担はILO第159号条約(*3)や第99号、第168号勧告からして、すべて無料とすべきである。

    *1:応能負担の水準は、自立支援法施行前の負担と同程度とし、所得の認定は障害児及び配偶者を含めて障害当事者本人の収入のみとしていただきたい。精神障害者の利用負担についても他の障害と一体化させていただきたい。また、制度切り換えによって負担が現行より増えることがないようにしていただきたい。


    *2:報酬の月額化にあたっては、現行報酬体系の各種加算を本体報酬に組み込むとともに、真に必要な事業運営ができる報酬単価とすべきである。また、本人が希望するサービスを組み合わせて利用できるよう、複数事業所による月額報酬の案分または日割り減算等のしくみを構築することにより、複数のサービスが利用できるようにしていただきたい。


    *3:2007年8月15日ジュネーブILO本部提出「日本の障害者雇用政策におけるILO第159号条約違反に関する国際労働機関規約第24条に基づく申し立て書」(全国福祉保育労働組合)による。


  3. 第171回通常国会で廃案となった障害者自立支援法改正案について、相談支援の充実や障害者自立支援協議会の法定化、移動支援事業の個別給付化など、その内容が現状の改善につながるものについて、障害者総合福祉法(仮称)の制定を待たず、平成22年4月を目途に実施していただきたい。



3. 新たな法制度の構築に向けた基本的な視点


  1. 障害者権利条約との整合性を図りつつ、障害者とその家族の生活状況を把握し、実態を踏まえた制度としていただきたい。
  2. 介護保険制度とは統合せず、年齢にかかわらず引き続き障害福祉施策を利用できる制度とすべきである。
  3. 障害児のサービスは、原則「児童福祉法」に位置づけていただきたい。
  4. サービス利用に係る契約について、障害児のサービスは契約制度によらず、必要なサービスを利用できるしくみとしていただきたい。
  5. 自立支援法の対象と明確化されていない発達障害者・高次脳機能障害者・難病患者等が必要なサービスを利用できるよう、障害者権利条約にいう「相互モデル」の考え方に基づいての支援の必要性から、対象者を規定するしくみにしていただきたい。
  6. 福祉行政と労働行政との連携によって就労支援策を充実させていただきたい。
  7. 制度構築にあたっては、障害当事者のみならず、事業者や制度運営にあたる市区町村の参画を保障すべきである。
  8. 総合福祉法(仮称)施行に向けて、サービス体系や障害程度区分のあり方などを検討し障害者が当たり前に地域で暮らし、地域の一員として共に生活できる社会の実現に努められる制度としていただきたい。
  9. 障害者虐待防止法および障害者差別禁止法などの関係法の制定を行なうとともに、不足している社会資源の拡充のための特別立法を制定していただきたい。

障害者総合福祉法(仮称)制定までのロードマップ

平成21年度
平成22年度
平成23年度
平成24年度
法体系
障害者自立支援法
障害者自立支援法
自立支援法廃止
(24年3月末)
総合福祉法施行
(24年4月施行)
利用者負担
一部改正
応能負担
応能負担
(4.個別の課題の項参照)
事業者報酬
一部改正
月額化
月額化
(4.個別の課題の項参照)
制度対象者
一部改正
範囲拡大
範囲拡大
(4.個別の課題の項参照)
サービス体系
検討
検討
検討
新体系移行
障害程度区分
検討
開発
試行
新区分施行
実態調査
検討
実施・公表
新法への反映
-


4. 個別の課題とタイムスケジュール(一部重複)


