障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

21年8月21日更新

2021年「すべての人の社会」8月号

2021年「すべての人の社会」8月号

VOL.41-5 通巻NO.494

巻頭言 COVID-19後にも発症する筋痛性脳脊髄炎

NPO法人日本障害者協議会理事 篠原 三恵子

 神経免疫系の難病である筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の集団発生は、歴史的にウイルス性疾患の流行後に起きており、患者の大多数はウイルス感染が引き金となり発症しています。海外では昨年3月頃より多くの専門家が、COVID-19(新型コロナウイルス感染症、以後コロナ)を引き金にME/CFSが多発する可能性を警告してきました。昨年7月に米国国立アレルギー・感染症研究所のファウチ所長は、コロナ後に長引く症状はME/CFSの症状に似ていると発言し、CNNニュースで取り上げられました。

 私の法人(筋痛性脳脊髄炎の会)も早速、海外の情報を翻訳して発信し、専門医とも情報交換をして、昨年5月にWEBアンケートを実施しました。326名から回答を得、同年10月の時点で5人のコロナ後のME/CFS発症を確認しました。同時に、厚労省に早期の研究開始を求める要望書を提出し、「ウイルス感染を契機としてME/CFSを発症するとの報告は承知しており、今後もコロナとの関連について注視して参りたい」との回答を7月に得ました。しかし、その後の動きは鈍く、厚労省がコロナの後遺症の存在を正式に認めたのは、実態調査の研究班が今年6月に中間報告を発表してからでした。

 4月には国立精神・神経医療研究センター(NCNP)より、血液検査でME/CFSを診断できることを示す論文が発表されました。これはME/CFSにおける感染と免疫病態の関連性の理解につながり、客観的診断法の確立や治療薬開発への応用が期待されます。NCNPではこの診断法を使って、すでに約30人をコロナ関連のME/CFSと診断しています。

 過去の科学的エビデンスによれば、コロナの全感染者の約10%がME/CFSを発症すると推計され、日本でも数万人規模の新たなME/CFS患者が生まれる可能性があります。疑いの方を含めたら10万人以上がこの診断法によって、ME/CFSかどうか診断できるようになりますので、血液診断法を実用化するための研究を早急に促進していただきたいと思います。

 2014年の厚労省の実態調査で、ME/CFS患者の約3割が寝たきりに近いという深刻な実態が明らかになっています。私の法人では今年6月、コロナ後のME/CFSに関する緊急アンケートを行い、141名から回答を得ました。7割以上の方が仕事(学校)に戻れないと回答し、国に望むことで一番多かったのは、社会保障(74.5%)や治療薬開発(64.5%)でした。

 今やだれもがME/CFSを発症する可能性があります。私の法人では、通常国会に「新型コロナウイルス感染症と筋痛性脳脊髄炎の研究を求める請願」を提出し、衆参両議院で採択されました。一日も早く研究が開始され、患者たちの救済が実現することを願っています。

視点 オンラインの舞台裏から

NPO法人日本障害者協議会 副代表 薗部 英夫

 ゴリラが専門の霊長類学者の山極寿一さん(京都大学前総長)が「文化の力奪うオンライン」として、つぎのように述べていた。

 「人間が社会を作る上で、欠かせない、移動する、集まる、対話するという三つの自由が大幅に制約されてしまった。ただ、そのうち対話する自由だけは現代の情報通信技術で何とか保障されている」「これまで移動や会場の設営に多大な時間と費用がかかったことを考えると、オンラインの会議やイベント、講義や講演は大変効率的でコストは下がった」(朝日新聞「科学季評」、2月11日)

 障害者団体は、オンラインを活用しながら、コロナ禍の中でも運動を止めずにすすめてきた。JDでは、毎月の理事会や各委員会の会議や総会などもすべてZOOMによるオンライン開催だった。昨年末の記念すべき「JD結成40周年集会」も年明けから3度開催の連続セミナーも、ZOOM(ウェビナー)を活用して、全国から数百人規模の参加を得てなんとか成功させている。

