障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

11年6月30日更新

2011年度事業計画

はじめに


1.東日本大震災と障害分野
 2011年3月11日に発生した東日本大震災は、障害や高齢にある人にも容赦なく襲いかかった。空前絶後とか壊滅的と言われている被害の甚大さであるが、これに障害分野を重ねたときに、随所に深刻な困難や問題点が浮かび上がってくる。今なお「震災中」(福島第一原発問題等)と言ってよかろうが、すぐにでも解決すべき事柄、今後の検証で明らかにすべき事柄等、これらを峻別して対処していくことが肝要である。検証すべき点として欠いてはならないのが、地震や津波の発生と障害のある人との関係についてである。障害のある者とそうでない者との比較を基本に、犠牲者ならびに行方不明者の数値とその実態をできる限り精緻に明らかにすることである(障害者に関連する災害政策の検証を含めて)。

 また、今後の検証事項でもあり、同時に今なお急がなければならないのが、大震災直後から起こっている新たな困難への対処である。人工呼吸器や人工透析等の生命維持危機の機能保持、投薬中断の回避、安心できる避難生活の確保、必要な情報の保障等々、いずれも深刻な問題である。長期化の様相にある避難生活については、障害分野の視点からだけでもかなりの改善が求められ、今からでも緊急に手を打つべきである。  当面の課題との関連では、復旧から復興へと移りつつある今、ここに障害分野の観点をいかに反映させていくか、何よりも障害当事者の実質的な参画が求められる。残念ながら、現時点でこれらに関して積極的な動きはみられない。また、復興財源との関係では、復興政策費と社会保障政策費とを対立的な関係に置くのではなく、一体的に推進していくことを強く求めたい。

 被災地帯の支援活動については、国や自治体、民間団体をあげて繰り広げられているが、障害分野もいち早く支援に立ち上がった。日本障害者協議会(以下、JD)の支援活動に関する基本的な考え方は、日本障害フォーラム(以下、JDF)の活動に一元化する方針をとることにした。JDFは、4~5頁のとおり、震災発生直後の3月18日に「東日本大震災被災障害者総合支援本部」を設置し、ここを軸に、主要被災地帯に地域ごとの(障害者支援センター)を設けることとし、5月10日現在、「みやぎ支援センター」(仙台市)ならびに「被災地障がい者支援センターふくしま」(郡山市)を稼働させている。支援の対象は、避難所の障害のある人ならびに被災事業所(障害関連施設)が中心で、できる限り在宅者にも対象を広げている。具体的な活動としては、①障害のある人の安否や健康状態の確認、②被災の実態やニーズの把握が中心となっている。いわゆる「個人情報保護」との関連で、在宅者へのアプローチは困難を極めている。JDはこれら2つの支援センターに加盟団体の関係者を派遣するとともに資金面で支援を続けている。なお、岩手県の被災地帯への支援のあり方については、引き続きJDFにおいて調整中である。

 被害の甚大さや広域さなどから、加えて福島第一原発問題などとも絡みながら復旧や復興にはかなりの時間が予想され、障害のある人への支援も息の長い取り組みが必要となろう。JDは引き続き、JDFに一元化する形を原則に支援活動を継続することとする。また、大震災に関する政府や政党への要望等については、JDFと一体となりながら、必要があればJD独自に取り組むこととする。

2.新たな法体系へ向けて正念場となる今年度
 次に、日本における障害分野の過去1年間と向こう1年間を概観してみたい。
 結論から言えば、障害のある人に関する法体系の総括と改革が、かつてない規模で展開され、この局面の乗り越え方が重要になっているということである。言い換えれば、歴史的な好機であり、結成以来、一貫して障害分野に関する全体的で基本的な政策提言を続けてきたJDにとっては、まさに「わが意を得たり」と言ってよかろう。JDFや関係団体とも連携しながら、運動面を含めて、この局面に積極的に関与していかなければならない。

 この点で最も注目すべきは、2010年1月12日にスタートした障がい者制度改革推進会議(以下、推進会議)の審議内容とそこで示される方向性についてである。なお、推進会議の位置付け等を正確に押さえるには、その背景となっている①障害者権利条約、②障害者自立支援法の違憲訴訟に伴う基本合意文書を併せみることが肝要である。閣議決定で設置された障がい者制度改革推進本部(本部長は内閣総理大臣 以下、推進本部)の下に置かれている推進会議では、5年間を集中期間とし(2010年~2014年)、2010年6月7日に取りまとめられた第一次意見において、①障害者基本法の改正(2011年)、②障害者総合福祉法の制定(仮称、2012年)、③障害者差別禁止法の制定(仮称、2013年)と、3つの法律の改正・制定の行程が示された。

 推進会議は、昨年7月以降、最初の課題である障害者基本法の改正に力を注いできた。2010年12月17日の第二次意見(第29回推進会議)で推進会議としての意見が取りまとめられ、その後政府による検討が加わり、2011年3月11日の推進本部での了承を経て、4月22日に「障害者基本法の一部を改正する法律案」(以下、改正法律案)として閣議で決定され、同日、衆議院に提出された。

 改正法律案の評価についてであるが、第二次意見と最終的な改正法律案との間には大きな隔たりが生じ、極めて不十分と言わざるを得ない。具体的には、言語に手話を含むことが明言されたことや政府に対する勧告権を備えた「障害者政策委員会」の設置などについては評価できるが、①前文が加えられなかったこと、②目的条項などで「権利性」の明言がならなかったこと、③定義条項で差別や合理的配慮が省かれたこと、④精神障害分野の改善に関する特別条項が設けられなかったこと、⑤教育分野や労働分野で積極的な方向が示されなかったこと、⑥理念法でありながら「可能な限り」という消極的な表記が残ったこと(総則部分を含む5つの条項で)などの面で決定的な弱点を残している。

 国会審議の過程で、これら弱点の解消または減少を図っていかなければならない。なお、今般の障害者基本法の改正は、障害者総合福祉法や障害者差別禁止法の、言わば地ならし的な意味を持つもので、前述した行程を実現していくためには、今国会での成立が日程上のポイントになることを付け加えておく。

 もうひとつ注目すべきが、総合福祉部会の論議である。来年(2012年)の法律制定に向けて、部会としての論議が大詰めを迎えている(予定では今年8月~9月にかけて骨格の取りまとめ)。障害者総合福祉法は、障害者自立支援法に代わる法律であり、訴訟運動の中心を担ってきたJDとしては特別の関心と積極的な関与が求められる。同様に、論議が始まった障害者差別禁止法についても注視する必要がある。

 今年は、国際障害者年(1981年)から数えて30年に当たる。昨年度来の一連の結成30周年記念事業を終えるJDは、障害者権利条約とJD結成の初心を想起し、会員相互の団結を図りながら、重要さの増す2011年度を実りあるものとしていきたい。  

    

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