08年8月12日更新
団体名 日本障害者協議会(代表 勝又和夫)
発表者 藤井克徳(常務理事)
わが国の障害分野は、政策水準についても、個人の生活水準についても、社会や経済全体の到達状況ならびに市民の平均的な生活水準と比較して、大きく立ち遅れている。加えて、深刻な現象にあるにも関わらず放置されている問題は少なくなく、例えば入所施設偏重政策(知的障害者が主対象)や社会的入院問題(精神障害者が主対象)などはその一例である。今回の障害者基本法(以下、基本法)の改正は、これらの改善に貢献するものでなければならない。
その際、予算の確保が決定的に重要となる。周知のとおり、わが国のGDPに占める障害関連予算の分配率は、欧米と比較して大きな遅れをとっている。国立社会保障・人口問題研究所の調査結果(2003年)によると、スウェーデンの約12%、アメリカの約54%でしかない。予算分配率の増加を図っていく上で、強力な拠りどころになる基本法としていかなければならない。
前回と今回の基本法の改正をめぐる環境で、最大の違いの一つは障害者権利条約(以下、条約)の発効をみたことである。近い将来、批准又は加入の道を辿ることになろうが、その前提として基本法についても条約の水準に合致させておく必要がある。条約水準のクリアにあたっては、条約の個々の条項の正確な解釈の上に実質的なものとしていかなければならない。
「障害分野の憲法」と称されている基本法であり、その改正に障害当事者がいかに参画するかは、この法律の価値にも関わる重大な問題である。なお、条約採択の過程で、終始、強調されたフレーズに「私たち抜きに私たちのことを決めないで(Nothing about us, without us)」があった。今回の基本法の改正にあたっても、この視点を尊重すべきである。
いわゆる「谷間にある障害」の問題の完全な解消を図るべきであり、その際に条約での「障害の捉え方」(第1条・目的)で明示された「…中略…様々な障壁との相互作用により他の者と平等に社会に完全かつ効果的に参加することを妨げることのあるものを含む。」を踏襲すべきである。換言すれば、ニーズを中心とした定義に改められなければならない(例えば、障害に伴って雇用支援で何が必要か、障害に伴って所得面でどのような支援が必要かなど)。なお、「障害」という表記についても、改訂の方向で検討すべきである。
条約の真髄部分でもある「合理的配慮」について、基本法にどのように反映させていくかが問われることになる。労働・雇用や教育、建造物、交通機関はもとより、社会福祉分野を含めて障害者政策全般に及ぶものでなければならない。
条約の中で、「言語とは、音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいう。」(第2条・定義)とあり、この考え方を障害者政策全般に反映させるべきである。
条約の中で、「言語とは、音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいう。」(第2条・定義)とあり、この考え方を障害者政策全般に反映させるべきである。
わが国の障害分野にあって、基礎的なデータの不備が大きな弱点とされてきた。関連政策を飛躍的に拡充していくためにも、基本法等による法的な根拠を持った調査及び統計等が実施されなければならない。
現行の中央障害者施策推進協議会については、その機能や事務局体制などからみて、不十分と言わざるを得ない。障害者政策の総合的で系統的な発展と言う観点から、同協議会の機能については飛躍的な拡充が求められる。アメリカのNCD(National Council on Disability)は大統領が任命する委員で構成されているという点で同協議会と似ているが、その機能や事務局体制などについては大きな隔たりがあり、参考にすべきである。
前回の基本法の改正時に、「障害者差別禁止法」の必要性が問われたが、結果的に、基本法の附則(第3条)において「…中略…障害者の施策の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」という形で今後の課題とされた。「差別禁止」の性格を強く帯びた条約の発効が成った今、実体法としての「障害者差別禁止法」の創設が求められる。なお、この課題については、海外の動向を踏まえる必要がある。
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