障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

22年2月2日更新

2022年「すべての人の社会」1月号

2022年「すべての人の社会」1月号

VOL.41-10 通巻NO.499

年頭にあたって

NPO法人日本障害者協議会代表 藤井 克徳

 今年の新年も、昨年と同様にすっきりしない。

 足掛け3年となるニューコロナ株は、人間界のもう一つ奥に入り込もうとしている。「終わりのない感染症はない」と言われるが、今や気休めのフレーズになりつつある。もしコロナに言葉が通じたとしたらどうだろう。「コロナさん、いつ去ってくれるんですか」の問いに、低いながらもはっきりとした声でこう返ってきた。「我々によって人間社会の思い上がりが露わになったはず。もう少しこらしめたい。去る時期についてはコメントを控えたい」と。そして、「そうそう、社会から冷遇の障害者には被害を抑えたいのだが。うまくいくかどうかはわからない」とも付け加えていた。1918年に始まったスペイン風邪を調べてみると、大流行は短期間だったが、本当の終息には20年近くを要している。コロナの警鐘に耳を傾けながら、「超じっくり」の構えが必要なのかもしれない。

 そんな中で、今年の障害分野を眺めるとどうだろう。閉塞感や不透明感にあっても、いくつかはっきりとした輪郭が浮かんでくる。確実に進行し、また結果につながるのは、障害者にちなんだ裁判である。これまでにない動きがみられそうだ。優生保護法に関連した裁判では、地裁と並行して初の高裁判決を迎える。生活保護関連の裁判も同様である。いわゆる「65歳問題」でも高裁判決が出される見込みで、鉄道駅の無人化問題や精神科医療の社会的入院問題でも裁判が進行する。これらの結果は、この国の障害者政策の基準値に 影響することになろう。仮に負けることになれば、過去のあやまちについても、問題点の多い現行の政策についても、公的なお墨付きが与えられることになってしまう。基準値の後ずさりを意味するのである。

 また、通常国会には、情報とコミュニケーションの基本(理念)に関する法律案が提出される見込みで、夏にはいよいよ障害者権利条約に関する政府報告書の国連審査が行われる。秋になると、障害のある人と無い人との比較可能な、初の基幹統計の調査結果が公表(社会生活基本統計)される。

 大事なことは、これらに私たち一人ひとりが主体的に向き合うことである。主体的にと言われてもあいまいかもしれない。一つわかりやすい方法がある。それは、上述した事柄について、まずは関連の動きを知ることから始め、その知ったことを他者に自身の言葉で伝えることだ。他者に伝えることが、主体的に向き合う初歩になるのではなかろうか。今年の暮れに数えてほしい。どれくらい他者に伝えられたのかを。

新春インタビュー 伊東亜紀子さん(国連経済社会局社会問題担当官 障害者権利条約事務局チーフ)

インクルージョンの実現に向けて-キーワードは「グローバルな地域社会と社会変革へのネットワーク創生」
「誰も取り残さない」持続可能な開発プロセスと実現:
障害分野の持つ新たな視点と社会変革へ:

伊東亜紀子さん:
国際連合経済社会局社会問題担当官 障害者権利条約事務局チーフ
上智大学法学部国際関係法学科卒業。シカゴ大学にて政治学国際関係修士号、カリフォルニア大学バークレー校Boalt Hall School of Lawにて法学修士号取得後、国連麻薬統制計画法務担当官を経て1994年より国連における障害問題に取り組む。


藤井:あけましておめでとうございます。伊東さんは現在、国連本部のニューヨークを本拠地として働いておられますが、そもそも国連で仕事をしようと思われた動機を聞かせてください。

