障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

21年11月18日更新

2021年「すべての人の社会」11月号

2021年「すべての人の社会」11月号

VOL.41-8 通巻NO.497

巻頭言 精神障害のある人の尊厳の回復

NPO法人日本障害者協議会理事 木太 直人

 1984年3月14日、その日の朝日新聞の朝刊1面は病院職員のリンチにより2名の患者が死亡したことを報じるスクープ記事でした。のちに宇都宮病院事件といわれる精神科病院における重大な人権侵害を告発する第一報でした。当時私は理系大学卒業後に3年生に編入学をした福祉系大学のソーシャルワーク実習に臨んでいました。実習先は何となく卒業後の進路として考えていた精神科病院でした。私は報道記事に強い衝撃を受けましたが、一方で自分の実習先では起こり得ない特別に悪質な病院でのことと捉えていました。

 卒業後、民間の精神科病院に就職した当時はまだ精神衛生法の時代で、入院者のすべての入院形態は「同意入院」でした。家族のうち保護義務者となった者の同意に基づく入院で、本人の同意を必要としない強制的な入院形態でした。
 就職して4年目の1988年7月に宇都宮病院事件を契機として改正・名称変更された精神保健法が施行され、初めて本人の意思 ( 任意 )に基づく任意入院制度が誕生し、同意入院は医療保護入院となりました。施行前に病院では何度も勉強会が開かれ、多くの入院患者さんの同意入院から任意入院への切り替えのための家族への連絡はソーシャルワーカーの役割となりました。家族が強制入院に加担しなければならないという役割から解放されるためか、任意入院への移行に反対する家族はほとんどいなかったと記憶しています。

 それから30年を超える月日が流れ、私も現場を離れ10年を過ぎますが、いつの間にか在院者に占める医療保護入院の割合が高まっていきました。診療報酬の誘導策により新規入院者の入院期間の短期化が進むことに呼応して、強制入院による急性期治療の導入が進められ、身体的拘束も増えていきます。また、依然として長期入院や社会的入院の問題は、日本の精神医療の歴史的な積み残し課題として解消されないままとなっており、精神医療は出口の見つからない迷路に入り込んだかのようです。

 10月15日、日本弁護士連合会は人権擁護大会において「精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議決議(注1)」を採択しました。精神障害のある人に対する特別な法制度がさまざまな人権侵害をもたらしているとして、精神保健福祉法による強制入院制度を廃止し、精神科医療においても等しく適用される、患者の権利を中心にした医療法を速やかに制定することを国に求めています。

 精神医療における長期入院・社会的入院の解消をミッションとして国家資格化されて早 し半世紀を迎えようとする今、精神保健福祉士は何よりも精神障害のある人の尊厳の回復に向けたソーシャルワークを展開しなければなりません。


  • 注1)https://www.nichibenren.or.jp/document/civil_liberties/year/2021/2021.html
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    視点 知的障害当事者活動とJD ~津久井やまゆり園事件の「その後」から~

    NPO法人日本障害者協議会副代表 石渡 和実

     JD加盟団体である鉄道弘済会の『社会福祉研究』に、論文を掲載する機会をいただいた。タイトルは「権利擁護における当事者参加の現状と課題」で、知的障害者の活動に注目してほしい、との依頼であった。すぐに、津久井やまゆり園事件と関連して、力強い発信を続けている知的障害の方々が思い浮かんだ。資料を集めていくと、このような当事者活動に、実は日本障害者協議会(JD)がさまざまに関わっていたことに気付かされた。

     2016年7月26日の事件から4か月ほどの11月13日、横浜市で「にじいろでGO!」という団体が立ち上がった。知的障害当事者として、「障がい者制度改革推進会議総合福祉部会」などでも活躍された奈良﨑真弓氏が代表で、気負うことなく事件後の社会のあり方を問い続けている。そのきっかけとなったのが、JDが9月28日に開催した「相模原事件を考える緊急ディスカッション」で、10人の発言者の一人として奈良﨑氏が率直な想いを語った時であったという。

