障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

21年5月21日更新

2021年「すべての人の社会」5月号

2021年「すべての人の社会」5月号

VOL.41-2 通巻NO.491

巻頭言 障害者VSヤングケアラーではなく

NPO法人日本障害者協議会理事
全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会本部スタッフ 藤木 和子

 2021年3月に厚生労働省と文部科学省の共同で「ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチーム」が立ち上がりました。

 「ヤングケアラー」とは、「若い介護や世話をする人(18歳未満)」。ケアの対象は、障害や病気などのある親や祖父母、きょうだい(幼い場合も含む)などで、ケアの内容は、家事や介護の他、見守りや感情面のケアも含まれます。本来は大人が担うケアを子どもが日常的に行うことにより、学校に行けない、宿題や勉強、睡眠の時間が取れない、自分の時間や友人と遊ぶ時間が取れないなど「子ども自身の権利」が守られていない子どものことを言います。

 中高生への実態調査によると、ケアをしている家族がいると回答したのは、中学2年生が5.7%、全日制高校2年生は4.1%。頻度は、ほぼ毎日が3~6割、平日1日あたり3時間未満が多いですが、7時間以上も1割。相談した経験はある、が2~3割、ないが5~6割、です。特徴的だと感じたのは、「1日4時間以上」ケアをしている場合でも、「やりたいけれどできていないこと」は「特にない」が半数以上、相談した経験が「ない」子どものうち「誰かに相談するほどの悩みではない」が6割以上だったことです。

 子ども本人が自覚なく現状を受け入れてしまっている状況、夢や希望、助けを求める、状況が変わるという発想すら持てないことが浮き彫りになりました。

 「ヤングケアラー」は新しく、広い概念です。学校生活や進路等にまで影響が生じている事例については言うまでもなく、緊急に支援が必要です。また、私のようにきょうだいに障害があり、一次的なケアラーは親で、自分は二次的なケアラー、親のサポート役(迷惑をかけない、困らせない、期待に応える、なども広い意味で含む)の場合も適切な支援が必要だと思います。

 最後になりますが、「障害者V Sヤングケアラー」ではありません。ヤングケアラー支援が進んでいるイギリスでは、障害等の当事者には福祉支援を受ける権利があり、自分の子ども、孫、きょうだい等に頼る必要はないこと、そして、ヤングケアラーには家族のケアを自分が担うべきでないという選択肢があることが明示されています。子どもも大人もすべての人がひとりの人間として自分の人生を生きていけるようにJDの皆様と一緒に考え、活動していけたらと思います。

視点 沖縄で生きた人たちが伝えていること

NPO法人日本障害者協議会常務理事 増田 一世

 「夜明け前のうた 消された沖縄の障害者」(監督・撮影・編集:原義和、制作:高橋年夫他)が上映されている。沖縄を舞台にしたドキュメンタリーだ。映画に繰り返し登場するのは、1960年代に東京から医療支援に出向いた精神科医が写した私宅監置(注)(海岸近くに設けられた小屋、うっそうと木が生い茂る中の小屋、立ち上がることもかなわない狭い空間)に閉じ込められた人々の姿だった。

 沖縄は第二次世界大戦の戦場になり、精神疾患の発症率は本土の2倍という時期があったという。さらに本土では1950年に廃止された精神病者監護法による私宅監置が、沖縄では1972年の本土復帰まで続いていたという。

 映像は、沖縄に残る私宅監置の小屋を映し出す。精神疾患を発症した人たち、あるいは視覚障害や知的障害のある人たちもその小屋で処遇されていた事実を伝え、人としての尊厳を奪われてきた実態を暴き出す。そして、もう1つのモチーフは「うた」だった。小屋の中で美しい歌声を響かせていた人は、自分の意志ではどうにもならない苦しい日々を歌うことで何とか過ごしていたのではないかと想像させる。

 映画を見ながら想起していたのは、私がやどかりの里(さいたま市で精神障害のある人たちの地域支援を行う団体)で出会ってきた人たちのことだ。その中の1人、堀澄清さんは北海道で生まれ、育ち、大学入学を機に東京に出てきた。その環境変化の大きさに精神疾患を発症する。二度目の入院をした札幌の精神科病院で、何の説明もないまま注射を打たれ、気づいたら全く窓のない畳の部屋で70人くらいの人がいる大きな病室だったという。初めは抵抗して何とか出たいと喚くが、「そうやると絶対に出してもらえないから静かにしないとだめだ」とほかの患者に教えられ、憤りの気持ちも失せ、絶望感に変わっていったと語る。治療らしい治療は全くなく、食事は鉄の扉の小さな窓から渡される、まるで囚人扱いだった。そこで3年間を過ごした堀さんは、幼少時の楽しかったことを追想することで自らを保っていたという。(堀澄清:統合失調症を生き抜いた人生、やどかり出版、2019)

 映画では、閉じ込められていた人たちの思いに迫ろうと取材を重ねる。そして、私宅監置の被害者の一人、金太郎さんの孫に出会う。この女性は祖父の存在を知らずに育った。父親に聞いても話をそらされ、この映画の取材の中で祖父の存在を知ることになる。金太郎さんに会うことはかなわなかったが、金太郎さんはお孫さんの中でもう一度生きたのだと思わされた。女性は、生まれ育った島を捨てざるを得なかった父親の苦悩にも思いを馳せる。

 この映画は、現代の抱える闇を映し出している。この闇は私宅監置にとどまらない。1996年まで存在した優生保護法によって子どもを持つことを認められなかった人たち、法律はなくなったが、障害や病気をもつ子どもを産むことを躊躇する社会は厳然として存在している。障害や疾病があると「かわいそう」といった誤った考え方が未だはびこっている。

 そして、いのちの選別が進む大きな要因は、私たちが生きる社会にある。働いて稼げることで一人前、人様に迷惑をかけずに生きなくてはならない……国のリーダーが自助・共助を求め、自己責任を強いる。そうした社会で私たちは生きている。

(注)1900年に公布された精神病者監護法では、精神病者に監護者(多くは家族)を定め、私宅監置室などに収容するとした。家族にも重い責任を課した。

2021年4月の活動記録


連載 アートと障害者 No.7

絵が街を走る
大塚 昌子(アートビリティ登録作家 おおつか りょう/母)




ESCAP

アジア太平洋地域における障害者雇用:その動向、戦略および政策提言
松井 亮輔(法政大学名誉教授)




連載:優生思想に立ち向かう《23》-やまゆり園事件を問う-

「やまゆり園」事件から受け取るもの
海老原 宏美(自立生活センター・東大和 理事長)




改めて「しょうがい」の表記を考える

佐藤 久夫(日本障害者協議会理事)




連載 社会の「進歩」は人々を幸福にするか?5

JR駅無人化訴訟までの経過と今後
五反田 法行(JR九州駅無人化訴訟原告・自立生活センターおおいた)




トピックス



連載 COVID-19のインパクト その9

東南アジア:タイから
Kaewkul Tantipisitkul(タイろう者協会第3副代表)




連載 第73回 私の生き方


近藤 史一(筑波技術大学4年)




表3インフォ 

JDサマーセミナー2021 人権と優生思想 
― やまゆり園事件から5年、私たちに問われること―




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