 「なんとか」というところの舞台裏を少し記録しておきたい。東京・戸山サンライズの会場を発信基地にして、司会や講師、要約筆記の映像をZOOMで配信するのはJD加盟団体の全障研グループだ。手話通訳の映像は障全協グループのカメラが捉え、きょうされんグループは、プロジェクターの投影画面と音声をモニターして、一般の参加者(視聴者)のパソコンやスマホに映っているはずの映像と音声をチェックする。うまくZOOMに接続できない方からの電話問合せは、ゼンコロメンバーなどが戸山サンライズの敷地の別棟にあるJD事務所で対応している。もちろんすべてボランティア的とりくみだ。

 大きな課題は、オンライン発信では必須となる情報保障だ。情報アクセシビリティはすべての人に保障されなければならない。手話通訳や要約筆記は派遣センターに依頼している。手話通訳の2人と要約筆記の4人が見事な情報保障にあたり、それをそれぞれの画面を発信する。

 しかし、「デジタルデバイド(情報格差)」といわれるところでの課題は多い。たとえば、視覚障害のある人に、画面に映る「アイコン」や「ボタン」にカーソルを合わせて、マウスで「右クリックしてください」などとお願いするのは酷な話だ。盲ろうの障害の方がパネリストの場合、画面に映るパネラーと、4人の専任通訳者が別のパソコンとインターネットでつないで、進行するメイン企画の情報をパネラーにメールし、それをパネラーはパソコンの点字表示ディスプレイなどで理解し、口頭で発言して参加している。知的障害のある人の場合、ルビふりだけでなくよりわかりやすい情報の表現が求められる。そもそも、障害のある無しにかかわらず、「ミュートってなに?」「URL?」「ビデオをオンする?」などなどはじめてのインターネットやパソコン、スマホの用語には頭が痛くなる。

 いずれにしても、情報アクセスの保障は、障害者権利条約でも条約全体を通じて強調されている。障害者団体からの国連への「パラレルレポート」でも重視されている。大きなテーマだ。

 先の山極さんが強調したのは、「一方で、人間が社会生活を送る上でとても大切な能力が衰え始めている」「人間の高い同調能力を使い一つの物語を織り上げるためには、リズムを心身に響かせる仕掛けが必要」「リズムが社交を作り、社交の積み重ねが文化として人が共感する社会の通低音になる」「(オンラインは)頼りすぎると、私たちが生きる力を得てきた文化の力が損なわれる」。

 だからこそ、「集まる自由」を取り戻して、固く連帯するためにも、いまはオンラインを活用しながら、学び、語り合い、つながっていきたいと思う。「明けない夜はない」(シェイクスピアの「マクベス」より)と念じながら。

障害者自立支援法違憲訴訟団企画オンラインシンポジウム

自助の強要は人権を脅かす!国は基本合意を再確認し、骨格提言の実現を



2021年7月の活動記録


連載 アートと障害者 No.10

アートビリティを広めて
登内 かおり(アートビリティ事務局)




新連載 家族も自分の人生を歩む 家族依存・家族支援を考える 第1回

家族依存の障害者施策からの脱却を目指して
増田 一世(日本障害者協議会常務理事)




「他の者との平等」を基礎とした統計の実現に向けて


磯野 博(日本障害者協議会政策委員 静岡福祉医療専門学校)




連載 社会の「進歩」は人々を幸福にするか?8

命を選別するテクノロジーの最前線
千葉 紀和(毎日新聞記者)




JDサマーセミナー2021(報告) 人権と優生思想

インクルーシブ社会の実現をあきらめない! -弱くもろい国にならないために-




トピックス・インフォメーション・読書案内



連載 COVID-19のインパクト その12

東南アジア:インドネシアから
Eva Rahni Kasim(インドネシア社会省 障害者社会リハビリテーション課 課長)




連載エッセイ 障害・文化・よもやま話

第27回 優生思想に悩んだ障害者たち-北條民雄の嘆き-
荒井 裕樹(二松学舎大学准教授)




いんふぉめーしょん

第43 回総合リハビリテーション研究大会



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