08年7月15日更新
写真は、都道府県会館4階会議室
で開催された社保審障害者部会
●第35回社会保障審議会・障害者部会
(障害団体からのヒアリング)資料 2008年7月15日
団体名 日本障害者協議会(JD)
代表者 勝又和夫
発表者 藤井克徳(日本障害者協議会常務理事)
連絡先 日本障害者協議会
住所 〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
(財)日本障害者リハビリテーション協会内
電話 03-5287-2346 FAX 03-5287-2347
障害者自立支援法(以下、自立支援法)に関する基本的事項について、また昨年12月に与党障害者自立支援プロジェクトチームが出した「障害者自立支援法の抜本的見直し」と題する報告書に対する、日本障害者協議会(以下、JD)の意見を申し上げます。
自立支援法が施行されて2年3ヵ月余になりますが、障害当事者や家族の不安と不満は一向に払拭されません。真の意味での「抜本的見直し」が図られなければならず、そのためには「法の枠内論議」に留まらない、それを超えた論議が必要かと考えます。
「見直し論議」にあたり、少なくとも次の諸点について留意すべきだと考えます。第一点目は、厚労省として自立支援法の施行後の検証を徹底して行なうことです。とくに、利用者への影響、事業者への影響を正確に把握することです。第二点目は、自立支援法の施行後に採択され発効となった、障害者権利条約の内容を意識するということです。近い将来、わが国においても批准が想定されますが、同条約と自立支援法の整合性をとっておく必要があります(残念ながら、重要な点で齟齬があるように思います)。第三に、自立支援法成立時の衆院附帯決議を想起することです。これには極めて重要な課題が明示されています。これらの課題は、施行後の推移をみて検討や具体化が図られるものと思われますが、厚労省による「見直し」にあたっても尊重されるべきです。
わが国の障害関連予算は、OECD諸国の中でも極めて低い位置に留まっています。2003年の国立社会保障・人口問題研究所資料によると、日本の障害者施策にかけられている支出は、スウェーデンの約12%、アメリカの53.7%でしかありません。
インクルーシブ社会、すなわち障害者の自立と社会参加を完全に実現していくには、障害関連予算の見積もりを根本的にやり直す必要があります。
与党プロジェクトチーム報告書では「介護保険との統合を前提とせず、障害者施策としての在るべき仕組みを考察」と述べており、その点については高く評価し、この基本的な考え方で、これからの障害者施策を推し進めてほしいと思います。
その基本的な考え方に立ち、JDはまず応益負担を廃止し、負担のあり方を応能的なものに改めるべきであると考えます。生涯にわたって財のストックが可能である一般高齢者と、そうではなく、しかも所得保障が全く不十分な障害者とは、負担のあり方を論じるときに、決して同列化できるものではありません(もっとも、高齢者の中の低所得者層については障害者との共通点が少なくない)。
また、制度の谷間に置かれている障害のある人をなくすために、高次脳機能障害やてんかん、難病をはじめとするあらゆる障害を包括する総合的な障害者福祉法の立法化が急がれます。
さらに、障害のある人の個人としての尊厳が尊重されるよう、民法の扶養義務範囲を見直し、成人した障害のある人が親や兄弟から扶養を受けることなく、地域社会の中で生き生きと暮らせるようにしていくことが重要です。
障害者雇用政策においては、障害のある人の可能性を最大限発揮できるような環境を作り出すための支援策が求められます。就労支援策は、福祉施策がメインとなるのではなく(「福祉的就労施策」であっても)、労働政策として対応すべきです。もちろん、福祉施策や医療施策との関係は重要になりますが、あくまでも労働施策が主柱となり、その上でそれらとの連携が図られなければなりません。
所得保障も極めて重要な課題です。障害基礎年金額が生活保護基準以下に放置されていること自体、由々しき問題です。また、無年金障害者問題についても早急な解決が求められます。
ここで注意を喚起したいのは、仮に年金額の水準に改善が加えられたとしても、そのことを理由に応益負担制度が正当化されてはならないということです。障害を理由とした不利益や不平等は社会的(公的)に補填されるべきで、個人又はその家族に帰属する問題ではないと考えます。こうした考え方を大前提に、一旦はいわゆる応能負担制度に戻すべきです。
また、利用料の算定にあたって、資産調査が法定事項となっていますが、障害当事者から「プライバシーの侵害では」との声が出され、資産調査に応じないことで最高基準の利用料を課せられている人も少なくありません。本質的な問題を有する資産調査規定については、撤廃すべきです。
以下報告書に沿った形で各論を述べさせていただきます。
特別対策」や「緊急措置」などを通し、通所事業部門を中心に利用料の軽減策が図られてきました。しかし、なかには減免措置を自治体に申し出ざるを得ない人たちも出始め、負担感の重軽については一様には論じられません。
