障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

17年4月25日更新

2017年「すべての人の社会」4月号



2017年「すべての人の社会」4月号

VOL.37-1  通巻NO.442

巻頭言 東京オリンピック・パラリンピックと障がい者スポーツ

NPO法人日本障害者協議会理事 山本尚司 


  2020年に東京オリンピック・パラリンピックが開催されることになり、メディアでもパラリンピックの内容が取り上げられる機会が多くなっています。
 オリンピックまでまだ3年もありますが、オリンピックイヤーになると、一気に機運は高まってくることでしょう。
昨年のリオ・オリンピックにおいては、過去13年続いていたパラリンピックの金メダル獲得が途絶えたことは記憶に新しいところです。そこでみた光景は、パラリンピックの競技レベルの飛躍的な向上です。例えば、ドイツの陸上男子走り幅跳び、(切断など)のマルクス・レーム選手(当時28歳)は、健常者のオリンピック種目においても十分にメダル争いができるほどでした。最早、そこには昔のリハビリの一環としての障がい者スポーツのイメージはなく完全に競技スポーツとしてのアスリートです。つまり、これは世界の障害者スポーツ選手の強化が、相当進んでいることを意味しています。これからは、競技環境から資金面まで、国をあげての支援体制がなければ世界と太刀打ちできません。では、今まではどうしていたのかというと、選手の育成や発掘といった役割も兼ねていました。
 パラリンピック選手は、練習環境が少なく、海外遠征の渡航費や、生活基盤そのものを整えなければいけないなど、競技に打ち込む以前の問題が山積しています。私たち理学療法士は「動きづくり」と「生活動作」の専門家として、医学的な知識を基礎としたリスクを管理できるという特徴があり、パラリンピック選手の良き理解者としてコンディショニング作りに貢献できるものと考えています。
 東京オリンピックまで4年をきった今現在、自国開催というアドバンテージはあるものの、一気に競技レベルが上がるわけではありません。  競技レベルを上げるためには、競技人口の増加と、そして何よりもパラリンピック競技を広く一般に知ってもらい、関心を高めていかなければなりません。  その前提になるのが、我が国の障がい者に対する理解と、インクルーシブな社会の実現にあります。海外においては障がい者が街に普通に溶け込んでおり、特別目立つことはありません。
 東京オリンピックを機会に、我が国の障がい者に対する理解と交流を深め、共生社会の意識が浸透していくことを切に願っています。

視点 共倒れ危うい我が事・丸ごと政策

NPO法人日本障害者協議会代表 藤井 克徳  


 例年に増して、国会審議の濁りぶりが強い。その濁った国会に、さらに墨汁を垂らすような動きがある。その正体は、「我が事・丸ごと」政策などを中核とする「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案」(地域包括ケアシステム強化法案)であり、3月下旬より衆院での審議が始まった。社会福祉全般の根幹に変質をもたらし、私たちの障害分野にも甚大なマイナス影響が懸念される。
 現下の圧倒的な与党優勢にあって、残念ながら廃案は至難である。しかし、障害分野に造詣の深い与党議員の中には、おかしさを感じてもらえる議員がいるはずだ。仮に廃案に至らなくても、修正の可能性はある。現段階で重要なことは、まずは私たちのあいだで法案の本質や問題点を確かめ合うことであり、その上で法案の実体を国会へ、マスコミへ、広く社会へ知ら せていくことである。
 そこで、あらためて地域包括ケアシステム強化法案なるものの、問題点を押さえておく。具体的な問題点を掲げる前に、法案の本音や背景に焦点を当ててみたい。ひと言で言えば、厚労省による新手の「財政抑制政策」に他ならない。財政4 4 の二文字で、まともな支援観や培ってきた権利性がいとも簡単になぎ倒されるような感じがしてならない。その先にイメージさせられるのは、「木製の小舟から特大の泥船へ」ということになろうか。つまり、これまでは曲がりなりにも小舟で水面に浮かんでいた障害者や子ども、高齢者、生活困窮者のそれぞれの福祉が、これからは福祉施策対象の十把一絡げとして危うい泥船に強制移乗ということになるのである。それは、国民がどこまで我慢できるのか、「我慢ライン」を見定めるための壮大な行政実験と も言えよう。
 具体的な問題点であるが、三つの「ない」で表してみたい。一点目は、当事者の存在がないことだ。「コソコソ法案」と揶揄されているように、厚労省のみで検討が加えられ、昨年7月の時点で一方的な公表となった。市民生活に大きく影響する法制が、こんな形で進められていいのだろうか。「私たちのことを私たち抜きに決めないで」をこの間の政策立案の主柱としてきた障害分野としては、到底納得できない
 二点目は、総括がないことだ。今度の法案には介護保険制度の大幅見直しが含まれている。「超65歳問題」の観点から、障害分野への影響は必至である。法案からみえてくるのは、制度対象の縮減や負担の大幅増であり、「介護の社会化」「保険原理ゆえの権利意識の醸成」などはかなぐり捨てたも同然だ。法案が原案のままでの成立となると、創設時の介護保険制度とは似て非なるものとなる。ここは、国民参加の元での現行制度の徹底した検証や総括が必要となろう。総括の重要な要素の一つに、現行の介護保険制度についての「破綻宣言」をという意見もある。
 三点目は、内容がわからないことである。31もの法律にまたがることによる複雑さもさることながら、政令や省令に委ねられている部分が770箇所余に及ぶ。肝心な事柄は行政が決めると言わんばかりだ。国会審議にあたっては、政省令の原案を明示してもらわなければならない。
 分野を越えての社会福祉の柔軟運用は現行制度でも十分可能である。「丸ごと」政策を急ぐ向こうに、大掛かりな「丸ごと保険制度」が見え隠れするという見解もあるが、あながちうがった見方とは思えない。基本合意文書をないがしろにするような統合策の加速も懸念される。いま成すべきは、障害分野で言えば障害のない市民との同水準を確保することであり、社会福祉で言えばそれぞれの分野を極めることである。個々の分野が脆弱なままでの「共に生きる(共生)」は、「共に倒れる(共倒)」を招くことになるのでは。 

2017年3月の活動記録・講師派遣

JDのうごき

JD連続講座3 徹底検証!パネルディスカッション 社会保障改革の動向と障害者施策への影響
精神保健福祉法改正案についてのJD意見 

連載 障害のある人とスポーツ

第9回 精神障害者/精神疾患者のスポーツの現状とこれから                        田中 暢子        


連載 差別と抑圧の歴史 高度経済成長の傍らで

第14回 薬害スモンを生きて
                       辻川 郁子        


新連載 体験的メディア論

第1回 "福祉番組"を中心に                        迫田 朋子        


連載 日本国憲法と私

第8回 「改憲論者」だった私から見た私的憲法論~「日本国憲法」から見つめ直す人生~                        長谷川 利夫        


トピックス+広告
                               


失語症のある方の意思疎通支援事業開始に向けて
                       園田 尚美        


私の生き方

第46回 五十嵐 良さん                       五十嵐 良        


新連載エッセイ 障害・文化・よもやま話

第1回 パラリンピック東京大会について①                        荒井 裕樹        


インフォメーション
 JD政策会議2017 障害者権利条約パラレルレポート草案&学習会 

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