障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

21年7月25日更新

2021年「すべての人の社会」7月号

2021年「すべての人の社会」7月号

VOL.41-4 通巻NO.493

巻頭言 多様性の本質

NPO法人日本障害者協議会理事 佐野 竜平

 最近よく見聞きする言葉に「多様性」がある。 「いろいろな種類や傾向のものがあること」あるいは「変化に富むこと」を指す。コロナ禍の日本では、多様性に溢れた生活様式を渇望する人が増えたとも言われる。「ダイバーシティ」とあえて日本語訳をしないときもある。2021年になってから、読売新聞・朝日新聞・日本経済新聞だけで、多様性またはダイバーシティが1,500回以上取り上げられている。

 例えば、障害・性別・年齢・国籍などの属性的な面と価値観やライフスタイルなどの思考的な面を掛け合わせると理解しやすいだろうか。ダイバーシティ経営(経済産業省)や職場におけるダイバーシティ推進(厚生労働省)など、その運用はいろいろである。

 さらに期待されているのは、包括や包含を意味する「インクルージョン」というキーワードが加わったときだ。中身は別として、ダイバーシティ&インクルージョンを標榜する国内の企業や団体が、SDGs(持続可能な開発目標)の広がりとともにこの数年で一気に増加した。

 見方を変えて、長年滞在してきたアジアに想いを馳せてみる。「原則が例外」のような混沌とした世界である。採用人事にしても、豪快なまでの華やかな転職歴を背景に、履歴書だけで巻物のように数十頁に及ぶ人物もいた。事前に連絡もなく無断で姿を見せなかった翌日、「24時間遅刻しました」と欠勤扱いを拒否し、「時間の捉え方が違うだけ」と主張し続けたスタッフもいた。今年5月にいわゆるLGBT法案の国会提出が見送られた際は、アジアの友人たちから時代錯誤も甚だしいと一刀両断されてしまった。

 要するに、アジアではそこまで意図的に「多様性」を強調していない。同時に、ルールも法則もない「何でもあり」とは一線を画している。常に紆余曲折を経ている社会背景から、多様性を敢えて謳わなくても、様々な視点や発想が常に相乗し合っている。強いて表現するのならば「異・違・小・少・外が自ずと共生している日常」、ここがアジアの多様性の懐深さと言えるだろう。社会を変革するイノベーションの源泉は、アジアのあちこちで湧き出している。

 とどのつまり、状況に応じてコロコロ変わることは「多様性」なのか、あるいは「何でもあり」なのか。他人事として傍観しているだけでは、「多様性」を示唆する妙な基準や分類が開発され、都合の良いときや好ましい解釈のみに適用されてしまいかねない。長い歴史の風雪に耐えて当事者の想いを汲み上げた「多様性」こそ、グローバル時代に問われる本質である。

視点 「7月26日」に想う~津久井やまゆり園事件から5年~

NPO法人日本障害者協議会 副代表 石渡 和実

 「7月26日」が、またやってくる。あの津久井やまゆり園事件から、5年が経つ。

 そして、6月1日は、大阪の池田小事件で8人の子ども達が亡くなってから20年であった。新聞やテレビでは、愛らしい笑顔の写真とともに、亡くなったわが子が力づけてくれるので介護の仕事を頑張れているお母さま、などが紹介され、大きな勇気を与えられた。

 やまゆり園事件では、このように遺影を見て懐かしむことも、名前を呼んでその死を悼むこともできない。「匿名報道の罪」といったことを、改めて考えさせられた。事件の風化が進む大きな要因でもある。だからこそ、私達は19人の生きてきた日々に思いを馳せ、障害がある方々の命と暮らしを守るために、前に進み続けなければならない。

 6月21日の夜、毎日新聞の上東麻子記者が、早稲田大学の生命倫理学者、森岡正博氏とZoom対談をされた。やまゆり園事件や出生前診断など、今の障害者福祉を鋭く問うた上東記者の名著、『ルポ「命の選別」誰が弱者を切り捨てるのか?』の刊行記念イベントである。その終わり近く、上東記者がこう述べた。「何年の7月26日だったか、オウム事件の死刑囚が死刑を執行されたんですよね。本来、静かに19人の死を悼むべき日なのに、国ってこんなことをするんだ、って思いました。」はっとした。2018年7月26日に6人、7月6日に7人が死刑となっており、オウム真理教事件は終わった、とも言われたのである。