一定の軽減策がとられ、応能的要素が強くなったとしても、肝心の法律には応益負担の考え方が厳然と明記されています。自立支援法から応益負担的な考え方を消去することこそが、本来の意味での「抜本的見直し」に値するものと思います。
事業者はますます不安定な経営を強いられ、利用者に対するサービスは低下の一途を辿っています。さらに福祉事業従事者の所得は、一般労働者と比べて極めて低い水準にあります。そのため、障害関係のみならず、社会福祉の現場から次々と人材が去っていく現実があります。
報告書にもある通り、一刻も早く、特別対策が図られ、福祉従事者の給与所得の改善と、経営基盤の安定と強化が図られるための、事業者への補助金のあり方の見直しなどの方策が求められます。
与党の報告書においては、「発達障害者を始めとする『障害者の範囲』については、引き続き検討」と述べていますが、制度の谷間にある障害のある人は、深刻かつ不利益な状況におかれています。「引き続き検討」というのは余りに曖昧であり、早急な具体化が図られなければなりません。
前述した通り、JDは総合的な障害者福祉法の実現によって、この課題が具体化するものと考えます。同時に、問題の深刻さからみて、現行の法制下にあっても制度の谷間を埋める柔軟な運用が求められます。
なお、谷間の障害の問題を解消していくこととも関わって、サービスの受給と「障害者手帳」を切り離して考えるべきです。つまり、手帳の有無に関わらず支援サービスを受給できるようにしていく必要があります。
障害のある人に対する介護は単なるADL介護ではなく、見守りから社会参加支援までを含む多様性に富んだ支援です。障害のある人自身の生活に対する希望に沿って行なわれることが基本です。
障害程度区分は、本来支給決定時の勘案事項の一つで、国は本人の意向や環境を重視するので個別ニーズを尊重できると説明していますが、多くの市町村では国からの負担基準額に沿った形で支給決定がなされています。
こうした基本問題がまず解決されることが喫緊に求められます。調査それ自体は必要なことですが、上記の問題をクリアせず、やみくもに調査を実施することについては賛成できません。
障害のある子どもに対する諸サービスは、障害のない子どもと制度的な差別が生じないように行なわれるべきであると考えます(主に費用負担の問題)。
JDの基本的な立場は、自立支援法は根底から見直されていく必要があるとするもので、これに代わってあらゆる障害を包括するサービス体系をつくり上げていくことで、総合的な障害者福祉法を実現することが重要であると認識します。
虐待防止の法制化はもちろんのこと、障害を理由にしたあらゆる差別を禁止する障害者差別禁止法についても、一刻も早い制定が求められます。
相談事業の強化を図り、それを担う人材の確保が図られなければなりません。的確にニーズを把握し、支援につなげ、地域生活を確実に支えることができるソーシャルワーカーの育成とその身分保障が必要です。また、当事者主体という視点に立ち、ワーカーとともに活動するピア・カウンセラーの育成、当事者団体への支援も重要です。
当事者とワーカー、それに地域住民が共に力を発揮し合い、信頼の厚い自立支援協議会としていかなければなりません。
地域生活支援事業は、地域の特性に応じて柔軟にサービスが展開できることが利点であるとされてきました。しかし、予算面での裏付けが極めて不十分であり、この点と相関しながら自治体間の格差が顕在化しています。事業全体の個別給付への移行を含めて抜本的な見直しが求められます(とくに、移動介護やコミュニケーション事業などについては個別給付事業の方向で早急な対応を)。
一般就労を推進する方策をより強化すべきです。障害のある人の可能性が最大限発揮され、合理的配慮に基づいて、障害のない人と同等に働け、労働条件等についても、フレキシブルなものにし、賃金補填はきちんと行なわれる必要があります。
基本的に就労支援については、福祉施策ではなく労働政策の中に位置づけられるべきだと考えます。その上に立って、ヨーロッパなどで多用されている「保護雇用制度」の導入を図るべきです。
なお、就労の場における利用料負担については、社会的な常識からみて、また労働意欲の維持という観点から、即刻撤廃すべきです(応益負担そのものの見直しに時間を要するとすれば、これらとは切り離してでも)。
冒頭でも述べたとおり、所得保障は、私たちにとっては最重点課題の一つであり、早急に解決が図られなければなりません。懸案の無年金障害者問題の解決を実現すると同時に、障害基礎年金の大幅引き上げ、さらに住宅手当をはじめとする必要な社会手当ての創設が求められます。
繰り返しになりますが、年金の改善が図られたとしても、それをもって応益負担をよしとすることは許されません。ひとりの市民としてあたり前の暮らしを築くためには、この所得保障が絶対的な条件となることを強調しておきます。
以上
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