障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

21年6月23日更新

2021年「すべての人の社会」6月号

2021年「すべての人の社会」6月号

VOL.41-3 通巻NO.492

巻頭言 共生社会のまちづくり

NPO法人日本障害者協議会理事 黒澤 和生

 小田原駅は、2020年12月に公共施設・ホテルなどを擁する複合商業施設「ミナカ小田原」のオープンで、駅東口が大きく様変わりした。「小田原市交通バリアフリー基本構想」により、アクセシビリティーがより高くなっている。ちなみに、2006(平成18)年6月に成立したバリアフリー新法は、高齢者、障害者全般に、建物、交通機関の移動の円滑化を図るものとして、ハートビル法(平成6年)と交通バリアフリー法(平成12年)を統合した法律であり、共に生きる社会の実現に大いに係わっているものである。

 そんな中、車椅子利用者自身が実際に通ったルート、スポットなどのバリアフリー情報を共有するプラットフォームの「Wheelog」が話題となっている。Wheelogは、ユーザー体験に基づいたバリアフリー情報をユーザー自身の投稿により作り上げるバリアフリーマップである。一般社団法人Wheelog代表理事の織田さんは、単にバリアフリー情報の掲載にとどまらず、バリアフリー社会の実現に向け、「車椅子でも諦めない世界」を目指す大切な活動を行なっている。

 リハビリテーション関連職種の集まりである 神奈川県西地区リハビリテーション協議会(現在名) も、この活動に係わって、小田原駅から小田原城までのルートを中心としたバリアフリーマップ作成に協力している。以前、我が大学の学生が「生活環境学」の授業の一環として、小田原駅周辺と小田原城址公園等を車椅子で走行し、城址公園の砂利で車椅子の走行が困難であったなど、バリアフリーに対する意見や改善策を要望書としてまとめ市に提出した話を本欄に書いた(本誌2017年10月号)。

 ここに来てオリンピック、パラリンピックビューイングを小田原城内で行うことが検討され、ビューイングの場所まで車椅子使用等上、問題ないかの確認が必要となったわけである。歩道からビューイングを設置する広場にいくのに水堀にかけられた橋を渡って車椅子が入れるのか、ビューイングの場所から少し離れたトイレまでのルートに問題はないかなど、イベントの実施はどうなるか不明ではあるものの、スクリーンに投影して鑑賞するイベントの成功に、一役買うこととなった。

 まちづくりというものは、こういった大きなイベントをきっかけに、法制度の枠組みを支えとして、様々な人々の行動と一人一人の思いが進化・熟成され、『バリアフリー』を一つ一つ解決して実を結びながら着実に進んでいく。

社会保障全体を視野に、障害のある人の権利保障に取り組み、いのちを守り抜く!
-JD第10回総会議案書「はじめに」より-

 2020年度を振り返り、2021年度を展望するとき、COVID‒19(新型コロナウイルス)の感染拡大に触れざるを得ない。3度にわたる緊急事態宣言が発出されたが、いまだ終息の目途がついていない。この間の感染拡大によって、日本が抱える様々な課題があぶり出されてきた。医療崩壊、貧困、若年層や女性の自死の増加傾向など、看過できない状況である。

 ソーシャルディスタンスが求められているが、人による支援を受けながら暮らす障害のある人たちは、感染の不安の中で日々を過ごしている。一端感染が起きれば、安心して治療できる医療機関は極めて少なく、医療崩壊の情勢下では、断じてあってはならないトリアージさえ危惧される。障害福祉事業所も報酬の日額払い制度によって不安定な運営を余儀なくされている。誰のいのちも等しく大切だということを念頭に、優生思想によるいのちの選別を許さない姿勢を明確にすることが必要である。

 また、私たち日本障害者協議会(JD)の運営にも大きな影響を与え、オンラインによる理事会や各委員会の開催、40周年の集会・シンポジウム、その後の連続講座もオンラインでの開催となった。しかしながら、実際に会えないもどかしさを感じつつ、東京での開催では参加しづらい遠方の方など、これまで参加できなかった方にも参加の機会を広げることができた。

