障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

21年10月19日更新

2021年「すべての人の社会」10月号

2021年「すべての人の社会」10月号

VOL.41-7 通巻NO.496

巻頭言 数字は嘘をつかない、判断するのは人間

NPO法人日本障害者協議会理事 赤平 守

 9月29日、自民党の新総裁に岸田文雄氏が選出された。この号が発行される時には岸田新内閣が誕生していることだろう。それにしても総選挙ではなく、一政党の党首選びにこれ程メディアが時間を割くのを目の当たりにすると、この国は本当に民主国家なの?と、違和感を抱いてしまうのは私だけではないだろう。前回「すべての人の社会」で執筆したのは、ちょうど1年前の10月号「優生思想に立ち向かう」のコーナーだった。その時に話題にしたのが菅政権の誕生だった。「自助、共助、公助そして絆」と「安心・安全」を謳ったこの政権は結局、短命政権となったのだが、この1年私たちは、国やメディアが発信し続ける新型コロナ感染者数をはじめ、様々な数字に翻弄され続けたような気がする。しかも甚だ一貫性・論理性に乏しい?数字に。

 菅政権が発足した2020年9月16日の全国の感染者数は551人。第2波が収まったと判断したのか、政府は「Go Toトラベル」の促進と2021年の東京オリパラの開催に舵を切る。結果は周知の通り、12月に第3波が襲来、今年1月7日には新規感染者数が、東京で2,520人、全国で7,642人と発表されるが、その後政府が「Go Toトラベル」と感染者拡大の関係を正式に認めることはなかった。
 翌1月8日、緊急事態宣言が出され、東京都に至っては緊急事態宣言もまん延防止等重点措置も出ていない、何もない「ふつうの日」は、今年9月末までにたった28日しかなかったことになる。

 政権支持率が低下する中、菅政権の方針はワクチン接種と東京オリパラの実現に転換していくことになり「国民の安心・安全」が前面に押し出された。特にオリパラに関しては7月の世論調査で国民の8割近くが開催反対であるにも関わらず「安心・安全」名目の大会は開催された。開催の是非は別として、開催期間の8月20日の新規感染者数25,876人は、その日の世界6番目の数であること、8月28日には累計死者数が東日本大震災の死者15,899人(警察庁調べ)を超えたことが大きく報道されることはなかった。緊急事態が日常化されてしまったのか。数字は嘘をつかないが、その数字の意味を判断するのはあくまでも我々人間である。

 J Dは今年もまた11月6日に「憲法と障害者2021」を開催する。日本国憲法前文643文字の冒頭は「日本国民は正当に選挙された国民の代表者を通じて行動し……」と始まる。投票率の向上はこの国が、主権在民であることの強い証となる。 皆さん、選挙に行きましょう。

 

視点 働く権利

NPO法人日本障害者協議会常務理事 増田 一世

 精神障害のある人たちへの福祉的援助は、身体障害や知的障害の諸制度よりも大幅に遅れて始まり、精神保健法という医療法の中に精神障害者社会復帰施設が位置づくことで初めて福祉的援助活動が法的に位置づいた。精神障害者福祉法という法律は存在せず、2005年に制定された障害者自立支援法で三障害が同じ制度となった。

 筆者は、1997年に障害のある人を雇用する事業所、精神障害者福祉工場「やどかり情報館」を仲間たちとともに開設した。生活保護を返上し、自分たちで稼いだ給料と障害年金で生活したいという声に応えたのだ。しかし、開設準備も開設後もその運営はいつも厳しかった。それでも、長時間労働、あるいは職場の軋轢の中で発症したり、学校時代のいじめで外に出られなくなった人たちが、病気のことを隠さずに働けること、病気や障害の体験の中で見出したことを社会に発信することで、自らの人生を生き直していく、そうした場の大切さを実感してきた。

 逆風は、障害者自立支援法(今の障害者総合支援法)だった。福祉工場は就労継続支援A型事業所に移行し、それまでの雇用契約に加え、サービスの受け手としての利用契約を交わすことになった。そして、1割の利用料が発生することになった。報酬はそれまでの箱払い(1年間の補助金額が一定)から、日額払いの制度になった。事業移行して間もなく10年になるが、これらの制度への違和感は消えることがない。

 就労継続支援A型事業は訓練等給付の事業であり、訓練が求められている。もちろん仕事の習熟に向けた経験の蓄積は重要だが、ここで求められている訓練は、一般企業等への移行に重きが置かれている。

 「障害者雇用・福祉施策の連携強化に関する検討会報告書」(厚生労働省、2021.6)には、「就労継続支援A型事業所を利用する多くの障害者が企業で働ける可能性があると思われるが、その機会が与えられていない、あるいは自分は無理だと思い込んでしまっていると推測されるため、就労継続支援A型事業所は、工賃アップを目指している就労継続支援B型事業所か一般就労に収斂されて いくのではないか」とある。

 私が今、共に働く人たちは、企業で働く経験を何年も重ね、その経験を経て、やどかり情報館で働く人たちがほとんどである。自分には企業就労が無理だと思い込んでいるのではなく、新たな生き方を選択して、ここに至っている。

 就労継続支援A型事業所のあり方をめぐる議論は必要であろう。行き過ぎた規制緩和がもたらしたA型事業所の広がり方は異様だった。A型事業所の大量解雇事件も記憶に新しい。厚労省も運営要項の見直しを重ね、2021年度の報酬改定では、スコア化が導入され、いくつかの評価点で報酬単価が決められる仕組みとなった。

 JDでは、社会支援雇用という考え方を提案した。障害のある人が働くうえで、労働施策と福祉施策を統合して活用できる仕組みの提案だ。A型事業所はその1つのモデルとなり得よう。障害者総合支援法の枠組みの中での検討ではなく、障害のある人の働く権利を土台にした検討こそ重要だ。一般就労ありきの検討の方向性を強く懸念する。  

2021年9月の活動記録



連載 アートと障害者 No.12

それぞれの色世界     芝元 俊久(デザイナー)




障害者権利条約 事前質問に対する政府回答案についての評価

佐藤 久夫(NPO法人日本障害者協議会理事)




連載 家族も自分の人生を歩む 家族依存・家族支援を考える 第3回

政府によるヤングケアラー集中取組期間3年間に向けて    藤木 和子(全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会副会長/弁護士)




連載 優生思想に立ち向かう《27》

"敬意を伴う寛容"のために
齋藤 有紀子(北里大学医学部附属医学教育研究開発センター 医学原論研究部門)




連載 社会の「進歩」は人々を幸福にするか?10

みんなの平等と進歩
八藤後 猛(日本大学理工学部まちづくり工学科教授)


         


トピックス・障害者自立支援法違憲訴訟団主催ディスカッション報告



連載 COVID-19のインパクト その14

東南アジア:ラオスから
Viengsam Indavong(ラオス自閉症協会創業者・代表)




連載エッセイ 障害・文化・よもやま話

第28回 優生思想に悩んだ障害者たち―「自尊心」を削り取る思想―
荒井裕樹(二松学舎大学准教授)




いんふぉめーしょん

共同創造の精神医療改革 ベルギーのプロセスに学ぶ



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