障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

21年2月25日更新

2021年「すべての人の社会」2月号

2021年「すべての人の社会」2月号

VOL.40-11 通巻NO.488

巻頭言 混乱と危機をチャンスに変えて

NPO法人日本障害者協議会理事 中村 敏彦

 元日の早朝、以前よく釣りに出掛けた川越にある伊佐沼を訪ねました。元旦にもかかわらず釣りを楽しむ人がいて、時間を忘れて眺めてしまいました。そんな静かなお正月を過ごしました。

 2020年はコロナ禍に始まり、コロナ禍で終わったといっても過言ではなく、年を跨いでもなお勢いは留まりません。中国・武漢での原因不明の肺炎報道に、これほど社会と経済に打撃を与えるとは予測できませんでした。

 世界保健機関(WHO)がパンデミックと認定したのも最初の報道から3か月を経過した3月11日のことです。危機感の遅れや事前の備えが不十分だったために、現代社会・経済の脆弱性を浮き彫りにしました。目先の経済成長に集中するあまり、それを下支えする自然環境や人的資本の重要性を軽視し過ぎたのではないでしょうか。

 ウイルス発生の背景には、市場成果主義、すなわち大量生産・大量消費、グローバル化した経済活動による生態系の破壊が一因とも言われています。人類による自然界の破壊は野生生物の生態系に影響を与え、ウイルスから自然の宿主を奪ったのかもしれません。新型コロナウイルスの脅威は、私たちの健康が自然環境と密接に関係していることを示し、自然環境を大切にしなければ、自らの健康を守れないとの警鐘とも受け取れます。このことは、人の社会にも共通しているのではないでしょうか。社会全体の環境を大切にすることが自身の生活環境を守ることに繋がります。健全な経済活動は、安心・安全な社会環境の中でしか維持できないと思うのです。

 新たな生活様式の定着には相当の時間が必要ですが、一人ひとりの行動自粛をはじめとした社会全体の行動変容、そして、「もの」や「こと」の価値観の見直し、公益を守るべく国や公的機関の役割はさらに重要となります。限られた財源を最適に分配すること、また社会保障・福祉を優先させ脆弱な人々の命を守ることは国の責任です。深刻な状況の中、改めて一人ひとりの命の尊さを再認識し、さらなる被害を防ぐための適切な判断が問われます。

 この混乱や危機的状況を好機に捉え、社会全体の仕組みそのものを見直す良い機会になればと思います。そのような志のある組織こそが多くの国民に支持され、社会の回復に大きく貢献できるのではないでしょうか。福祉、医療、教育、経済などの分野を超えた協力・連携を通じて、新たな循環が生まれる転換点になれば、持続可能な開発目標を実現し、本当の成長を目指すことが可能になるでしょう。コロナ禍の経験によって、あらゆる分野の相互関係をもう一度見直し、すべての人にとって、より豊かな社会に生まれ変わることを切に願います。

視点 障害者が切り拓く社会 ~コロナ禍に想う~

NPO法人日本障害者協議会副代表 石渡 和実

 2020年12月12日(土)、「JD40周年 国際障害者年前夜からの40年をたどり、未来を展望する集い」というシンポジウムを、JDはオンラインで開催した。詳細は、この『すべての人の社会』の前号(No.487)に紹介されている。4人のシンポジストのお話を聞き、改めて障害者分野からの発信の重要性、社会的な意義を再認識させられた。

 思い出した、20年以上も前の体験がある。「立川駅にエレベーターを!」という運動を展開していた、故・高橋修氏による施設職員向けの研修である。当時、JRは「国鉄」と呼ばれる国直轄で、職員も「お役人」という臭いがプンプン、と感ずることが多かった。その職員に、こう言われたという。「高橋さん、この立川に車椅子の障害者が何人いると思うんです。駅を利用する人は、せいぜい10人ですよ。その10人のために、何千万円もするエレベーターを付けるなんて、そんな税金の無駄遣いを立川市民が許すと思いますか。」

