障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

22年3月31日更新

2022年「すべての人の社会」3月号

2022年「すべての人の社会」3月号

VOL.41-12 通巻NO.501

巻頭言 労働の権利をめぐる世界の合意はどこに向かうのか

JD理事 佐藤 久夫

  国連・障害者権利委員会は、各国の障害者権利条約の実施報告の審査後、その国に「総括所見」を出すとともに、条項ごとに「一般的意見」を出して全加盟国に共通理解を促している。現在、第27条(労働と雇用)に関する8番目の一般的意見が準備されつつある。昨秋に発表されたその素案に対して88の意見が提出され、権利委員会サイトに掲載されている。私たちはそのうち英語の57本を翻訳し、JDホームページの「JD仮訳/障害者権利条約と世界の国々」の新しいコーナーに紹介する予定である。57の内訳は、障害者団体22(日本障害フォーラム、DPI日本会議の日本の2本を含む)、支援団体21、国家人権機関7、締約国政府7である。

 私はこの案を読んで、具体的な政策への新しい示唆がほとんどないのでかなりがっかりした。雇用率制度も、雇用助成金も、ジョブコーチも、合理的配慮の提供を含む雇用差別禁止も、意識の向上も、所得税減免も、保護作業所(シェルタード・ワークショップ)から一般就労への移行支援も、日本ではすでにやっていることばかりである。これらの施策のより質の高い、より工夫を凝らした実践例が紹介されているかというとそうではない。一方、日本で(国レベルでは)未実施の賃金補填については、その概念の説明や具体例の紹介はなく、公共調達については言葉すら出てこない。案に対する57の意見には、「支援付き雇用」のいろいろな形態など具体的な提案が多く含まれており、最終版への反映を期待する。

 多くの意見が保護作業所についてのものであった。障害当事者の意見を尊重するというなら保護作業所の廃止はやめてほしい、保護作業所は27条に反するがコーポラティブ(協同組合)は合致する、コーポラティブだけでなく多様な社会的企業・企業内作業所・多様な新しい社会的共同事業も合致する、保護作業所は第26条の職業リハビリテーション機関であり第27条のみで論じてはならない、保護作業所の廃止は大きなデイプログラムを生むことになる、第27条に沿って保護作業所を廃止した実例の紹介をすべき、など。

 一般労働市場が障害のある人を排除したから保護作業所ができたのであり、その廃止が自動的に一般雇用を促すはずはない。しかし権利委員会には雇用政策に詳しい委員はほとんどいないと思われ、具体的な政策提言を分析評価反映する力があるかどうか。条約の理念を勧告する段階から、具体的に政策を助言する段階に、国連機関がどう進化するか問われている。

 

視点 耳触りのよさには要注意

JD代表 藤井 克徳

 総合的、包括的、重層的、連携、横断的、一体的、シームレスなど、これらはここ10年間の厚労省関連の審議会文書や新規制度でやたらと登場するようになった。直近の例で言えば、「障害者雇用・福祉施策の連携強化に関する検討会報告書」(2021年6月)や「障害者総合支援法改正法施行後3年の見直しについての中間整理」(2021年12月)などでも多用されている。

 これらの用語の一つひとつは、決しておかしくない。にもかかわらず違和感を覚える。いつの頃からか染みついた「耳触りのいい言葉、カタカナ、フローチャートには要注意」が体の奥の方で作動し始める。違和感の源を探っていくと、大きく二つの事柄に突き当たる。

 一つ目は、言葉や用語というのは、国語辞典風の解釈とは別に、誰が用いるのかによってそこに込められる意味やニュアンスが変わるということである。安倍晋三元総理の時代から強調され始めた「自助、共助、公助」政策は、今や政府全体の政策基調となっている。その心は、小さな政府論の加速であり、あらゆる分野で政府の責任を薄めようとするものである。社会保障や障害者福祉にあてはめると、公的責任の後退と自己責任の強要となろう。こうした政策基調を前提に、総合的や包括的などと言われても、額面通りには受け入れ難い。むしろ、公的責任の後退を覆い隠すためのカモフラージュ用語では、そんな風にさえ感じてしまうのである。