伊東:随分早い時期から国際機関で働くことを考えていました。父が航空会社に勤めていたことや、親戚が海外に住んでいたことも影響していると思います。幼少の頃から色々な国を旅行する機会に恵まれ、国際社会の中で、様々な国の人と一緒に世界のために働くことが、自分にはあっているのではないかと幼いながら漠然と思っていたように思います。
 大学進学にあたって、世界が抱える多くの問題を解決するための手段や、自分がどのように具体的に貢献できるのかを考えた時、法律を選びました。私も含め、人は誰でもある程度生まれた社会や時代の産物なのだから、差別の意識が刷り込まれていることはあるかもしれません。自分を客観視し、自分の中に潜む差別の意識を分析し、色々な媒体を使って一般の人の目線で問題の解決に向けて考えていくことが、問題解決のきっかけになると思いました。法律は社会の様々な問題に関わっています。私は特に女性の人権問題、差別の是正と女性の地位向上のために学問と運動の両面で関わっていく決意をしました。叔父が障害をもっていたこともあり、社会的に構造的な差別と疎外に苦しむ人たちの問題に取り組みたいと思いました。法律は非常に有用な手段と考え、上智大学で国際人権法を中心に国際法を勉強しました。指導教授で、大変高名な国際法学者でいらした恩師は長年反アパルトヘイト運動、人種差別撤廃に大変強い義務感を持っていらした方で、その世界観、法律家として社会正義を突き詰めていく姿に進むべき道を示していただきました。また、AFS交換留学プログラムの仕事にも本格的に取り組み、国際関係、主に国連関係の研究会などに参加し、日本模擬国連創立委員会の仕事に熱中する日々でした。

藤井:国連の社会問題部署で日本人は今何人ですか?

伊東:同じ部には私を含めて3人の日本人がいます。国連での仕事は、今までは、「社会開発」「人権」「平和と安全」の柱で、分野別でしたが、今は、SDGsの枠組みで、インクルージョン、人権、平和維持と連関させた有機的なつながりが求められてきています。日本人も、国連をめざす若い人には、専門知識だけでなく、研究に励んでいる段階からネットワークを広げていってほしいです。

藤井:現職に就かれる前はどのような仕事をされていたのですか?

伊東:国連競争試験合格後、麻薬部のオファーを受けてウィーンに移りました。政府間の交渉を担当する麻薬統制委員会付きの社会問題担当官や法務担当官としても働き、ウィーンでは計4年間勤務しました。
 日本でもご存知の方が多い、テレジア・デグナー(前障害者権利委員会副委員長)はバークレーのロースクールでのクラスメイトでした。現在の、ニューヨーク本部に赴任する夏、短い夏休みに共通の恩師である国際人権法のフランク・ニューマン先生と3人でスイスの山で、障害者と人権をテーマに「合宿」をしました。その後テレジアはドイツに戻り、私は障害プログラムの責任者としてニューヨークに向かいました。その後の方向づけにとって貴重な時間でした。

藤井:ニューヨーク国連本部で最初に手掛けたことは何だったのでしょう。

伊東:私がニューヨークに赴任した直後に前任者が定年退職してしまい、まだ経験もなく障害者問題についての専門的知識も限られている状態で一人、国連の障害プログラムを担当するのは大きな挑戦でした。
 仕事は、国際障害者の日(12月3日)などのイベントから報告書書きまで多岐にわたりました。国連の会議で、加盟国から私の所属する社会経済局の事務次長補に障害者問題に関する質問が出た場合は、その回答案も起案しなくてはいけませんでした。国連の障害者問題に対する取り組みを代弁する立場にあったため、最初は戸惑う事ばかりでした。
 唯一つ私にできるのは、専門の国際人権法を使って、障害者の権利を守る事を考えることでした。そこでまず、インターンの方たちと協力して国連の障害に関する古い記録を全て掘り起こし、国連創立50周年に併せて「国連と障害者-初めの50年」(The United Nations and Disabled Persons -The First Fifty Years)を出版し、障害者プログラムの歴史と今後の活動の基盤を明確にし、公開しました。次に、障害プログラムの使命を明らかにするために、国連総会や社会開発委員会の障害者問題についての提言を深く理解すること、さらに根本的な課題として、国連機関の様々な活動の中に、どうすれば、どのように障害者問題を取り入れてもらうか。この三点が、私が障害者プログラムを展開していく支柱になりました。
 具体的には、今ある国際規範はどのように障害者のために使えるのかを学ぶためのプロジェクトの実施です。色々な学会などに出かけ、国際人権法の学者や障害者問題の専門家などとのネットワークを構築し、勝手に自分のための障害問題専門家グループを作りました。その上で、1998年にカリフォルニア大バークレー校で障害者問題に関する専門家会議を開きました(UN Consultative Expert Group Meeting on International Norms and Standards Relating to Disability, Berkeley, USA)。この会議では、ネットワークで知り合った専門家から、今まで障害者問題に関わったことのない国際法学会の会長まで、色々な方に来ていただきました。彼らは皆、最初のうちは、なぜ自分がここに呼ばれたのかを考えているようでしたが、話し合いを進めていくうちに、「自分達にはこういうことができる」、「こういう点で協力できる」、そして、例えば障害の専門家は「国際法を使えばこういうことができる」と分かってきたのです。この双方向の学びを通して、障害者と国際法の接点探しからより具体的な提案をするステージにまで到達でき、非常にいい報告書もできました。翌1999年には香港で今度は地域間会議を行いました(Interregional Seminar and Symposium on International Norms and Standards relating to Disability, Hong Kong, SAR, China)。国際リハビリテーション協会(RI)の皆さんもご参…

