障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

22年12月22日更新

2022年「すべての人の社会」12月号

2022年「すべての人の社会12月号

VOL.42-9 通巻NO.510

巻頭言 人権モデルに基づくハビリテーション、リハビリテーションをめざす
 

JD理事 中村 春基

 前回、巻頭言を書いたのは、東京オリンピック、パラリンピック大会の前でした。開催について種々意見がある中、開催すべきとの意見を述べさせて頂きました。終了して、約1年、数々の贈収賄が話題に挙がり、アスリートをはじめ多くの関係者の努力に水がさされたようで残念です。

 日本作業療法士協会は、大会に合わせて、障害者のスポーツの普及を目指して、学会時にスポーツイベントを企画していましたが、コロナ禍にあって中止せざるを得ませんでした。しかし、単なるイベントで終わるのでなく、恒常的な活動とするべく、来年新設する「地域社会振興部」の中で、障害者スポーツの振興に積極的参画することとしています。

 さて、ご承知の通り、国連の障害者権利委員会による総括所見が出され、ハビリテーション、リハビリテーションにつきまして、以下の懸念と留意事項及び勧告が出されました。

ハビリテーションとリハビリテーション(第26条)
 55.当委員会は懸念をもって留意する。
  ⒜ 特に大都市以外では、子どもを支援するための包括的かつ分野横断的なハビリテーションとリハビリテーション
    サービスが不足していること。
  ⒝ ハビリテーションやリハビリテーション・プログラムにおける医学モデルの重視、障害の種類や性別、地域による
    支援の格差。
 56. 委員会は、締約国に勧告する。
  ⒜ 包括的かつ部門横断的なリハビリテーションおよびリハビリテーションサービス、プログラムおよび機器へのアク
    セスを、彼らのコミュニティ内、および締約国のすべての地域において確保するための措置を採用すること。
  ⒝ 障害の人権モデルを考慮した上で、ハビリテーションとリハビリテーションのシステムを拡大し、すべての障害
    者が個々のニーズに基づいてこれらのサービスを利用できるようにすること。
 その他、一般原則と義務(1~4条)7⒟で、ハビリテーション等の用語が不正確との指摘もありました。

 いずれについても、その通りだと認識しております。その中で根源的な課題として、「人権モデル」の指摘です。ICF(国際生活機能分類)の考え方は教育レベルに留まり活用は進んでいません。まして人権モデルという概念もほとんどが知らないと思います。JDの取り組みを通して、障害者権利条約に基づく社会、人権モデルに基づくハビリテーション、リハビリテーションの重要性を強く認識した次第です。

 リハビリテーション専門職は約25万人、病院、施設に留まらず、この度の総括所見を踏まえて、地域での活動(運動)に踏み出すべきと考えています。

 

視点 条約の「総括所見」をいかにして実現するか
     

JD副代表 石渡 和実

 9月9日、8月の日本審査の結果を踏まえ、障害者権利委員会による「総括所見(勧告)」が出された。障害者権利条約の全ての条文について丁寧なコメントが記され、パラレルレポートを読み込んで、当事者の立場を踏まえた指摘が数多くなされている。特に強調されているのが、入所施設や精神科病院からの地域移行とインクルーシブ教育推進の2点である。「強制入院や分離教育 廃止勧告」などと報道され、大きな注目を集めている。

 日本審査を担当したヨナス・ラスカス氏(リトアニア)は9月20日の日本障害フォーラム(JDF)での講演のため来日され、来日直後に横浜を訪れ津久井やまゆり園から地域移行した元入所者を支援している法人を見学し、神奈川県知事・副知事とも面談をしたという。また、知的障害当事者として権利委員会で活躍するロバート・マーティン氏(ニュージーランド)は、審査で日本政府の代表団にこう問うたという。「(19人もの命が奪われた津久井やまゆり園)事件を経て、このような施設で暮らす人たちがたくさんいることについて考え直したことはあるでしょうか」(朝日新聞、10月3日朝刊)。ジュネーブでの「桜答弁」など、政府の「不誠実」と評される態度に比べ、権利委員の事件への想い、地域生活実現をめざす真摯な姿勢との落差を痛感させられる。

