23年5月17日更新
VOL.43-2 通巻NO.515
JD理事
黒澤 和生
医学的リハビリテーション、障害福祉、障害への政策的対応など様々な視点で障害を考える際には、個人モデル、社会モデル、人権モデルなどのモデルが想定され、解決を図る手段として用いられている。障害福祉の視点からは、ハンディキャップを個人の責任で克服する考え方を『個人モデル』という。一方、だれでも不自由なく暮らせるように多様性に配慮した社会を実現すべきという考え方を『社会モデル』といって、2つのモデルは相互補完的に障害支援の理解を深める事にも役立つものである。
1980年に「WHO国際障害分類(ICIDH)」が障害を捉えるための考え方として始まり、その後、ICIDHのマイナス面(疾病・障害)を改め、2001年にICF(国際生活機能分類)によるプラス面(生活機能)を基準とする考え方に変わった。その目的は、健康に関する状況・健康に影響する因子を深く理解し、健康に関する多職種間の共通言語として、かつ様々な関係者間のコミュニケーションを改善することに役立ち、データの比較も行うことが出来るということである。
ICFは、前述の2つの対立するモデルの統合によって成り立っている。個人モデルと社会モデルは、統合して生活モデルと呼ばれている。ICFが意図していることは、1つの統合を成し遂げ、それによって生物学的、個人的、社会的観点における健康に関する異なる観点からの首尾一貫した見方を提供することである。
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障害者権利条約は、障害者の人権や基本的自由を守るための国際的な約束であり、条約を批准した国にはその約束を守ることが求められている。障害者権利条約を批准した後、権利条約の実施状況に関して、障害者権利委員会から日本政府へ総括所見(勧告)が出された。条約の1から33条のすべてに勧告がなされたのは、インドと日本のみであった(佐藤久夫,民医連医療,2023年4月)。人権に関しては、先進国として自負するには相当の努力が必要である。この勧告の中で用いられた人権モデルは、障害の概念ではなく、障害への政策的対応についての指針である。そのため、障害政策のモデルと見ることができる。
医療従事者である我々も、多様性のある日本社会において様々な考え方を受け入れることで、先進国としての自覚を持った対応が出来るのではないだろうか。この新たなモデルである人権モデルをしっかりと理解し、俯瞰した立ち位置で障害を考えていかなければならない。
JD副代表 石渡 和実
前号では、増田一世常務理事が「精神医療の闇を問う」と題して、NHKの「ルポ死亡退院」の衝撃から、「私宅監置が形を変えて精神病院での隔離・拘束となり、自由を奪われ、社会と遮断され、人間としての尊厳を根こそぎ奪われた被害者たち」と断じている。この滝山病院事件を最後にしなくては、そんな切実な声が各地で上がっている。
1984年3月、宇都宮病院事件が発覚した。命を守る立場の看護職員が鉄パイプで患者を殴り殺した。1981年、国際障害者年の年に就職し、障害がある人々の前向きな生き方に力をもらっていたヒヨッコの筆者にとって、信じられない出来事だった。大熊一夫氏の名著『ルポ精神病棟』(1973年初版)などをむさぼり読み、無知な精神科医療についての知識を得ようとした。
1990年に発刊された石川信義氏の『心病める人たち』(岩波新書)の描写は、今も鮮烈によみがえる。精神科医として初めて訪れた病院で、盲目の患者が糞尿にまみれたご飯を平然と口に運ぶ。あわてて看護者に伝えるが、「いいんですよ。いつもですから」と取り合ってくれなかった。こうした光景が当たり前になっている精神科病院について、こう述べる。「"人間倉庫"と呼ぶにふさわしい建物そのままに、彼らは人ではなく"物"として扱われていた。"物" としての存在しか認められないから、彼らの方もやむなく"物" となった(17ページ)。先の増田氏の指摘そのものであり、今に至るまで実態は変わっていない。
2020年3月には、神戸で神出(かんで)病院事件が起こった。看護職員が患者の性器や唇にジャムを塗り、他の患者になめさせるという卑劣極まりない虐待も起こっている。この事件を報じた記者が、「違和感」を伝えている。逮捕された職員がそんなことをやる「悪人」とは思えず、ごく普通の「善良な市民」に見えたという。ここが問題である。「先輩をまねた」などの発言もあり、病院では当たり前のことになってしまっていた。津久井やまゆり園事件でも、植松の蛮行の背景に施設の構造的問題があったのではとも指摘された。
日本弁護士連合会は、神出病院事件に敏感に反応した。2021年10月の人権擁護大会で、「精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議」を発し、精神科医療の抜本的改革を提案した。2022年9月、国連の障害者権利委員会から「総括所見(勧告)」が出されると、11月にはリーフレット「STOP!強制入院」を作成した(日弁連のホームページでPDF公開している)。「強制入院廃止へ向けたロードマップ」も示され、2035年には精神保健福祉法の廃止を掲げている。「国連からの強い要請」としてポイントを紹介し、社会の意識を変えるためのツールとして「総括所見」を活用している。
日本障害者協議会(JD)は優生保護法裁判をはじめ、弁護士の方々と協力して障害者への人権侵害と闘い、大きな成果を挙げてきている。総括所見が出たことを追い風に、「精神科医療改革」も障害当事者の声を基盤とし、司法や医療関係者とも連携して、今度こそ改革を実現しなくてはならない。悲惨な事件に、終止符を打たなくてはならない。
-千葉市の「上告受理申立」で争いは最高裁へ-
小野 浩(きょうされん常任理事)
私の学びと障がい者支援の軌跡
松矢 勝宏(東京学芸大学名誉教授)
―障害者権利条約の対日審査から―
馬橋 憲男(フェリス女学院大学名誉教授)
いま目の前にひとつの朝
磯野 博(無年金障害者の会 幹事)
毒親と呼ばないで~毒は「親」ではなく「社会」です
夏苅 郁子(精神科医)
~ 旧ソ連の障害児収容施設で ~
古本 聡(翻訳業)
五十嵐 優花(神奈川県在住)
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