障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

20年10月23日更新

2020年「すべての人の社会」10月号

2020年「すべての人の社会」9月号

VOL.40-7 通巻NO.484

巻頭言 忘れてはならないこと

NPO法人日本障害者協議会理事 内田 邦子

 ドイツやヨーロッパの各地に、「つまずきの石」が路の傍らに埋め込まれていることをご存じでしょうか。私は、まだヨーロッパへ旅したことがないので、実際に触れたことはありません。10センチ四方のコンクリートの上に真鍮のプレートが置かれ、生まれた場所、亡くなった年と場所などが深く刻まれ、ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の記憶をとどめるためのプロジェクトだそうです。1993年、ベルリン出身のドイツ人芸術家、グンター・デムニヒによって発案されたそうです。

 そのプレートは、収容所に移送される前にその人が最後に住んでいた家の前に埋め込まれ、今では、何万もの石が埋め込まれているそうです。その話を聞き、日常的にあの忌まわしい惨事を忘れないことへの戒めは、私たち日本人も見習うべきことだと深く感心しました。

 ホロコースト、どうしてそんなことができたのか。「国家社会主義ドイツ労働者党」いわゆるナチ党の党首であったヒトラーは、ドイツ国民という絶大なる支持者がいたのです。1933年3月23日、「民族および国家の危機を除去するための法律案」すなわち全権委任法を圧倒的多数で可決してしまいます。だから「ユダヤ人虐殺法」というとんでもない法律を制定することができ、「合法的」に600万人ものユダヤ人を虐殺することができたのです。

 「ナチス」が政権をとるべくとった選挙戦術が歴史の事実として研究されてきました。膨大な量のビラ、ポスター、飛行機を駆使した精力的な遊説、当時まだ新しいメディアであったラジオを使った演説の中継。それらが功を奏して、1933年1月30日、ヒトラーはついに首相の地位を手に入れ政権を取ったのです。ナチスは、『緊急事態』という建前で大統領令を出して、政府に都合の悪い勢力を不当に拘禁し、全権委任法を通すことによって独裁国家ができたのです。

 9月2日、安倍総理が引退しましたが、今後の日本は、どうなっていくのか、私は一抹の不安を感じています。かつて憲法改正に関して、「ナチスの手口に学んだらどうかね」と発言した麻生太郎副総理。そして、引き続き新しい政権の座に存在しています。菅新総理大臣は、この政権を引き継ぎ、「自助・共助・公助」を強く打ち出しています。私たち障害分野の立場から、この考え方は、とても受け入れがたいものです。

 再度、私たちは、この政権がやってきたことを、相模原市で起こったやまゆり園事件とともに決して忘れてはならないことだと思います。

視点 津久井やまゆり園事件は、今?

NPO法人日本障害者協議会副代表 石渡 和実

 9月16日(水)、菅義偉首相が率いる新内閣が誕生した。「国民のために働く内閣」を掲げており、ぜひ、「声が出せない国民」の思いもしっかり受け止め、コロナ禍の厳しい時代を進んでいってほしいと願う。8人の閣僚が再任され派閥配慮の内閣と評される中、法務大臣に上川陽子氏が任命された。あのオウム真理教の麻原彰晃をはじめ、最多の死刑執行命令を出した法務大臣である。植松聖死刑囚にも早い段階で死刑が執行され、「津久井やまゆり園事件は終結!」ということになってしまうのでは、という危惧の声が上がり始めている。

 こうした状況に敏感に応じたのか、毎日新聞の上東麻子記者らが9月5日から、有料会員限定のデジタル版であるが、「やまゆり園事件は終わったか?~福祉を問う」という連載を始めた。9月26日までに10回、さまざまな立場へのインタビューを行い、障害者福祉を多面的に分析し、今後のあり方を問う、まさに渾身の企画といった内容である。