 しかし、2000年に「交通バリアフリー法」制定され、今はほとんどの駅にエレベーターが設置された。そんな風に世の中が変わっていた頃、親しい車椅子の友人とこんな会話を交わした。彼が、「この頃、駅にベビーカーが増えたよね」と言うのである。確かにベビーカーだけでなく、コロコロところがすキャリーバッグも増え、お年寄りも車椅子を使うことに抵抗がなくなったようだ。駅はバリアフリーではなく、まさにユニバーサル化が一気に進んだのである。「障害者にとって暮らしやすい社会は、誰にとっても住みやすい」である。

 今、コロナ禍で「Stay Home!」が叫ばれ、緊急事態宣言下では「7割のテレワークを!」と政府も強調している。しかし、障害福祉分野ではもう30年も前から、通勤が難しい人の「在宅就労」が実践されている。オンライン会議が進む中で、「発言者はまず名前を名乗ってください」も当たり前になってきた。こんな会議のやり方も、10年前の障がい者制度改革推進会議で、様々な障害者が一堂に会する中で採られた手法である。まさに、障害者分野の取り組みが社会を切り拓き、誰もが安心して暮らせる地域を創り出しているのである。

 東京大学先端科学技術研究センター准教授の熊谷晋一郎氏は、当事者の視点から、最近、こんな発信をされている。「コロナで社会の側ががらりと変わったことで、みんな馴染まず、摩擦を感じるようになった。その意味で、社会モデルの観点からすると、『総障害化』が起きたのです」。いろいろな制約がある社会になって、誰もが困難や生きづらさを感じている。さらにくまがや氏はこう続ける。「多くの人が社会との間に摩擦を感じているということは、可能性としては仲間になれる。…ただ、コロナ禍で『総障害化』した結果、余裕がなくなることによって、他人のニーズを後回しにして、自分のニーズを先にするということも起きうる。だから分岐点です」(上東麻子ら『ルポ「命の選別」』313~314頁・文芸春秋社)。連帯へ向かうのか、それとも排除か。大きな分岐点に立たされている、とくまがや氏は強調する。

 "すべての人の社会"をめざしてきたJDにとって、障害者運動にとって、答えは考えるまでもない。40周年のアピール文でも主張している。「障害者を締め出す弱くもろい社会」から、「だれもが安心して生きられる平和でインクルーシブな社会」の実現である。「総障害化」のコロナ禍だからこそ、あらゆる人との連帯を強め、新しい社会をいかに切り拓いていくか、障害者運動の蓄積がより大きな意味をもってくるはずである。

2021年1月の活動記録


アートと障害者 4

絵と共に
大志田 洋子(アートビリティ登録作家)




ささえあい つながり わすれない 東日本大震災から10年

「なごみ」は紡み続ける
精神科看護師から万能看護師へ~大震災が教えてくれたこと~
米倉 一磨(こころのケアセンター「なごみ」センター長)




連載 優生思想に立ち向かう 《21》

やまゆり園事件を問う あなたに
宍戸 大裕(映像作家)




特別支援学校の過大・過密解消につながる 設置基準の策定を

佐竹 葉子 (全日本教職員組合障害児教育部)




連載 社会の「進歩」は人々を幸福にするか?

2. 利便性の追求で得たもの失ったもの
増田 一世(日本障害者協議会常務理事)




トピックス・インフォメーション・読書案内




連載 COVID-19のインパクト その6

東南アジア:ミャンマーから
Nay Myo Naing(ミャンマー自閉症協会・代表)




連載エッセイ 障害・文化・よもやま話 

第24回 優生思想に悩んだ障害者たち
 ―手術は『強制』じゃない?―(後編)
荒井 裕樹(二松学舎大学准教授)




表3インフォメーション

JD連続講座2020-国際障害者年40年-
障害者の権利はどこまで保障されたのか!
障害者権利条約・基本合意・骨格提言をにぎって離さない新たな運動を!




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〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 日本障害者協議会
TEL:03-5287-2346 FAX:03-5287-2347

○メールでのお問合わせはこちらから office@jdnet.gr.jp
○FAXでのお申込み用紙はこちらから 【賛助会員申し込みFAX用紙】

※視覚障害のある方向けのテキストデータ版もございます。
※ご不明な点はJD事務局までお問い合わせください。



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