26年10月20日更新
2026年「すべての人の社会」10月号
VOL.46-7 通巻NO.556
■巻頭言 患者の実感を、研究・医療・制度へ
JD理事 竹田 保
近年、SMA(脊髄性筋萎縮症)や一部の筋ジストロフィーでは、新しい治療法の開発や実用化が進み、これまで治療が難しいとされてきた病気にも大きな変化が生まれています。早期診断や新生児マススクリーニング(先天性代謝異常等検査)の重要性も高まり、患者・家族が治療を選択する機会は、確実に広がっています。
患者が治療に何を期待し、どのような不安や負担を感じているかは、検査値や診療記録だけでは十分に捉えられません。腕が少し動かしやすくなった、食事や会話が楽になった、呼吸への不安が減ったという変化は、数値では小さく見えても、本人の生活や介助する家族にとって大きな意味を持ちます。反対に、通院や入院、治療に伴う副作用、介助者の確保などが重い負担となることもあります。
私自身、当事者として、日々の暮らしの中で感じていることを、診察室の限られた時間だけで伝えることは難しいと感じています。同じ病名でも、年齢や病状、生活環境、家族の状況、何を大切にして生きていきたいかによって、望む治療や支援は異なります。だからこそ、患者が日々実感している身体の変化や生活上の困難、治療を選ぶ際の迷いを、研究者、医療者、行政へ届けることが必要です。
患者は単に意見を聞かれる対象ではありません。何を研究課題とするのか、治療の効果をどのような尺度で評価するのか、どのような医療や福祉制度を整えるのか。その検討段階から患者・家族が参画し、専門家とともに考えることが、真に患者本位の研究、医療、制度につながると思います。
日本筋ジストロフィー協会(JMDA)は、1964年の設立以来、「一日も早く治療法を」と願う患者・家族の声を社会へ届け、研究の推進と療養環境の改善を求めてきました。治療法が現実のものとなりつつある今、その役割はさらに広がっています。治療を受けるかどうかという選択だけでなく、治療後にどのような生活を送りたいのか、必要な医療・福祉・教育・就労支援は何かというところまで、患者・家族とともに考えていかなければなりません。
JMDAは、多様な患者・家族の経験を集め、共通する課題を言葉やデータとして整理し、研究者、医療者、行政へ届ける橋渡し役でありたいと考えています。同時に、患者・家族と専門家が、それぞれの経験や知識を持ち寄り、研究や医療、制度づくりの検討段階から参画できるよう、患者・市民参画(PPI)をはじめとする当事者参画を進めていきたいと思います。
医療の進歩によって生まれた希望を、病院の中だけにとどめてはなりません。その希望を、学ぶこと、働くこと、地域で暮らすこと、そして自分らしい人生を選ぶことへつなげるために、JMDAはこれからも患者・家族の声を社会の意思決定に生かす取り組みを続けていきたいと思います。
■視点 やまゆり園事件から10年 Ⅲ~事件を問い直し、これからの共生社会を考える~
JD副代表 石渡 和実
「やまゆり園事件から10年」というテーマで3度目となる。本誌3月号で藤井代表が「真相究明」を求め、5月号では筆者が、障害のある人が地域で暮らすことの重要性を指摘した。10年目を目前にした7月23日、JDは「十年の節目に 優生思想を乗り越えるために」をテーマにサマーセミナーを開催した。この概要は、9月号で全国要約筆記問題研究会の長尾康子氏が紹介している。事件から問われるべきは、「優生思想を乗り越えるために」社会全体が何と向き合い、それぞれの立場でいかに行動すべきか、に尽きると考える。
本誌に「障害・文化・よもやま話」を長く連載している荒井裕樹氏(早稲田大学教授)は、この事件を「『異常』『特異』といった言葉で片付けるべきではない」(朝日新聞8月3日)と主張する。朝日は7月27日から30日まで、「『内なる優生思想』を前に」と題した連載を組み、第1回に藤井代表が登場する。「僕は『小さな植松』と表現しています。彼のやったことは確かに特殊だけど、人間であれば誰もが持っているものの延長線上に事件がある」と述べ、「生産性という物差し」が人間を序列化すると指摘している。