     事件後、「私壊れそう」というメールを送り、人間不信に陥っていた奈良﨑氏が、ここでは「生まれ変わっても知的障害者として生きたい!」と力強く主張したのである。障害がある「仲間」と語り合うなかで、同じ立場だからこそ強い絆で結び合える、「障害者でよかった」と思えたのだという。そして、「誰もがかけがえのない存在だ」ということを再確認し、さまざまな色がまじりあう虹をイメージして会の名称を付けたという。

     ピープルファースト横浜の活動も注目される。事件後の9月21日・22日に、全国大会が横浜で開かれた際には、障害者への虐待・差別を許さないというアピール文を早々と出した。植松被告の裁判が進むなかでやまゆり園での支援が問題視されてくると、2020年2月には450人もの会員が県庁に集い、黒岩知事との対談が実現した。この場には、やまゆり園の元利用者3人も参加し、別人のような生き生きとした地域での生活も紹介される。

     こうした当事者の要望もあり、2020年1月、やまゆり園の支援を検証する委員会が立ち上がり、5月の中間報告では身体拘束など虐待の疑いが指摘された。7月には「利用者目線の支援」を検討する委員会が設置され、11月7日、「にじいろでGO!」の勉強会に参加した黒岩知事はこう語っている。「職員が『施設の管理』を優先し、拘束をされた利用者の気持ちを考えていない。これからの支援は、利用者の立場に立つのが当然であり、『利用者目線』という言葉を使って検討している」。
    2021年3月に報告書が出され、6月には「当事者目線の障がい福祉に係る将来展望検討委員会」が新たに設置され、更なる検討が続いている。

     8月2日には、当事者4名と黒岩知事との対話集会が開催され、オンラインで全国に発信された。テーマは、「自分の暮らしは自分で決める~津久井やまゆり園事件はもう起こらないの?~」で、地域移行した3人の現在の姿も紹介された。見事に仕事をこなす様子や満面の笑顔から、「こんなに大きな力を秘めていたんだ!」と、支援する側としては反省とともに大きな力をもらえた場でもあった。この対談の続編も予定されている。

     黒岩知事の言動が象徴的であるが、行政も支援者も社会も、事件後の当事者の活躍から新たな力や希望やもらっていると感ずる。そして、このような当事者の活動を支えているのが、きょうされんをはじめとするJD加盟の支援者団体である。事件を悲劇で終わらせてはならない。私たちの悲願が、知的障害当事者の活躍を核に現実のものになりつつある。

    *多くの資料を提供してくださった奈良﨑 真弓氏、きょうされん常任理事の小野 浩氏に感謝いたします。  

    2021年10月の活動記録



    新連載 私の"ほッ"とタイム"①

    チャレンジド・ヨガ~視覚障害者のためのヨガクラス~     芳賀 優子(共用品推進機構)




    新連載 あらためて公共財とはなにか 1
    インクルーシブ社会を具現化する公共トイレは実現するのか     髙橋 儀平(東洋大学名誉教授)





    連載 家族も自分の人生を歩む 家族依存・家族支援を考える 第4回

    障害者家族の老いる権利とは    田中 智子(佛教大学教授)




    障害者権利条約

    障害者権利条約の審査を有効活用するために ~海外&対日審査の事例から~    馬橋 憲男(フェリス女学院大学名誉教授)




    連載 社会の「進歩」は人々を幸福にするか?11

    進歩の根幹に一番大切なこと 星川 安之(共用品推進機構)

             


    トピックス・読書案内



    連載 COVID-19のインパクト その15

    東南アジア:ブルネイから Mustazah Maidin(ブルネイ教育省特別支援教育課 教育・心理上級専門官)




    連載 第75回 私の生き方
    小堀 逸也(埼玉県在住)




    いんふぉめーしょん

    JDF 全国フォーラム



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    ▼お申し込みは下記JD事務局へメール、電話、FAXなどでご連絡ください。
    〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 日本障害者協議会
    TEL:03-5287-2346 FAX:03-5287-2347

    ○メールでのお問合わせはこちらから office@jdnet.gr.jp
    ○FAXでのお申込み用紙はこちらから 【賛助会員申し込みFAX用紙】

    ※視覚障害のある方向けのテキストデータ版もございます。
    ※ご不明な点はJD事務局までお問い合わせください。



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