障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

17年7月25日更新

2017年「すべての人の社会」7月号



2017年「すべての人の社会」7月号

VOL.37-4  通巻NO.445

巻頭言 視覚障害者の職業・三療(あはき)保障の闘い

NPO法人日本障害者協議会理事 内田 邦子 


 6月14日、第5回口頭弁論の傍聴に、東京地方裁判所に行きました。 あんまマッサージ指圧師を目指す健常者向け養成施設の新規開設を制限する法律の規定は、職業選択の自由を保障する憲法に反するとして、学校法人「平成医療学園」が国を相手取り、新設を認めなかった処分の取り消しを求めて大阪、東京、仙台のそれぞれの地裁へ提訴したものです。

 あはき法第19条(あん摩マツサージ指圧師、はり師、灸師等に関する法律)は、「当分の間、文科・厚労大臣は、あん摩マツサージ指圧師の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合その他の事情を勘案して、視覚障害者であるあん摩マツサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため必要があると認めるときは、(中略)承認をしないことができる」としています。
 この法律は、戦後、三療(あんま・鍼はり・灸)に関してGHQが「あん摩や鍼灸は非科学的で、不潔である」として禁止しようとするなか、業界・盲学校・多くの視覚障害者が立ち上がり、猛抗議運動の末、作られたもので、通称「あはき法」(昭和22年制定)です。
 原告の学校側は「当分の間」は過ぎ去り、ITの発達など視覚障害者の職業選択の自由は保障されているとして、この法律は憲法に反していると訴えたのです。

 近年、視覚障害者の職業については、ほとんど三療の道しかなかったものを、1981年の国際障害者年以来、雇用促進法などの法整備ともあいまっていろいろな分野で働くことができるようになりました。とはいっても、視覚障害者の就業率は、現在でも23%ほどで、そのうちの70%が三療の仕事に就いているのが実態です。
 そして、病院で働いていた人も保険点数の引き下げで病院で働くことができなくなり、生活保護・家族の援助で暮らしている人も少なくありません。このように今でも数少ない職業の道を、健常者の無制限な参入で、自立して働くことができなくなるのは、火を見るより明らかです。
 この問題を考えると、政府の雇用促進のいい加減さが浮き彫りにされます。

 今回の訴訟について、視覚障害者の団体、日本盲人会連合・全日本視覚障害者協議会・理療科教員連盟など多くの団体、個人が反対運動に立ち上がっています。
 毎回の公判では、100席の傍聴席も多くの視覚障害者でいっぱいになり、入場できない人も多くいるほどです。
 判決まで何年かかるか見通せませんが、権利条約に照らして視覚障害者のわずかな権利が保障されることを願っています。

視点 唖然 こんなことがあってよいの?

NPO法人日本障害者協議会常務理事 増田 一世 


▼国会審議に危機感 「中間報告」って何
 6月15日午前8時、参議院本会議で採決され、組織的犯罪処罰法改正案(共謀罪)が成立した。もちろん、法案の内容も問題が大きく、看過できないことはいうまでもない。法案の内容に加えて、国会審議のあり方に危機感を抱いた。
 何が起こったんだろう、というのが正直なところだ。6月18日の会期末が迫るなか、与党は、法案を成立させるために「中間報告」という手法を使ったと報道された。「中間報告」とは、恥ずかしながら初耳だった。
 障害に関係する法律であれば、衆議院「厚生労働委員会」での審議と採決があり、そして、本会議での審議と採決、そして、参議院に送られ、そこでまた委員会質疑と採決、本会議…、そういうものだと思っていた。ところが、国会法56条に、中間報告について記されているのだ。
 「各議院は、委員会の審査中の案件について特に必要があるときは、中間報告を求めることができる。 2 前項の中間報告があつた案件について、議院が特に緊急を要すると認めたときは、委員会の審査に期限を附け又は議院の会議において審議することができる。」とあった。この場合で言えば、法務委員会の委員長が、審議中の法案についての「中間報告」を行えば、委員会審議を飛び越えて本会議での審議・採決ができるということのようだ。
 今回の法案は、法案成立に反対の声も大きく、各地で反対集会が繰り広げられ、慎重な審議を要する重要な法案だったはずである。それが、十分な審議を行うこともなく、「中間報告」によって法を成立させるといった乱暴といってもよい国会運営であった。十分な審議に堪えない法案であるという自覚が与党にあるからこそ、唖然とさせる手法で法の成立を図ったのだろうか。

▼「前代未聞」改正の趣旨が差し替えられる
 今国会では、私たちの身近な問題として考えなくてはならない法案の審議スタイルに疑問続出であった。その1つが、継続審議にはなったが精神保健福祉法改正案だ。法律案の改正の趣旨に「相模原市の障害者支援施設の事件では、犯罪予告通り実施され、多くの被害者を出す惨事となった。二度と同様の事件が発生しないよう、以下のポイントに留意して法整備を行う」と記された。しかし、国会内外の批判の声の大きさに、この一文を審議中に削除し、差し替えるという前代未聞の出来事があり、参議院の厚生労働委員会で紛糾した。今国会冒頭の総理大臣の施政方針演説「精神保健福祉法を改正し、措置入院患者に対して退院後も支援を継続する仕組みを設けるなど、再発防止対策をしっかりと講じてまいります」を忖そん度たくしての法改正なのかとうがった見方もしたくなる。
 また、地域包括ケア強化法案にいたっては、31本の法をまとめて審議する一括法として国会上程された。しかし、審議時間は驚くほど短く、審議を尽くしたとは思えず、あっという間に成立をみるといった事態だ。本紙でもたびたび取り上げられてきた法案であるが、日本の社会保障制度を大きく転換させていく法改正であったにもかかわらず、十分な審議がされないまま成立した。歴史の針が逆回転していくような気持ちになる。

▼中身も大事だが、プロセスも大事
 法律を作るのは、人間だ。大事なことこそ、審議を尽くして決めなくてはならない。賛成意見、反対意見、多様な意見があろう。反対意見を言いにくいような雰囲気がありはしないか、偏った情報で判断せざるを得ない状況がありはしないか。話し合いを大事にすることは、時間がかかることでもある。しかし、この時間をかけることを惜しまないことが、新たな知恵を生み、その知恵を生かした社会を作ることになるのではないか。強行採決の多い、昨今の国会運営を危惧している。

2017年6月の活動記録・講師派遣

障害者の「いのち」を考える ―相模原での障害者殺傷事件から1年―

知的障がいのある本人が相模原事件について本音で語る
「にじいろでGO!」のワークショップの取り組み                          奈良崎 真弓・望月 隆之        


相模原障害者殺傷事件を忘れない                          見形 信子        


国際潮流

障害者権利条約と「国家人権機関」 その②                         馬橋 憲男        


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失語症者の言語リハビリテーションニーズへの対応
-機能訓練事業所の効果的効率的な運営の在り方に関する調査研究事業を終えて-
                       園田 尚美        


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第10回 教育の権利~憲法第26条                       品川 文雄        


連載 体験的メディア論

第4回 ジャーナリズム                        迫田 朋子        


連載 差別と抑圧の歴史

第16回 差別と抑圧のない歴史〜薬害の起きない世界を求めて〜                        増山 ゆかり        


新連載 障害者権利条約パラレルレポートへの道

第1回 残された時間は1年半か                       佐藤 久夫        


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相模原障害者施設殺傷事件はなぜ起きたのか!?



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