1 JD40周年、国際障害者年40年の節目に
 JDは、1980年、国際障害者年前夜に誕生し昨年で40周年。そして2021年は国際障害者年から40年の大きな節目であり、歴史から学びながら未来を考える機会でもある。JDは集まることを大切にし、幅広くつながり、政策提言を重ね、行動してきた。国際障害者年を契機に障害者施策は大きく前進した面もある一方、同時期に始まった第二次臨調行革により公的責任を民間に移譲する動きが顕著となり、2006年に施行された障害者自立支援法(現在の障害者総合支援法)では、障害のある人への支援をサービスと位置づけ、障害を自己責任とする応益負担が組み込まれた。

 障害のある人が生きるための支援に応益負担を導入するのは憲法違反であるとして、日本初の障害のある人による集団訴訟、障害者自立支援法違憲訴訟(2008年)が始まり、14地裁で71人の原告が立ち上がった。2010年1月には「勝利的和解」のなか、政府と基本合意を締結し、定期協議を継続している。JDはその事務局の一翼を担っている。2009年12月に内閣府に設けられた障がい者制度改革推進会議のもとに、総合福祉部会、差別禁止部会が設置され、障害者基本法改正、新たな法制度に向けた骨格提言のまとめ、障害者差別解消法などが実現し、JDもその取り組みに深く関わってきた。

 同時に日本障害フォーラム(JDF)を中心として国内の様々な団体との連帯により、障害者権利条約の批准に向けた取り組みにも力を注ぎ、批准後も権利条約を学ぶ機会を設け、パラレルレポートづくりにも積極的に関わってきた。これらは、JDの政策提言と運動の力を発揮する取り組みであり、今後も「基本合意」「骨格提言」そして「障害者権利条約」を生かす取り組みを進めていく。

2 権利保障に向けた取り組みと、障害のある人のいのちを守ること
1) 新型コロナウイルスの感染拡大への影響を最小限にとどめること
 2020年度には新型コロナに関して、要望書や声明を公表し、障害のある人、障害福祉サービスを提供する事業所への影響を伝えて、PCR検査の実施や工賃の補填を求め、日額払いの報酬支払制度の問題を指摘してきた。感染拡大の長期化によるさらなる影響が危惧される。また精神科病棟での感染率は市中の4倍、死者も4倍という調査結果もある。こうした問題を看過せず、適宜、問題提起し、障害のある人のいのちを守るために国などへの要望や政策提言を粘り強く続けていく。

 また、新型コロナがアジア諸国の障害のある人にどのような影響を及ぼしているのか、「すべての人の社会」で連載を続けている。世界的な感染拡大の中で、障害者施策の脆弱な場合に障害のある人への影響がより大きく表れている。感染拡大の中では視野が狭くなりがちだが、世界の中でより困難を抱える人たちのことを考えていくことも忘れてはならない。

2)優生保護法被害問題
 厚生労働省は優生保護法による被害者は約25,000人と発表しているが、一時金支給法の認定数は899人に留まっている(3月31日現在)。被害を受けた人の多くは、現在高齢になっており、この法に関する情報を必要な人に迅速に届けることが重要である。全国で8地裁、25人の被害者が裁判に立った。2019年の仙台地裁、2020年東京地裁、大阪地裁、2021年札幌地裁では、優生手術は人権侵害だが、20年が過ぎているので請求の権利は消滅した(除斥期間)とし、原告らの訴えは認められず、現在それぞれの高裁に上告し、審理中である。

 2020年11月には藤井JD代表が神戸地裁で証人尋問に立った。優生保護法は日本の障害者政策上最大の問題と指摘し、裁判の行方によって、日本の障害のある人の人権水準、障害者政策の基準値に影響すると述べた。除斥期間を理由に訴えを退ける判決が続いているが、この裁判は被害者のためだけの裁判ではなく、私たち一人ひとりの問題と捉え、行動することが求められている。

3)東日本大震災から10年 
 東日本大震災は、地震と津波といった自然災害に加え、福島第一原発事故が重なりその被害をさらに深刻化させた。なぜ障害のある人の死亡率が全住民の死亡率の2倍だったのか、その要因が解明されないまま10年が経過した。東日本大震災の被害にあった地域、そこに暮らす人々にとって、未だ復興とは言い難く、被災はいまもって継続している。