 改めて気づかされた。「やまゆり園事件が起きたとき、安倍首相(当時)は現地に行かなかった」ことは、JDの藤井代表がよく指摘していた事実である。日本の国の政治を担う「核」であるはずの人々にとって、やまゆり園事件は頭の片隅にもない。「障害がある人の命を守るなど、ほとんど眼中にない」と言っても過言ではあるまい。

 神奈川県では、昨年の7月29日に設置された「障害者支援施設における利用者目線の支援検討部会」が、今年3月に報告書をまとめた。昨年5月、弁護士の佐藤彰一氏が座長となった中間報告で、津久井やまゆり園での身体拘束など、支援の質が問題視されたのを受け、県立施設のあり方が議論されたのである。きっかけは植松聖被告(現在死刑囚)の判決で、やまゆり園での経験が障害者否定の信念を持つことにつながったのではないか、と指摘されたことにある。他の県立施設で、障害者虐待の事実などが明らかになったことも大きい。

 この「利用者目線」を強調する報告書では、「意思決定支援の推進」を大きく掲げている。筆者は最近、本人の意思が尊重され、今はアパート生活を実現している尾野一矢氏にお会いした。事件で重傷を負いながらも回復され、お父さまの剛志氏とともに、障害者福祉や社会のあり方について発信を続けている。作業所で陶芸にチャレンジし、パンを買いにきた地域の方と楽しそうにやり取りされている。やまゆり園では、「苦虫を嚙み潰したような顔」しか見せなかった一矢氏が、満面の笑顔である。「こんな生活ができるなんで、やまゆり園に居た頃は考えもしなかった」と、剛志氏もお母さまのチキ子氏も本当に嬉しそうである。

 やまゆり園を出て地域生活に移行した方々の、こんな笑顔が次々に見られるようになった。その「秘めたる力」を実感させられる。厳しい体験を経て、社会のあるべき姿を一矢氏らが示してくれている。納得できる暮らしを実現し、継続していくこと、そのために地域が力を結集することが求められる。障害者とともに「新しい地域を拓く」、希望に満ちた支援が実現しつつある。「5年」を機に、このような流れを、更に前へ進めなくてはならない。

障害者自立支援法違憲訴訟団企画オンラインシンポジウム

自助の強要は人権を脅かす!国は基本合意を再確認し、骨格提言の実現を



2021年6月の活動記録


連載 アートと障害者 No.9

宇宙、生命、心を見つめて、求めて
小池 誠 (アートビリティ登録作家)




What's New! 

障害者差別解消法改正を考える
太田 修平 (日本障害者協議会理事)




連載:優生思想に立ち向かう《25》

国から子どもをつくってはいけないと言われた人たち~優生保護法の歴史と罪~
大槻 倫子(優生保護法被害者兵庫弁護団弁護士)




連載 社会の「進歩」は人々を幸福にするか?7

「進歩」について
尾上 裕亮(障害者の生活保障を要求する連絡会議代表)




「しょうがい」の表記… わたしはこう考える

個々人のしょうがい観が反映される表現の実現を願う
林 直輝 (法政大学大学院修士課程2年)


共に考える機会
八藤後 猛 (日本大学理工学部教授)


差別的言葉の経過を踏まえ、適切な表記を模索すべき
内田 邦子 (日本障害者協議会理事)


変えるべきは言葉ではなく社会
長谷川 利夫 (杏林大学保健学部教授)





トピックス・インフォメーション



連載 COVID-19のインパクト その11

東南アジア:シンガポールから
Ng Rei Na(レインボーセンター企画・インクルーシブ職業ユニット長)




連載 第74回 私の生き方

人と人とのつながりの大切さ 
大西 唯斗(三重県在住)




いんふぉめーしょん

オンラインシンポジウム 警察官職務執行法の「精神錯乱者」は国際的に恥ずかしくないのか?
~安永 健太さんの悲劇を繰り返さないための提言~ 



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