個別課題 実施時期 内容と課題
利用者負担 どんなに遅くても
平成22年4月
障害者自立支援法施行前の負担水準(応能負担)に戻すとともに、所得の認定を障害児も含めて本人の収入のみとすべきである。あわせて入所施設入所者の負担軽減を図っていただきたい。また就労支援事業に関しては無料とすべきである。
事業者報酬 どんなに遅くても平成22年4月 報酬の算定基準を月額に戻していただきたい。あわせて利用者の多様なニーズに応えて複数サービス利用が可能となるよう、月額報酬の案分または日割り減算などのしくみを構築していただきたい。
現行報酬の各種加算は原則本体報酬に組み込み、真に必要な事業運営が可能となる水準とするとともに、各事業の職員配置規定などを見直し、障害サービスの質の担保を図るべきである。
制度対象者 平成22年4月 発達障害者・高次脳機能障害者・難病患者などが必要なサービスを利用できるよう、支援の必要性から対象者を規定していただきたい。
サービス体系 平成24年4月 既に自立支援法が規定する新体系への移行が一定進んでいるため、福祉行政と労働行政など各種制度との整合性を図る視点の見直しを検討していただきたい。
障害程度区分 平成24年4月 現行の介護保険要介護認定をベースとした障害程度区分は廃止すべきである。ICFの考え方から支援の必要性を明らかにする区分(ガイドライン)を構築すべきである。新しい区分は原則的にサービス利用制限に使用すべきでない。
支給決定プロセスとケアマネジメント 平成24年4月 支給決定プロセスの中に、明確にケアマネジメント(サービス利用計画の策定とモニタリング)を位置付けるべきである。 相談支援事業の担い手の資質の担保を制度化するとともに、ピアサポートの活用やセルフマネジメント・エンパワメントの実践を重ねていくべきである。
障害者自立支援
協議会
平成22年4月 自立支援協議会が真に地域の相談機能拡充のツールになるよう、法的な位置づけや必要な財源措置を行なっていただきたい。
地域生活支援事業 平成22年4月

移動支援事業やコミュニケーション支援事業等に対して、国が責任をもって財政保障を行うとともに、手話通訳者設置と手話通訳・要約筆記派遣の一体的な実施を国の責任で全自治体に義務づけていただきたい。
他の地域活動支援事業についてもナショナルミニマムとして地域間格差を解消するとともに、それを超えてサービス提供を行なう市区町村に対して、地域生活支援事業で補助するという2階建ての制度としていただきたい。

契約制度 平成24年4月 自ら契約することが困難な重度障害者の契約支援について、成年後見制度の拡充を図っていただきたい。障害児のサービス契約は原則廃止し、措置制度に変わる新しい利用のしくみを検討していただきたい。
所得保障 早急に 工賃倍増では解決しない障害者の所得保障について、障害基礎年金を大幅引き上げる(生活保護費基準Ⅰ・Ⅱ類合算額の1.5倍を目途)などの根本的解決を図っていただきたい。

5. 関連事項


1. 新たな制度設計に向けて

  1. 障害者の生活実態について全国規模の実態調査により把握して、その結果に基づき制度を構築していただきたい。
  2. 必要とされる障害福祉関係予算をOECD諸国の10位以内となる額を確保するとともに、安易な地方分権による「財源移譲なき権限委譲」は行なうべきでない。

2. 直面している自立支援法の問題点について

  1. 自立支援医療・補装具費の自己負担も応能負担に切り換えることとし、その内容は上記2項*1と同様にしていただきたい。
  2. 相談支援、特にケアマネジメントに対する評価を報酬上で明確に位置づけ、地域における相談支援機能の拡充を図るべきである。
  3. 現在実施されている「障害支援区分のあり方等に関する勉強会」と、予定されている「支援ニーズ推定調査(仮称)」は中止し、新たなしくみを構築すべきである。
  4. 障害福祉計画や自立支援協議会など、自立支援法の評価される部分についてさらに積極的に取り組んでいただきたい。
  5. 就労継続支援事業A型の二重契約に代表される矛盾の解消を図るとともに、福祉と労働の連携を強化し、社会支援雇用(保護雇用)制度の創設(及びジョブコーチの個別給付化)など新たな就労支援策を構築すべきである。
  6. 精神障害者退院促進施設については一時凍結し、新たな地域移行(退院促進)システムを構築していただきたい。

3. 障害者総合福祉法(仮称)における留意事項について

  1. シンプルで、誰がみてもわかりやすい制度をめざしていただきたい。
  2. 3障害の統合という理念を踏まえつつ、全障害者の障害特性と個々のニーズに応じた支援が実施できるようなサービス体系を構築すべきである。
  3. 障害程度区分と報酬の関係について検討し、障害の重い軽いではなく、支援の必要度に応じて報酬単価が設定されるようにすべきである。
  4. 地域におけるサービス格差が生じないよう、国の財政負担を明確にしながら、地方におけるサービス確保と基盤整備を図っていただきたい。
  5. 援護の実施者であり、制度の運営者でもある市区町村職員の専門性を高め、地域間格差解消の一助としていただきたい。

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