 この10年、各地で自然災害が頻発しているが、障害のある人たちの安心・安全を守る施策は未だ不十分だ。NHKとJDFの調査によれば、災害が起こっても避難することを躊躇し、避難所では暮らせないとあきらめている人も多い。今後も大地震や風水害が続くことが予想されているなか、障害のある人のいのちが守られる社会をどう構築していくのか、多様性を視野に入れて考えていく。

3 社会保障全体を視野に入れた取り組み
 現在の政府は、「自助・共助」を人々に求めているが、公的責任を負うべき政府が求めることではない。「公助」が脆弱で貧寒なため、障害のある人たちは精一杯の自助・共助によって日々の生活を成り立たせているのが現実である。

 「自助・共助」を強調する背景には、経済は成長し続けるものだという、実態から目をそらした幻想があり、社会保障費の増大は経済成長を妨げるという考え方がある。そして、経済成長を目的として規制緩和し、あらゆることが市場原理の中に投げ込まれていく。卑近な例では、介護保険サービスから軽度者と言われる人たちが排除され、障害福祉サービスでも軽度者外しが画策されている。支援が必要ならば、お金を払って買うべしというのである。 障害者権利条約に定められている締約国の義務から大きく逸脱している。

 新型コロナの感染拡大の影響で、権利条約の国連での日本の審査が大幅に遅れているが、JDはJDFに加盟する各団体と協力しながら、パラレルレポートづくりに力を注いできた。外務省と協議の場も予定されている。建設的対話を重ね、日本の障害者施策を向上させていくことが期待される。JD政策委員会では、障害者施策の根幹ともいえる所得保障施策の検討を重ね、政策提言に向けて準備を進めている。基本政策だけにJD内部にとどまらない議論も必要となろう。

 障害のある人たちの権利を守る活動は、あまねく人々の権利を守ることに他ならない。JDの活動に共感する人たちを広げていく活動を推進したい。共感者を広げていくことが賛助会員の広がり、ひいては財政問題の解決にもつながっていく。集まること、つながること、行動すること、この三要素を基本に今後も取り組んでいく。


JDサマーセミナー2021

人権と優生思想 やまゆり園事件から5年、私たちに問われること



2021年5月の活動記録


連載 アートと障害者 No.8

創作つれづれなるままに
Momoca (アートビリティ登録作家)




JDのうごき JD第10回総会

 確かな羅針盤を持ち、活動のエネルギーを作って行こう




映画 闇の中から光を放つ犠牲者

-人間ドキュメンタリー 夜明け前のうた-
原 義和 (映画「夜明け前のうた」監督 フリーランスTVディレクター)




連載:優生思想に立ち向かう《24》-やまゆり園事件を問う-

障害者とジェンダー
藤原 久美子(DPI女性障害者ネットワーク)




連載 社会の「進歩」は人々を幸福にするか?6

アナログの世界に生きる人間
内田 邦子(日本障害者協議会理事)




トピックス・インフォメーション



連載 COVID-19のインパクト その10

東南アジア:マレーシアから 
Silatul Rahim Bin Dahman(マレーシア視覚障害者財団CEO)




連載エッセイ 障害・文化・よもやま話

第26回 優生思想に悩んだ障害者たち
―手術はどんな言葉で「奨め」られたのか(後編)―
荒井 裕樹(二松学舎大学准教授)




表3インフォ 

障害者自立支援法違憲訴訟団主催 シンポジウム
自助の強要は人権を脅かす! 国は基本合意を再確認し、骨格提言の実現を




賛助会員大募集中!
毎月「すべての人の社会」をお送りいたします。

■個人賛助会員・・・・・・・1口4,000円(年間)
■団体賛助会員・・・・・・1口10,000円(年間)
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▼お申し込みは下記JD事務局へメール、電話、FAXなどでご連絡ください。
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 日本障害者協議会
TEL:03-5287-2346 FAX:03-5287-2347

○メールでのお問合わせはこちらから office@jdnet.gr.jp
○FAXでのお申込み用紙はこちらから 【賛助会員申し込みFAX用紙】

※視覚障害のある方向けのテキストデータ版もございます。
※ご不明な点はJD事務局までお問い合わせください。



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