21年4月15日更新
VOL.41-1 通巻NO.490
NPO法人日本障害者協議会理事
一般社団法人日本作業療法士協会会長 中村 春基
2021年度がスタートした。今年は桜の開花が1週間以上も早く、入学式は葉桜のところが多いと思うが、従来の学びの環境での履修ができること切に願うばかりである。変異ウイルスの感染拡大の中、私の住む東京浅草の浅草寺付近は、海外からの観光客は減ったが、歓楽街は昼間から賑わい、国や都の掛け声が空しく感じる。その中で人権と尊厳を基盤とした世界平和の祭典、オリンピック・パラリンピックの開催は、きっと多くの感動を全世界に発信すると信じている。
さて、2021年4月に介護報酬が改定された。全体では0.7%アップの改定である。ご存知の通り、介護報酬は施設系、地域密着型、居宅系の3類型のサービスからなる。主な改定内容は、基本報酬、ICTの活用、認知症、看取り、医療・介護・在宅の連携と地域移行、自立支援などに関する項目が評価され、また、要介護認定情報・介護レセプト等情報(介護データベース)、通所・訪問リハビリテーションのデータ収集事業の情報(通称VIST)が、新たに科学的介護情報システム(通称Life)として運用されることになった。また、栄養・口腔、排泄、褥瘡、寝たきりの方の離床を促す自立支援加算等が新設された。
大きな流れとして、ストラクチャー(構造)、プロセスを明確にし、それをデータ化し、より適切なサービスにしていくという枠組みが示された。次回、改定においては、それにアウトカム(成果)評価が加わり、地域包括ケアシステムの見える化が進むものと思われる。
あと一つお伝えしたいのは、介護保険の安定的運用のために、介護サービス対象者を要介護度3~5にする施策がますます加速化していること。 それに伴い、今までの要支援者、要介護度1~2の方々は、自治体の総合支援事業、地域支援事業などでカバーされることになる。これらの事業はすでに取り組まれているが、自治体間での取り組みの温度差は大きいものがある。地域によっては、地域ニーズが活かされていない事業内容も散見される。従って、今後これらの事業の実態と課題を細かく精査し、JDとして国への政策提言を行なっていく必要があると考えている。
介護保険制度がスタートして21年、やっと介護の「質」について議論されるようになってきた。まずは施設系サービスの中での取り組みとなると思われるが、憲法、障害者権利条約、介護保険法の基本理念に則ったサービス内容であるかしっかり把握し、JDの活動に反映させていきたい。
NPO法人日本障害者協議会代表 藤井 克徳
優生保護法国賠訴訟にもっと関心を持ってもらいたい。なぜならば、その結果はこの国の障害分野の行方に多大な影響をもたらすからである。もし敗訴となるとどうだろう。国家をあげての大規模な悪事が何もなかったかのように封印されることになる。言い換えれば、「なんでもあり」という悪しき前例を社会に遺すことになる。逆に勝訴となれば、「人権に関わる重大な悪事には時間切れがない」という不文律を打ち立てることになる。裁判での勝利は、優生政策に猛省を迫るだけでなく、将来にわたる障害分野に関する悪事の抑え込みをも約束することになる。
もう一つ大事なことをあげておく。それは、優生保護法の成立年と施行期間から聞こえてくるメッセージである。成立の1948年から聞こえてくるのは、「新憲法下でなぜあのような法律が生まれたのか」である。「現憲法下でもあのような法律は生まれるんだ」と置き換えると一気に恐ろしくなろう。もう一つのメッセージは、「優生保護法は今を生きる多くの大人たちと同居していたんですよ」である。法が効力を持っていたのは1996年までの48年間である。そう言われると地続き感を抱く人は少なくないように思う。厳しい言い方をすれば、「知らんぷりはできませんよ」となる。
残念ながら、これまでの地裁の結果は甘くない。8つの地裁のうち、仙台、東京、大阪、札幌で敗訴が続いている。判決にはそれぞれ特徴があるが、重要部分で共通点がある。共通点は、「優生保護法は憲法に違反している」であり、一方で「除斥期間の壁はどうにもならない」としている。
ここにきて、優生保護法国賠訴訟の争点ははっきりしてきた。「除斥期間」の問題に絞られたと言っていい。「除斥期間」とは、民法の規定で(第724条後段)、不法な行為であっても、その行為が行われた日から20年間を過ぎると訴訟の権利を失うというものである。今般の争点は、この民法の規定を問うことではない。国家的な大規模な悪事を前にして、「除斥期間」を画一的にあてはめることの是非を問うのである。かつて法律家に、「実体が法律を著しく超えた場合に、実体の優先もあり得る」と聞いたことがある。実際にも、最高裁は、「除斥期間」の壁を凌駕する判例を出している。要するに、「事と次第によっては」という人権を護るための最終の仕掛けが備わっているのである。問題は、「事と次第によっては」の範疇に、優生保護法被害問題が含まれるかどうかである。
優生保護法がもたらした最大の問題は、2万5千人もの障害者に優生手術を強いたことである。犠牲者には特徴がある。「除斥期間」とぶつかる点と言ってもいい。主なものに、①無抵抗状態で手術、②手術痕の理由を知らされていない、③除斥の意味が理解できない、④負い目を感じる家族からの提訴はあり得ない、などがあげられる。また、これまでの判決は、起算点(不法行為のあった時期)を優生手術が行われた日としている。原告を含む被害者は、今も悔恨と辛苦に苦しんでいる。毎日が起算点なのである。
障害問題の本質を内包した優生保護法国賠訴訟である。問題の本質をいかに裁判官に届けるかである。届いたときに、「事と次第によっては」が近づくように思う。
私たちとして何ができるかである。障害に関する正確な考え方や情報を弁護団に託すのも問題の本質を届けることにつながる。裁判官の心を動かすという点では、傍聴や署名も有効である。支援運動の輪を広げ、何としても連敗をくい止めなければならない。
アートに生きて
秦 美紀子(アートビリティ登録作家)
東日本大震災を経験した私たちが伝えたいこと
佐々木 敦美(岩手県陸前高田市教育委員会)
HPV ワクチン薬害訴訟の経過と現状
酒井 七海(立教大学大学院 コミュニティ福祉学研究科コミュニティ福祉学専攻 博士前期課程
HPVワクチン薬害訴訟全国原告団代表)
クーデター後のミャンマーの障害者を想う
佐野 竜平(日本障害者協議会理事/法政大学現代福祉学部准教授)
「スマートフォン」が手放せない「すべての人の社会」について
結城 俊哉(立教大学コミュニティ福祉学部教授)
東南アジア:ベトナムから
Nguyen Thi Lan Anh(コミュニティ開発活動インスティテュート所長)
第25回 優生思想に悩んだ障害者たち
-手術はどんな言葉で「奨め」られたのか(前編)-
荒井 裕樹(二松学舎大学准教授)
《学生による企画》私たちは、"すべての人の権利が守られる社会"
実現へのキーパーソン ~相模原事件から考えるVol2~
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