 二つ目は、総合的にしろ、包括的にしろ、それらを成り立たせるための条件がどこまでそろっているのかである。車に例えてみたい。優れた車体に仕上げるには、良質の部品が欠かせない。欠陥の多い部品を寄せ集めてもまともな車体にはつながらない。地域での総合的な支援、包括的な対応をいくら謳ったところで、それを裏打ちするパーツが確かでなければならない。この場合のパーツとは、働く場・活動の場、住まい、人的な支援体制、所得保障、家族依存からの脱却などである。残念ながら、パーツの方は、質と量ともに貧寒な状況が続いている。

 一つ例をあげてみよう。鳴り物入りで始まった、「障害者雇用・福祉施策の連携強化に関する検討会」についてである。二つの審議体の合同会議まではよかったのだが、とりまとめられた報告書はいただけない。報告書からはダイナミックな連携政策はイメージできない。あるべき連携はいたってシンプルである。障害当事者のニーズをもとに、異なった法律を組み合わせることである。さしあたって考えられるのは、障害者雇用促進法と障害者総合支援法を重ねることである。象徴的に言えば、就労継続支援事業B型利用者への労働法規の適用(一部でも)であり、雇用に就いている障害者への障害者総合支援法(通勤支援や職場での生活介助)の適用である。これらについては踏み込んでいない。

 実は、私たちにも反省が求められる。今般の雇用施策と福祉施策の連携を例にあげるならば、キーワードの「連携」へのこだわりをどこまで堅持できていたかである。「何をもって連携とするか」が明確でないと、検討経緯での問題点を見抜けず、出される報告書の評価があいまいになる。結局、報告書が原点となってしまい、その範囲で右往左往ということになる。原点は、報告書ではなく、堅持していたはずの「あるべき姿」なのである。

 そう言えば、政治の世界にも気になる言葉がある。よく耳にするのが、「しっかりと」「前向きに」である。総理大臣を筆頭に、与野党を問わず多くの議員が用いる。不都合なことを丸め込むときや言葉に窮した時に飛び出す。遭遇した時は、眉に唾をするのがいいのかもしれない。

 

2022年2月の活動記録



ささえあい・つながり・わすれない

今、改めて「ノーマライゼーションという言葉のいらないまち」を考える
菅野 利尚(陸前高田市社会福祉協議会)

   


調査 2021年度報酬改定影響調査の結果の概要    

~人手不足に追い打ちをかけた報酬改定~
北條 正志(きょうされん政策調査委員)     



連載 私の"ほッ"とタイム"③  

車いすで Shall We ダンス~さりげなく日常のなかに"車いす"がある世界をめざして~
  田中 一(埼玉県障害者協議会)

連載 家族も自分の人生を歩む 家族依存・家族支援を考える 第7回

ありのままを受け入れ、委ねられる関係づくりを
    永田 直子(東京都手をつなぐ育成会)


連載 優生思想に立ち向かう 第30回 

《誌上インタビュー》 生命の存在は無条件
見形 信子(神経筋疾患ネットワーク)

         


連載 社会の「進歩」は人々を幸福にするか? 15

難聴のある人々の幸せのために:きこえの健康支援構想
瀬谷 和彦(全日本難聴者・中途失聴者団体連合会常務理事 
弘前大学大学院医学研究科助教)




私の生き方 第77回

佐藤 萌




トピックス・読書案内


いんふぉめーしょん

優生保護法訴訟大阪高裁判決に対する声明



◎購読者募集中!…1部(300円)ずつでもお求めいただけますが、定期的に届く年間購読がお勧めです。賛助会員には毎月お送りします。賛助会費は年間4千円(年度区切り)。ご希望の方、検討いただける方には見本誌をお送りします。JD事務局へご連絡ください⇒ office@jdnet.gr.jp

賛助会員大募集中!
毎月「すべての人の社会」をお送りいたします。

■個人賛助会員・・・・・・・1口4,000円(年間)
■団体賛助会員・・・・・・1口10,000円(年間)
1部300円(送料別)からお求めいただけます。

▼お申し込みは下記JD事務局へメール、電話、FAXなどでご連絡ください。
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 日本障害者協議会
TEL:03-5287-2346 FAX:03-5287-2347

○メールでのお問合わせはこちらから office@jdnet.gr.jp
○FAXでのお申込み用紙はこちらから 【賛助会員申し込みFAX用紙】

※視覚障害のある方向けのテキストデータ版もございます。
※ご不明な点はJD事務局までお問い合わせください。



フッターメニュー