事件を追い続ける月刊誌『創(つくる)』は、8月号で特集を組み、篠田博之編集長も「事件の本質的解明はなされていない」と述べ、植松の犯行と施設での体験との関連に注目する。特集では複数の執筆者が、「被告人自身の本件施設での勤務体験を基礎とし…動機の形成過程は明確」という判決文の記載に触れている。津久井やまゆり園職員でもあった西角純志専修大学講師(8月に急逝)は、「(障害者という)カテゴリーで見てしまうと、一人の人格ではなく管理や評価の対象となり、…支援が暴力へ転化する」と主張する。JDのサマーセミナーでも見形信子氏が、「『障害者殺傷事件』ではない。かけがえのない命が奪われた事件」と発言された。まさに本質を突いた、当事者ならではの指摘だと納得させられた。
事件後、津久井やまゆり園では意思決定支援やできることに注目するエンパワメント的発想、園内完結ではなく地域に出向く活動、地域の人との関わりを増やすなど、支援の転換を図っている(神奈川新聞7月17日~26日)。利用者の表情が豊かになり、職員の向き合い方も個を尊重し、前向きになってきたという。しかし、9月14日、職員が利用者に平手打ちをして虐待認定された事実が明らかになった。神奈川県では津久井やまゆり園事件後、他の県立施設でもさまざまな虐待が発覚し、神奈川県当事者目線の障害福祉推進条例を制定するなど、当事者とともに支援を変える改革が進んでいた中での虐待である。まだまだ道半ば、簡単に支援は変わらない、と神奈川県民としては残念でならない。
先の荒井氏は、共生社会の方向性について以前から疑問を呈している。横浜市で脳性マヒ者として発信を続ける渋谷治巳(しぶやはるみ)氏の、「共生の理念がイベントの次元にスケールダウンしている」などの指摘を踏まえ、福祉制度が整った現状を次のように分析する。「障害者が地域社会に溶け込んでいるように見えて、その実、緩やかな住み分けが進むという事態が起きている」。だからこそ、共生を問い直すことの必要性を強調し、その際、拙速に答えを出すのではなく、障害がある人と「共に悩む」ことが重要と説く。藤井代表も、「葛藤し続けることが大事」と主張する。
筆者は5月号で「障害当事者との協働」を指摘したが、その前段階として、互いを尊重しつつ、悩み続けることが求められるのである。荒井氏は、「時間がかかろうとも、こうした歩みを地道に続けることが『やまゆり園事件的な価値観』に抗うことにつながるのではないか」と結んでいる。
天海訴訟の意義と現在地、そしてこれから
二見 清一(足立区障がい福祉課)
「やまゆり事件から10年の節目に優生思想を乗り越えるために」に参加して
宇田川 芳江(全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 副理事長・事務局長)
板原 愛(弁護士)
鹿子木 順子(障害者家族)
芳賀 優子(JD協議員(共用品推進機構所属))
国連で第1回「高齢者の人権に関する政府間作業部会」が開催される!
高田 清恵(琉球大学人文社会学部教授)
地方公務員法の欠格条項違憲訴訟の経過と目標
中川 拓(弁護士)
第58回 「水俣フォーラム―水俣病70年展」について
荒井 裕樹(早稲田大学文学学術院教授 / 障害者文化論研究者)
■個人賛助会員・・・・・・・1口4,000円(年間)
■団体賛助会員・・・・・・1口10,000円(年間)
★1部300円(送料別)からお求めいただけます。
▼お申し込みは下記JD事務局へメール、電話、FAXなどでご連絡ください。
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 日本障害者協議会
TEL:03-5287-2346 FAX:03-5287-2347
○メールでのお問合わせはこちらから office@jdnet.gr.jp
○FAXでのお申込み用紙はこちらから 【賛助会員申し込みFAX用紙】
※視覚障害のある方向けのテキストデータ版もございます。
※ご不明な点はJD事務局までお問い合わせください。
フッターメニュー