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08年5月15日更新

生活保護の通院移送費利用制限に関する「通知」の撤回への緊急要望

2008年5月15日

厚生労働大臣 舛添 要一様


日本障害者協議会  代表 勝又 和夫


生活保護の通院移送費利用制限に関する「通知」の撤回への緊急要望


 今、日本の福祉・医療の危機がますます進行しています。今回、厚生労働省が出した生活保護の通院移送費の支給を制限する通知は、病気・障害のある人など社会の底辺で、人間としての誇りを取り戻そうと、懸命に生きている人たちに大きな打撃を与えています。

 問題の発端となった暴力団世帯への通院移送費の不正支給などに対しては、国として原因を究明し厳しく指導をすべきです。しかし、それが、生活保護世帯すべての通院移送費を制限する方向へと進んだことが3月3日の社会・援護局関係主管課長会議で明らかになりました。危機感をもった多くの関係団体や当事者団体は反対の声を挙げ、厚労省や国会への要請活動を行ってきました。

 それにもかかわらず、4月1日には通院移送費の利用制限に関する新たな基準を示す通知が、4月4日にはその事務手続き等を示す通知が、自治体へ送付されました。通知の内容は、「最低限度の生活」を保障する生活保護制度に国民健康保険という社会保険制度の基準を持ちこむものであり、論理的に矛盾があり、生活保護法の理念に反するものです。

 通知では、医療扶助における「移送の給付範囲」として、「一般的給付」については「国民健康保険の例により」としています。国民健康保険など社会保険制度は、貧困な生活状態への転落を未然に防止するためのものです。従って、国民健康保険では7割を保険で保障し、3割は自己負担という考え方をとっており、それを受けて、移送費についても災害時など緊急な場合を除いて全額自己負担になっています。これはその人の生活のすべてではなく一定の部分を保障するという社会保険の考え方から来ているものです。

 これに対して生活保護制度は貧困な状態に陥った時、最低限度の生活を維持するための保障をすべて公費で負担するものです。そのため生活保護法第4条では補足性の原理として「資産、能力その他あらゆるものを生活維持のために活用し、その不足分を保障する」という厳しい制限がついています。よって、生活扶助費(衣食費など)において、通院のための交通費を捻出することはできません。生活扶助費に通院交通費が含まれていない以上、生活保護利用者が適切な医療を受けるには、従来通り、医療扶助において通院移送費を支給していくことは絶対に必要なことです。

 また「例外的給付」では、「被保護者の医療受診は、福祉事務所管内を基本とする」ことが明確にうたわれ、電車・バス利用においても、『へき地等』『負担が高額になる場合』などの条件が求められ、かつ、嘱託医などの意見をもとにした事前審査が必要になります。障害者の場合、その障害の特性ゆえに、より自分に適した医療を受ける必要性があるにも関わらず、厳しい事前審査を設けられると、医療の選択権と医療を受ける権利を実質的に奪われる結果になりかねません。

 精神障害者についていえば、精神・神経科医療機関が都市部においても不足しており、多くの場合は、福祉事務所管内ではない入院先の精神科医療機関に通院(デイケアを含む)することを余儀なくされています。

 また、人工透析を常に必要としている場合や慢性疾患をもつ人の多くは、週に何度も自宅とは遠い病院に通わなくてはならない日々を送っています。

 昨年北九州で生活保護受給者の餓死事件が起こりましたが、生活保護費の切り詰めに神経をとがらせている自治体が多い中、このような通知が出されることにより、必要とされる通院移送費が支給されなくなる動きが加速されることは間違いありません。

 不正支給に端を発したとはいえ、今回多くの団体、関係者が抗議や疑念の声を発している中、強行したのは、生活保護や福祉予算の切り詰めにとどまらず、受診を減らす(医療費の抑制)を目的としているとしか考えられず、人権をないがしろにしているといわざるを得ません。

 以上の認識の下、下記のことを強く要望いたします。



  1. 生活保護費通院移送費に関する4月1日及び4月4日に出された通知を撤回すること。
  2. 生活保護行政にあたっては、生存権保障の立場を貫き、当事者、関係者と十分に協議を行い、合意に基づいて進めていくこと。

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