障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

21年9月24日更新

2021年「すべての人の社会」9月号

2021年「すべての人の社会」9月号

VOL.41-6 通巻NO.495

巻頭言 新型コロナウイルス感染とPCR検査

NPO法人日本障害者協議会理事 矢澤 健司

 2019年12月に中国武漢で見つかった新型コロナウイルスは、瞬く間に世界中に蔓延しました。
 現在も新型コロナウイルス感染症の拡大が続いています。日本では7月12日に4度目の緊急事態宣言が出されたにもかかわらず、オリンピックが実施されました。

 PCR検査の拡充がなされず、ワクチン接種にも遅れが生じています。積極的な対策を打ち出さずに、自粛で感染拡大を乗り切ろうとしてきましたが、何度も出される緊急事態宣言には緊張感がなくなり、感染が10倍にも拡大し、入院できない自宅待機者も非常に増えています。

 その後、入院を重症者に限定し、中等症・軽症者について、自宅療養を基本とする方針が出されましたが、障害者とその家族が新型コロナウイルスに感染した場合、自宅療養をすることは不可能です。医療体制を拡充し、入院できるベッド数の確保と、医師や看護師を確保することが早急に必要です。

 感染拡大と医療体制の逼迫が予想されるなか開催されたオリンピックでのアスリート一人ひとりには拍手を送りたい気持ちもありますが、その一方で、会場に人が集まる等、感染拡大に影響がなかったとは言えず、「安全・安心」の大会とはなりませんでした。この状況で開催されたことは、オリンピックの基本である「平和・平等・人権」が生かされていないと感じます。

 この間、世論の6割以上の人がオリンピックの実施に不安を持っていたにもかかわらず適切な対応がとられなかったことは、国民の声が政策に反映されないのかと、とても不安に感じます。

 もう一つ不安なことは、コロナ対策として、3密を避ける、自粛、ワクチンの三つが基本になっていますが、どれも間接的に感染を減らす対策で、特にワクチンは感染を予防する対策ですが、現在一番感染者が多い20代30代の人への供給が足りていません。これに対し、PCR検査は全ての人に公平に実施することが出来ますので、感染者に適切な処置を行えます。また、市販の抗原キットなので個人が自身で容易に検査できます。

 PCR検査等で無症状の感染者を見つけ、適切な隔離等をすることにより感染爆発を抑えることができることは多くの専門家が述べています。

 積極的に新型コロナウイルスに立ち向かう姿勢が求められている現在、一人ひとりが積極的に感染予防を行うとともに、新型コロナウイルス関連予算を増やし、医療機関への待遇改善や無症状の人を含めた感染者への援助を十分行なってもらいたいと思います。

視点 総括のないことを総括すべき

NPO法人日本障害者協議会 代表 藤井 克徳

 東京五輪が閉会して5日目、他方で新型コロナの第五波が急進するさなかの8月13日に菅義偉総理のぶら下がり会見が報じられた。記者から、「コロナ対策のこれまでをどう総括するのか、総括がないと政府のメッセージが国民に届かないのでは」。まっとうな質問だった。期待薄ながら、それでも総理の答に耳を傾けた人は少なくなかったように思う。

 総理の答えは、「私の自己評価をするのは僭越」としたうえで、「外国はロックダウンしてもうまくいっていない、ワクチンは順調」と応じた。政策の総括と僭越がどう結びつくのか、質問内容からみて外国のロックダウンもワクチン云々も的外れである。

 この時期の、この質問には特別の意味がある。日本で新型コロナウイルスが確認されて1年8か月になるが、政府の方針は、「とにもかくにも五輪までは我慢してほしい」の一点張りだった。結局、市民社会全体が引きずられるようにしながら政府の思惑は貫かれた。緊急事態宣言は五輪ムードにかき消され、結果として閉幕前後から過去最高の感染の波が押し寄せている。とすれば、五輪終了という大きな区切りの今、我慢してきた側が中間的な総括を迫るのは当たり前で、記者の質問は市民社会の意向を代弁したものである。

 的外れ答弁やはぐらかし論法にはだいぶ免疫が付いたつもりだが、さすがに「僭越」は吹き出してしまった。同時に、次の考えが脳裏をかすめた。それは、この珍答のみに心が奪われてはならないということである。肝心なのは、記者の質問の本筋である総括にこだわることだ。珍答の連発の陰で、ほくそ笑んでいるのは政府の要人であり官僚上層部なのかもしれない。総括に分け入ってほしくない立場からすれば、事の本質をカモフラージュする珍答は好都合と言えよう。となれば、珍答にあきれ顔や苦笑するだけでは済まされないのである。

 そこで、コロナ問題でのこの時期の総括事項を考えてみた。ざっとあげるだけでも、①公衆衛生政策の急速な後退(感染症病床や保健所の激減)、②衛生物品製造の海外依存(マスクやPCR検査器具など)、③コロナ問題の責任大臣がなぜ経済再生担当大臣なのか(海外の多くは厚労大臣)、④PCR検査の抑制、⑤ゴートゥキャンペーンと感染症拡大の関係、⑥ワクチン不足、⑦五輪開催と感染拡大の関係 等々が浮かび上がる。

 総括の毛嫌いはコロナ問題だけではない。この国の政策全般に言えることであり、ことにこのところの政策運営に目立つ。障害関連の政策も例外ではない。この時期に浮上しているテーマと関連させながら、一つ例をあげておこう。それは、優生保護法(1948年から1996年)の被害問題である。障害者政策史上最大かつ最悪の問題でありながら、正式な総括は一度もなされていない。1996年の優生条項の削除時も、2019年の一時金支給法の制定時も、国会の議事録に残る総括はない。「当時は適法だった」をくり返していた政府も、裁判所も総括には踏み込んでいない。

 総括や反省には、いくつかの意味がある。まずは、同じ過ちをくり返さないための教えを得ることである。過去と現在の関係を正確に押さえることで、未来を展望するための足場を固めるという意味もあろう。現在という足場がグラつくようでは、まともな未来は描けるはずがない。また、総括には異論の受け入れが欠かせない。そうみていくと、総括とは、過去の省みだけではなく、それ自体が民主主義のバロメーターと言っていいのではなかろうか。総括を好む国になってほしい。

 ※ 本稿は菅総理が辞任を表明する9月3日以前に書かれたものです。  

2021年8月の活動記録


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多彩な色覚のアート
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