 ラスカス氏は条約が「人権モデル」であることを繰り返し主張し、19条のインクルージョン、24条の教育の重要性、その関係性を指摘した。日本の特別支援教育は「共に学ぶ」ことを否定し、分離教育が成人後の施設収容を促すことになる。普通教育から障害児が排除されるのは、そこに支援がないからで、幼い頃から共に学んでいれば、大人になってからの入院・入所ということはありえない。このように19条・24条は相互に関連しており、条約の各条項はそれぞれが補完しあっているということも強調した。

 インクルーシブ教育の推進についても活動が広がっている。東京大学のバリアフリー教育開発研究センター主催のオンライン緊急研究会「国連はなぜ日本に特別支援教育中止を勧告したのか」には3000人以上が参加した。こうした場でも、親からは特別支援教育を支持する声がしばしば聞かれる。文部科学省の統計からも、義務教育年齢の子どもは10年前と比べ0.9倍、93万人も減少しているにもかかわらず、特別支援教育を受ける子どもは25.4万人増加し1.9倍である(『障害者白書令和4年版』)。

 先日、横浜市内の療育センターの運営協議会に参加する機会があった。障害児の支援について、センター職員や行政、地域の支援機関、親の会などで検討する場である。ある母親が、「インクルーシブ教育のメリットって何なのですか」と率直な疑問を呈した。地域支援に関わる立場からは、「8050問題」との関連で引きこもっている息子について、「この子が一番キラキラ輝いていたのは養護学校に通っているときだった」という母親の声も紹介された。また、普通級に入学しても、5月には個別支援級に移ることを検討する例も少なくないという。普通教育そのものも変わらなければならない、とつくづく考えさせられた。

 ラスカス氏も言うように、教育が変わることが社会参加のあり方も変え、「共に生きる」ことの実現につながるのである。文部科学省や厚生労働省、国が大きく転換することが切実に求められる。そのためには、身近な地域で障害児や親も含め、当事者が声を挙げていくことがまず必要である。

 "Nothing About Us Without Us" 行政を動かすために、当事者とともに運動を続けることの重要性をますます認識させられている。  


2022年11月の活動記録

私の運動の軌跡と『障害のある人の分岐点』

手話学習者としての関わりから
 石川 芳郎(全国手話通訳問題研究会(全通研) 前会長)

特別報告 私、裁判しました!

 岡田 雅子(埼玉県在住)

ESCAP アジア太平洋障害者の十年、これまでとこれから

佐野 竜平(日本障害者協議会理事 / 法政大学現代福祉学部教授)

連載 家族も自分の人生を歩む 家族依存・家族支援を考える 第15回

英国自閉症協会(NAS)から学ぶ ~家族のエンパワメントに向けて~ 
鈴木 正子(板橋区発達障害児者親の会(IJの会)代表)

連載 私の“ほッ”とタイム⑧

十分な睡眠で全集中したい!
吉川 祐一(日本難病・疾病団体協議会代表理事)

連載 障害者権利条約を日本で生かす 4 ~対日審査傍聴と総括所見から感じたこと~

支援の現場で条約を生かしていきたい
柴田 静 (東京コロニー東京都大田福祉工場 障害福祉サービス統括部)

手にした「総括所見」- 大切なのはここから
松本 尭久 (きょうされん全国事務局)

連載エッセイ 障害・文化・よもやま話 第35回

優生思想に悩んだ障害者たち ―『地下水』を読む(前編)―
荒井 裕樹 (二松学舎大学准教授)

トピックス

いんふぉめーしょん 予告 JD 2022年度特別セミナー

国連・障害者権利委員会の「総括所見(勧告)」を学び、知り尽くそう!(仮題)

―障害者権利条約にふさわしい施策の実現を求めて―

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