 つづきは本誌で。

書評「障害のある人の分岐点」

NPO法人日本障害者協議会理事 佐藤 久夫



障害者をめぐる変化と読み手自身の位置

 障害のある人の生活実態や関係する法制度はどうなっているのか。よい方向に変化しつつあるのか。障害者権利条約は2016年の批准以降、国内でどんな影響を生み出しているのか。2021年には障害者差別解消法が改正され、民間事業者の合理的配慮を提供することが法的義務となった。ところがそもそもこの法律が実際にどう生かされているのか、障害による差別の実態とその改善の動向はどうなっているのか、誰にもわからない。
 たしかに2、3年の出来事を振り返っただけでは、変化はわからない。全く変化していないようにも思えてくる。まして変化の方向や変化の要因は全くわからない。こうして日々の仕事や課題に追われ、流されがちとなる。しかし10年、20年、30年という期間で見ると大きな変化が見えてくる。変化が見えてくると、その中での自分自身の位置や課題も見えてくる。流されるのではなく歴史に貢献する主体者となるには、時々フォーカスを引いて変化を見る必要がある。この本はそうした機会を提供してくれる。



運動と政策を「ものがたり」としてつかめる

 この本は1981年の国際障害者年(IYDP)以降の40年間の障害者運動と障害者政策を社会全体の動きと絡めて述べている。構成も10年ごとに区切り、各時代の代表的な「出来事」をいくつか取り上げ、それぞれ1、2ページで紹介する「ものがたり」的な手法をとっている。筆者自身がこの40年間、運動の側としてこれらの出来事のほとんどすべての中心にいたので、臨場感抜群でわかりやすい。事実、統計数値、関係者の生の発言などが説得力を高めている。
 例えば、第三期(2001年~2010年)の「出来事」は、「障害者権利条約の提唱と日本政府の対応」、「日本障害フォーラムの設立」「障害者自立支援法」「障害者権利条約の採択と『3・5事件』」「安永健太さん事件」「基本合意文書」「障がい者制度改革推進会議」である。
 このなかの「安永健太さん事件」は、知的障害を伴う発達障害のある佐賀県の安永さんが、不審者と間違えられて5人の警察官に路上で押さえつけられ死亡した2007年の事件である。ここでは「後の解剖でわかったことは、全身の傷は100カ所に及び大腿部付近には大量の内出血跡がありました。ねじ伏せられてから絶命まで10分間前後と言われています。」「言葉の出にくい健太さんが最後にとった行動があります。それは、ねじ伏せられる直前に警察官に対して唾を吐きかけたことです。精いっぱいの抵抗であり『ボクのどこが悪いの』の訴えだったと思います。」と書いている。裁判で、警察官が知的障害のある人と接したことも、その研修を受けたことも、解説を読んだこともなかったとの証言がなされたことを紹介し、この事件の背景に迫っている。



IYDP以降の基本テキスト

 本書は、障害者の生活・運動・政策の歴史に関する基本テキストとも言えるものであり、にもかかわらず分量もコンパクトで、値段も非常に手ごろである。ぜひ多くの障害のある人、福祉や教育等の学生さん、民間や行政で働く関係職員の皆様に薦めたい。



2021年12月の活動記録


連載 私の"ほッ"とタイム"②

私のところにやってきたロボット~在宅障がい者の安らぎ~

森田真千子(口と足で描く芸術家協会




書評

JDブックレット5 藤井克徳 著
国際障害者年から40年の軌跡 「障害のある人の分岐点」 障害者権利条約に恥をかかせないで

 佐藤久夫(NPO法人日本障害者協議会理事)




連載 あらためて公共財とはなにか 3

トイレの機能分散よりも「量」を
川内美彦(東洋大学人間科学総合研究所客員研究員)




トピックス+読書案内




連載 社会の「進歩」は人々を幸福にするか?13

人権意識の進展と障害当事者の活躍
石渡和実(東洋英和女学院大学名誉教授)




私の生き方 第76回

齊藤真拓




表3いんふぉめーしょん

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