 連載開始前の9月2日、やはりデジタル版で上東記者が「居室への長期閉じ込め」という見出しで衝撃的な写真を紹介した。津久井と同じ法人が運営する愛名やまゆり園で、コロナの影響もあって男性が長期間部屋に閉じ込められているという。写真では、男性の居室ドアの取っ手にガムテープがべったり貼られ、ミトンの手袋もはめられて自分ではドアが開けられない状況だったという。通報を受けて神奈川県が立ち入り調査に入ったが、愛名やまゆり園は1月にも職員による虐待が明らかになり県から改善指導を受けていた。日本障害者虐待防止学会の事務局を担当する曽根直樹日本社会事業大学准教授は、前の厚生労働省虐待専門官でもあり、虐待報道についてメーリングリストで情報を提供してくれている。連日のように悲惨な虐待について淡々と情報を流している曽根氏が、このガムテープの写真についてばかりは、「ひどすぎる事案」とコメントしていたのが印象的であった。

 上東記者らの連載は、元職員である植松死刑囚の犯行動機、裁判でも問題視された園の支援に関する黒岩知事の評価、虐待指摘に対する入倉園長のコメント、地域移行が進まない入所施設や家族の思いなど、多彩な人物への取材を通して障害者福祉の課題が浮き彫りにされている。厳しい現実に触れることになり、読み進めるのが辛くなる。しかし、入所施設を出て暮らす木村英子議員や知的障害者本人の会・ピープルファーストの小田島栄一氏の発言に救われ、瀕死の重傷を負いながらも重度訪問介護を利用し、今、アパートで暮らす尾野一矢氏の様子などに希望が持てる。

 2013年に入所児の死亡事故が起きた千葉県袖ケ浦福祉センターは、事件後の検証から関わってきた佐藤彰一国学院大学教授らの提言を受け、8月31日、センターの廃止が決定された。強度行動障害がある人に対しても入所施設による一極集中型の支援ではなく、それぞれの暮らしの場できめ細かなケアが必要との結論に達したからだという。神奈川県でも虐待報道などを踏まえ、知事の肝いりで7月29日、「障害者支援施設における利用者目線の支援検討推進部会」がスタートし、県立施設のあり方が検討されている。

 「津久井やまゆり園事件は終わっていない!」誰もがそう思っている。厳しい現実を直視しながら、障害がある一人ひとりの意思を尊重した支援について根幹から問い直すことが、今、事件を契機に始まっている。この流れを止めてはならない。多くの課題を踏まえつつ、障害がある人とともにあるべき姿を模索し、前に進んでいかなくてはならない。40年前のJD発足の時と、理念も、我々に求められる行動も、何ら変わってはいない。

2020年9月の活動記録


What's New! 視覚障害者のホーム転落事故を起こさないために

小日向 光夫(東京視覚障害者協会副会長)




JD40周年運動のあゆみ2

私たち抜きに、私たちのことを決めないで
―権利条約・基本合意・骨格提言を実現するために― 薗部 英夫(NPO法人日本障害者協議会副代表)




連載 優生思想に立ち向かう

第19回 やまゆり園事件を問う-意思決定支援とは-
赤平 守(NPO法人日本障害者協議会理事)




連載 VHO-net20年の歩み⑥つながっているからできること

ピア・サポート研究とVHO-net 伊藤 智樹(富山大学学術研究部人文科学系教授人文学部社会文化コース)




連載 「JD仮訳にみる各国の障害者政策」第9回

障害者権利条約とネパールの動向 佐野 竜平(日本障害者協議会理事/法政大学現代福祉学部准教授)




トピックス・インフォメーション



連載 COVID-19のインパクト第2回

南アジア:アフガニスタンから  Abdul Khaliq Zazai(アフガニスタン障害者アクセシビリティ連盟代表)




連載エッセイ 障害・文化・よもやま話 第22回

「隔離」は「大した問題じゃない」のか?
荒井 裕樹(二松学舎大学准教授)




表3 JD40周年 オンライン集会/シンポジウム
国際障害者年前夜からの40年をたどり未来を展望する集い



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